「男はつらいよ 幸福の青い鳥」 | MCNP-media cross network premium/RENSA

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「男はつらいよ 幸福の青い鳥」(1986)

 

 監督:山田洋次

 原作:山田洋次

 脚本:山田洋次 朝間義隆

 

 渥美清 倍賞千恵子 志穂美悦子 長渕剛 下条正巳

 三崎千恵子 前田吟 吉岡秀隆 太宰久雄 笠智衆

 

 

シリーズ第8作「男はつらいよ 寅次郎恋歌」(1971)で旅芝居の一座の座長の娘として登場し寅さんと交流のあった大空小百合というキャラクターをヒロインにしたシリーズ第37作。

 

この時に大空小百合を演じた女優岡本茉利は、その後も「男はつらいよ」シリーズに何度も客演していたようで、最後は「男はつらいよ 寅次郎春の夢」(1979)でも大空小百合役だったらしい。

 

ちなみに岡本茉利という名前に何となく聞き覚えがあると思ったら、後に声優として活躍したあの岡本茉利だった。

 

いずれにしても長年の「男はつらいよ」シリーズのファンの人には懐かしい名前だったと思うけれど、残念ながらこの頃の「男はつらいよ」シリーズはまったく観ていなかった。

 

本作でその大空小百合を演じるのは岡本茉利ではなく、アクション女優から演技派へ舵を切った頃の志穂美悦子だが、テレビドラマに続いてこの作品で共演した長渕剛と結婚を機に第一線を退いたため、事実上の最後の映画出演作品になった。

 

冒頭の寅さんの白日夢は、さくらたちと一緒に幸せの青い鳥を探す旅に出た寅さんご一行、半年経っていよいよ諦めかけたその時に青い鳥を見つけて…。

 

もう柴又に帰ろうという博に「お前はしあわせになりたくないのか」と問う寅さん。

「幸せは自分の手でつかむものなんですよ」と諭す博に「だからこの手で青い鳥を捕まえようと…」と返す寅さん。

 

このプロローグがこの作品の肝だった。

 

検札の車掌に起こされて目が覚めた寅さんは乗っていた列車を乗り越して萩に向かうという。

 

そしてオープニングタイトルに続く本編では下関の赤間神宮いる寅さん。

仲間のコンピューター占いの「南の方角にすばらしい出会いが待っている」という言葉を信じて九州へと渡る。

 

そこでかつて縁のあった芝居小屋で一座の座長が夏に亡くなったことを知り、今も娘が暮らしているという自宅を訪ね、志穂美悦子演じる大空小百合こと美保と再会する。

 

物語はその後柴又に戻り、とらやを訪ねてきた美保の結婚相手探しに奔走する寅さんと彼女が東京で出会った長渕剛演じる画家志望の青年健吾との恋愛模様が展開する。

 

そのまま最後まで柴又が舞台となるので、シリーズならではの旅情感はほぼなくなり、美保と健吾のやりとりもずいぶん薄っぺらく描かれている。


残念ながら全シリーズの中でもかなり低評価のようで、自分もそうだったがこの後のシリーズを観ても印象に残らない作品になってしまった。

 

「男はつらいよ」シリーズもこの作品のあとからネタ切れをささやかれるようになり全体的に終盤に向かっていく傾向が強くなる。

 

本編あとの恒例の寅さんの口上シーンに、まだブレイク前の有森也実が出演していた。

 

志穂美悦子はこの作品のあとテレビドラマを一本やっただけで、長渕剛との結婚生活を優先して女優業から身を引いてしまった。

 

その長渕剛もテレビドラマで演技が注目された直後の映画初出演。

この後ドラマ「とんぼ」のいわゆるチンピラ路線で人気を博すものの、さらに映画製作で工藤栄一監督と衝突したり、プライベートでの紆余曲折を経て、現在に続くカリスマ的なアーティストになっていくのだけれど、劇中ではハーモニカを吹き鳴らすシーンが挿入されたりして、辛うじてフォークシンガーとしての佇まいを残している。

 

なお劇中では甥っ子の満男が同級生のガールフレンドとデートするなど、以降のシリーズの展開を彷彿とさせる場面もあり、大空小百合の話といい、シリーズ全体の中ではキーとなる演出も多く見られる。

 

「男はつらいよ」シリーズは本作以降の新作はすべてスクリーンで観ていますが、自分としてはこの先の寅さんと満男の関係性がとても印象に残っています。

 

やっぱりお正月は寅さんです。

 

 2023.12.30 BSテレ東「土曜は寅さん!」O.A.