
ストレスがあるような、ないような。
そのことがストレスな毎日。
仕事も、妻も、母も卆なくこなすことができている。
何かが足りない。
こんな時は、メンバーを集めて女子会が一番。
「カラオケなんて、久しぶりだったわ」
「そうね、ずいぶん安くなってて驚いたわ」
「ひとりカラオケブースってあるのねー」
「今度、買い物帰り唄いまくっちゃおうかな」
「きゃー。さみしい人妻ー」
「うるさい」
雌鳥達が、ゆらゆら揺れながら歩いている。
「うぁ、もう店じまい?」
「遅くまでやらなくなったのね」
「しゃーない、みんな帰るべ」
めいめい、家路についていった。
久しぶりの女子会。
いつもスッキリというところだが、
まだ、モヤモヤが残ってる。
おそらくなにげない夫の言葉だったかもしれない。
「ママ、弁当のおかずは子どもと同じじゃ、辛いな」
おかずの不満への不服ではない。
夫からママと言われている自分に、気がついたからだ。
名前で呼んでいた夫が、いつのまにかママと言うようになっていた。
子どものいない時間なのに。
「家族なんだから、しょうがないわね」
ふと、看板の電球が切れかかっているのか
不規則に点滅するのが目に入った。
「こんなところにBar。ちょっと入ってみようかな」
いつもの自分では、考えられない行動。
今夜は、違っていた。
Openの表札のドアの前を、何度か行ったり来たり。
その行為だけでも、ドキドキしている。
思い切って、古そうな厚めの木のドアを開けてみた。
「いらっしゃいませ」
間接照明で薄暗いが、落ち着いた空気。
歴史を感じる、カウンターのみの狭い店内だった。
客は誰もいない。
躊躇して引き返そうと思ったが、おもいきって入ってみる。
入り口に近い、椅子に浅く座った。
「何にされますか?」
「え? あの・・こういった所はじめてなので・・」
「わかりました。じゃ、おまかせいただけますか?」
「あ・はい。お願いします」
バーテンなのかマスターなのか
声のビブラートが、私のひだに響く。
髭が似合っていた。
「スクリュー・ドライバーです。飲みやすいはずです」
オレンジ色が、温かく心を灯した。
「おいしい・・」
甘くジュースのようで飲みやすい。
男は黙々と作業している。
私は、会話をするでもなく姿を眺めている。
調子にのって、お替りをして
男のビブラートを感じている。
「お客さん。ゆっくり呑んでいただいて結構ですよ」
「ええっ。もう閉店でしょ? 悪いわ」
「いいんですよ。看板を下ろしますから」
「じゃ、もう一杯」
甘える仕草で注文してしまう、
自分ではないみたい。
「お客さん、このカクテルの名前、スクリュー・ドライバーって
ねじ回しのことってご存知ですか?」
「えっ? そうなの? なんでまた・・」
「昔、イランで働いていたアメリカ人が即席で作ったカクテルで
ねじ回しを使って混ぜたのが、名前の由来なんです」
「おもしろい、あはは」
トイレに立った時、足がもつれた。
そろそろ、引き上げないと・・
カウンターに戻ると、マスターの姿が見えない。
「?」
突然、頭の上から冷たいものが滴り落ちてきた。
「ひっ、冷たい。何?」
後ろから、男がコップの水を浴びせたようだ。
「お客さん、頭を冷やさなきゃ」
ビブラートの声が、私の全身を共鳴させた。
その時はじめて、覆っていた殻が音を立てて粉々にされた気がする。
おしぼりを口に咥えさせられた。
そのまま、カウンターに頭を押し付けられる。
「あっ・・」
男は、スルスルとベルトをはずし、
後ろ手にされた私の手首をかためた。
信じられないことだが、
私は腰をくねらせて、されるがままに、されている。
「んふっ」
私は、酒ではないものに酔っている。
「お客さん、スクリュー・ドライバーの別名を知ってるかい?」
後ろから、男を受け入れながら首を振る。
「レディーキラー」
本当の私は、この瞬間を待ち望んでいたのかもしれない。
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