今日の絵ハガキ。
アセビのトンネル。
天城山。
去年、バンビちゃんとこのアセビのトンネルを歩いたな。
1973年81歳の一人暮らしの老人が、シカゴで亡くなった。
名前はヘンリー・ダーガー。
―生涯を平凡な掃除夫として終えた。
亡くなったと聞いて、跡片付けのためヘンリーの部屋に入った大家は、膨大な量の作品を見つけた。
誰に見せることもなく半世紀以上もの間、たった一人で1万5000ページもの小説と挿絵を描き続けた。死後、アウトサイダー・アートの代表的な作家として評価されるようになった。
大家さんがデザインなどを職業とする芸術家だったので、その作品の価値に気づいて、部屋ごと保存した。
並みの大家さんだったら、ゴミとして処理していただろう。
ヘンリーが生前に、部屋の中のものはすべて処分してくれと頼んでいたのだから。
芸術家は、認めてもらいたいと思うからあがく。
自分の才能に対する自信、それを疑う気持ち、たいていの芸術家は、その間を揺れているのではあるまいか。
ヘンリー・ターガーの場合、自分の楽しみだけで作品を作り続けた。
友人も家族もいない孤独な生涯だったが、自分の部屋に帰ると、そこには自分の作り上げた非現実の世界があった。
4歳になる直前に生母と死別。
8歳で父親が体調を崩したため救貧院で過ごすことになる。
15歳の時、父が死去した事を知ると、施設を脱走。
後は、低賃金の清掃の仕事をして生涯を終えた。
ある時点で、彼が亡くなるまで住んでいた貸間に移り、人生の残り40年をそこで過ごした。
近所の人達は、ダーガーのことを人付き合いが悪く、みすぼらしい身なりのホームレスみたいな男としか記憶していない。
わびしい現実を捨て、彼がそこに生きることを選んだもうひとつの世界では、心躍る冒険や大義のための戦争、清らかな少女たちの友情、そして神との格闘が繰り広げられていた。60年間、人知れず記した物語は1万5000ページを超えるタイプ原稿に巨大な挿絵が添えられていた。
ダーガーは自分が人をひきつけるような芸術作品を作っていたとは、たぶん思っていなかっただろう。
世界一長い小説を書いた人でもある。
なんだか漫画家の森安なおやのことを思い出す。
『18才3ヶ月の雲』を20年掛けて執筆していたが、未完のまま孤独死した人だ。