月光が差している
上半身の肌を露わにして、項垂れるように座る男の背中には
無数の矢傷や刀傷の痕
薄緑の衣を纏った少年がひらりと窓から入り込み
ストンと床に足を下ろすと
顔を寄せて男の背中の傷痕を確かめる
「また、増えたね。痛い?」
「痛いに決まってるだろ」
少年は腰に巻いた細い帯から床に届くほどの長い裾を軽やかに翻し、男の正面に回り込む
「まだ続けるつもりなの?」
「あったりめぇじゃん」
心配するのをやめた少年が笑い出す
「他の人たちなんて、一矢とか一太刀とかで永遠に倒れるぜ?」
「しょうがないだろ、何本も矢を受けて、何度も斬り込まれて、それでも起き上がるのが俺の仕事なんだから」
「主役級の人だけ不死身かと思うよね」
「痛いのはしっかり痛いんだけどな」
「主役級の人だけちょっと飛んだりするし、人間業じゃないってツッコミ入れたくなるよね」
ふう、と息を吐いた男が立ち上がり、次の仕事の為、白い衣の袖に腕を通す
錦糸で刺繍された帯を手にしたところで少年が止める
「あ、待って待って。薬を塗ってあげる」
袖口から取り出した膏薬を男に見せ、もう一度座らせると、白い衣を男の肩から下ろし、新しく増えた傷痕に塗り込んでいく
「痛い?」
「だから、痛ぇって言ってるじゃん」
「ふふっ。そういうさ、痛みに耐えてるみたいな顔も必要だしね」
「言ってろ」
「はいはい、よし、これでいいよ」
「さんきゅ」
「さかもとくん、頑張ってね」
そう言った少年の全身にも、同じような傷痕がたくさんあるのを、男は知っている
まだ続けるつもりなの?だと?
いつかお前にも言ってやる
男は口の端だけで小さく笑った