ひとつ前のかどはさよならサヨナラ -21ページ目



音楽を信じつづけ
ピアノを信じつづけて
そいつは
海外に出た


別れの前に
そいつが長く続けたバーテンのバイト先で
平日だったけど
みんなが集まったんだ


カウンターに
オレオの山が出来た


そいつの大好物だったから


カウンターの中で
そいつは

あ~…おれ、
ここでまだ働き続けたくなっちゃうよ

って言いながら
そのオレオの山を見て笑った


【したい事】

【しなければいけないこと】


が、
全面的に一致する人間なんていないなぁと
それを眺めながら感じる僕がいた


0時ぴったり
そいつはカウンターから降りた

店の後輩従業員や僕ら友人・客達から
花束を渡した


えーー

そいつは花束を嬉しそうに受け取って胸に抱くと

手のひらで
顔を覆い隠した


泣いていた


ダメなんだよ
俺こういうの弱いんだ…


照れ隠しみたいに言うと、抱き慣れない赤ん坊を抱く時のような感じで
花束を抱えながら
カウンターに山積みされたオレオを口につめていた


自分のしたい事の代償として
何かしらカバー出来る部分より
あきらめなければならない部分の方が
年々大きくなっていってしまう

自分の周囲にあるモノなりヒトなりに
ある程度自分のフォーカスを合わせる


それが【生活】なんだと、僕は思ったんだ


そいつに別れを告げて
僕は深夜の大通りに出た

遠くから近づく光に気がつき
手をあげタクシーを止める

タクシーは、道端の何度も車輪に踏みつぶされたせいで

ペチャンコ

になった空き缶の上にタイヤを軋ませた


僕はその瞬間、もの凄く不思議な気持ちを覚えたんだ


手をあげただけなのに
どうしてタクシーは停まってくれるんだろぅ…

僕はそんな当然の事を
車窓の向こうを速いスピードで流れ去って行く
街灯の残骸を見つめながら

飽く事なく考えていた


おかしな事に
僕はその時点ですでに
防犯用のプラスティックの板の向こうで
丸まった背中を見せている運転手に

感謝の気持ちを抱いていた

感謝の気持ちは
どんどん膨れ上がり


僕はバーテンの友達の【姿】を思い出し
涙ぐみそうにさえなった

乗った時から降りた時まで


運転手はずっと無言だったんだけどね



綾香×コブクロ -  WINDING ROAD




初めての一人暮らしは中野だった


半分というか
完全に家出同然で飛び出した僕の手元には
何しろなにもなかった


でも不思議と不安もなかった


初めての部屋は

3畳一間
水場共同
トイレ共同
風呂なし
シャワー共同
玄関共同の
ほぼ一軒家多国籍だった


家というか寝床
そんな場所だったけど
自分で支払える家賃では
まぁこんなものかと
結構、すんなり受け入れられた

まだ給料というより
【小遣い】で暮らしていたような生活だった


ゴロンなんて
何にもない部屋で横になると
汚く低い天井を少し眺め続けた事を覚えている



隣にフィリピン人の男が住んでいて
仲良くなった


ただ豆腐とネギだけの味噌汁を作ったら
欲しがるから
半分コにした


そしたら


後日、部屋の前に冷えたフィリピンの簡単な家庭料理が置いてあって

紙切れに
きたねー字で

おれのも食べてくれ

って書いてあったから
遠慮なく食べたら
美味かった

全部食べたら
後から帰ってきたそのフィリピン人に

なんで全部食うんだ!?

と、怒られた(笑)


少ない皿やコップはお互い様で
先に口をつけさせてやろうという
そいつの優しさだった


当時は
PHSが生活の主流だったけど

そのフィリピン人の他にも仲良くなった
そこの住人達とは
置き手紙が全てだった


手紙


もらうと嬉しい

最近
母親に手紙を書いた
ついでに
甥と姪に手紙を書いた

書き出すと
楽しい

携帯メールともまた違うなぁと思う


あの頃、あそこの住人達からもらった
手紙は

今でも僕の財産だ


あの場所でなく
今あの時代を思い
僕はそれを胸に
呼び

またそれに別れを告げる


思い出と記憶


このふたつの違いは

たぶん


手紙と電話の違いに似ていると


僕は思うんだけど。。。



ZEEBRA - Do What U Gotta Do feat.Ai,安室奈美恵& Mummy-D



いい奴とばかり、出会ってきたな


そんな風に感じる事が時々ある


いい奴という
その【いい】に関するものさしは
人それぞれ違うけど
少なくとも僕は


凹んでいる人間が好きだ

そう、くぼんでいる人間

凹みには何かが溜まる

そうして溜まったものはいつか腐り
匂いを放つ

それがいい匂いであるわけはないけど
ただ、何の匂いもしない奴よりは

例え異臭であっても匂いのある奴が僕が僕は好きだ


そして
そんな奴らと起こった事は、みんなイイ事だと信じている

そう思いたい

そう思いたいと思っていれば
いつか
本当にそう思える日が来るような気がする


二十歳前の頃…

散々飲んだくれた
次の日の朝
目が覚めるとベッドやリビング、キッチンの所々に人間が転がっていた

ゴソゴソみんな起き出して

腹減ったなぁなんて勝手口々に苦笑いを馳せる


なんもねぇーな
なんて冷蔵庫を開けて愚痴るやつを背に

板の間からむくりと起き上がったひとりが
言った

あっ俺、食いもんあるわ


そいつは、這うようにして
投げ出された鞄までたどり着くと
中から赤い袋を取り出した

みんなで爆笑した

天津甘栗の袋だった

クリかよ(笑)

でも思いっきり笑い飛ばしたみんなも
赤い袋が開けられると結局ワラワラ寄っていった

欠食児童じゃねーだからよ

眺め笑う僕だったけど
真っ黒い小石のように見える栗が投げてよこされると

結局皮を剥き始めた

固ぇ~

これ何時買ったんだよ~

古いんじゃねーの


口々に言いながら
黒い味を口に放り込む


狭いスペースに人間が、ぎゅうぎゅう詰めになってるせいで
部屋の温度は冬のに妙に暖かった


結局、栗でモノ足りず
近くのファミレスに出かける事になって
ぞろぞろみんな外に出て行く

僕が最後に鍵を閉めていたら
横で1人僕のそばに残った奴が
言ったんだ

ぼそっと


ここにいたらダメになりそうだ…


僕は鍵穴に差し込んだ
鍵を回して
カチャッという音を聞くのが少し怖くて
何かを飲み込んだ


少ししてから
そいつは姿を消した

相変わらず今でも居場所はわからない

あの時、何て言い返したらよかったのかも
まだよくわからない

肌寒い朝をむかえる季節になると
その事を思い出す


ただ元気ならそれでいい



なぁ、。。。。


LOVE PSYCHEDELICO - last smile