#489 遺産分割と遺留分:遺産分割の最中に相続人が遺言を残して亡くなった場合 | サラリーマン弁護士がたまに書くブログ

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【 今日のトピック:遺産分割と遺留分 】

 

なんか今日もまた難しそうなテーマですが,少しずつ解きほぐして書いていきます。

 

さて,「遺産分割」とは,亡くなった人の財産を,相続人の誰に分配するのか決める手続きです。

 

誰も,自分が死ぬ瞬間がいつなのかわかりません。しかも,生きている限り,何かしらの財産(食費を工面するためのお金や,住むための自宅など)が必要です。だから,必ず,何かしらの財産を残して,人は死んでいきます。

 

死んだ後に残された遺産は,生きている人(=相続人)に引き継がれるわけですが,どの相続人にどの遺産をどれくらい決めるのか決める手続きが「遺産分割」です。

 

とはいえ,生きている相続人も,いつか死にます。当たり前ですが。

 

遺産分割は,「生きている」相続人に,亡くなった人の財産の配分を決める手続きですから,「生きている」相続人の,誰々さんに〇〇の遺産を配分する,という形で,最後は結論が出ます。

 

だから,例えば,ある男性が亡くなって,その人の相続人が,妻と子ども2人だとしましょう。

 

妻と子ども2人の合計3人で遺産分割を進めていたら,配分が決まらないうちに妻が亡くなってしまった,というケースを考えてみます。

 

この場合,妻も男性の相続人でしたが,妻は既に亡くなっているので,遺産を引き継ぐことはできません。

 

だから,男性の遺産は,子ども2人のみで引き継ぐことになり,子ども2人で遺産分割を進めることになります。

 

もちろん,妻が亡くなったことに伴い,妻についても,遺産分割する必要がありますが,妻の場合は,最初から相続人が子ども2人だけですから,子ども2人だけで遺産分割することは当然です。

 

遺産分割の途中で相続人が亡くなっても,残った遺産は,亡くなった人以外の「生きている」相続人のうち,どの人にどれくらい遺産を配分するか,というのを決めるのです。

 

亡くなった人に配分する遺産を決める,なんてことは普通ありません。

 

ただ,こんなケースにかつてぶつかったことがあります。

 

それは,ある男性が亡くなり,遺産分割を進めていたのですが(相続人は妻と子ども4人),その最中に妻が亡くなりました。

 

まあ,この場合,普通であれば,先ほど書いたように,夫の相続人でもあり,妻の相続人でもある子どもたち4人で,夫の遺産について遺産分割を進めればいいです。

 

妻が,夫の遺産分割で持っていた権利(相続権)は,亡くなったことによって,妻の相続人である子どもたちに引き継がれているわけですから,子どもたちが,妻から引き継いだ相続権をもとに,夫の遺産の配分について決めればいいだけです。

 

でも,今回は,ちょっと事情が違ったんです。

 

この妻は,遺言を残して亡くなりました。

 

子ども4人のうち,長男と二男にすべての遺産を相続させる,という遺言を残し,亡くなったのです。

 

さてさて,遺言を残して亡くなるのは,別に不思議なことではありません。

 

夫の遺産分割についてモメているのを目にした妻が,自分の相続ではモメてほしくないと思って,遺言を残すなんてことは,十分あり得ます。

 

でも,この場合,どう考えればいいのでしょうか。

 

遺言がなければ,妻が有していた相続権は,子ども4人に平等に配分され,この相続権に基づいて,夫の遺産分割を進めればいいだけです。

 

これが,遺言によって,長男と二男に「すべての財産」が相続されたのであれば,夫の遺産分割において妻が有していた相続権も,長男と二男にすべて渡っただけ,のようにも思えます。

 

でも,ここで「遺留分」が出てきます。

 

さて,「すべての財産を相続した」としても,「遺留分」というものがあって,遺言で財産を貰えなくなった相続人にも,最低限,「遺留分」だけは貰える,という仕組みになっています。

 

だとすると,「すべての財産が長男と二男に渡った」といっても,「遺留分」は渡っていないんです。

 

遺留分のぶんだけは,長男と二男以外の,相続人2人にも確保されています。

 

だとすると,妻が夫の遺産分割で持っていた相続権は,いったい,だれにどんな割合で配分されることになるんでしょうか?

 

「遺留分」というのは,遺産全体に対する割合で決まります。

 

ここでいう「遺産全体」とは,「妻の遺産全体」を意味するのですが,「妻の遺産全体」には,夫の遺産分割で持っていた相続権も含まれます。

 

でも,「相続権」といっても,その価値はどうやって算出すればいいのでしょう?

 

夫の遺産分割では,誰がどの遺産をどれくらい引き継ぐのか,まだ決まっていません。

 

「妻は,夫の遺産をこれくらい引き継ぎますよ」ということが決まっていれば,妻の「相続権」の価値も算定できますが,決まっていないのであれば,算定しようがないのです。

 

そうすると,「遺留分」といっても,どれくらいの遺留分があるのか算定できません。

 

その結果,「『遺留分』のぶんだけ,長男と二男以外の相続人にも妻の相続権が引き継がれた」といっても,どれくらいの相続権を引き継いだのか,全くわかりません。

 

そうなると,生きている人の相続権を確定できず,遺産分割できなってしまいそうです。

 

遺言がなければ,子ども4人が平等に妻の相続権を引き継いだ,という前提で,生きている相続人が,夫の遺産のうち,どれをどれくらい配分されるか決められるのですが,遺言があるばっかりに,決められなくなってしまうんです。

 

さて,この場合,どうやって考えるかというと,なんと,夫の遺産分割で,「妻が取得する遺産」を決めちゃうんです(笑)

 

妻は既に死んでいるのに,「妻が取得する遺産」を決めちゃう。なんか不思議ですが,そうするしかないんです。

 

妻は既に死んでいて,遺産を取得しようがないはずなのですが,夫の遺産のうち,妻がどれくらい取得するのか決めないと,その後の「遺留分」が算定できないので,妻が死んでいるにもかかわらず,「妻が取得する遺産」を決めちゃうんです。

 

そうすると,妻が取得する夫の遺産が決まりますが,そうすると,「遺留分」も算定できるようになります。

 

妻が元々持っていた財産に,夫の遺産から引き継いだ遺産がプラスされ,その結果,妻の遺産全体の金額が算出できるようになります。

 

こうやって,妻の遺産全体を算出した上で,その遺産全体が,遺言によって「すべて長男と二男に渡った」と考えます。

 

そうすると,「妻の遺産全体」に対して,遺留分の割合(法定相続分の半分,↑のように,子ども4人なら,8分の1)を掛けて,遺留分の金額が出ます。

 

【 まとめ 】

 

普通は,遺産分割で,既に亡くなった相続人が取得する遺産なんて決めません(笑)。

 

遺産分割は,亡くなった人の遺産を,「生きている」相続人に引き継がせる手続きなので,引き継ぎ先が亡くなっていたら,遺産分割の目的を達成できないからです。

 

しかし,遺産分割の最中に,相続人が遺言を残して亡くなった場合は,亡くなった相続人が取得する遺産を決めないと,遺留分を算出できないので,やむを得ず,亡くなった人が取得する遺産を決めちゃうんです。

 

そうやって,亡くなった相続人が取得する遺産が決まると,その遺産も遺言の対象になって,遺言に記載されたとおりに,配分が決まります。

 

この遺言によって,遺留分すら貰えなかった相続人は,遺言によってたくさん貰えた人に対し,「遺留分」を請求することになります。

 

遺言があるばっかりに,相続の処理がめんどくさくなってしまう珍しいケースですが,自分がいつ死ぬかなんて一生わからないので,こういった珍しいケースがあることを不安に思う必要はないと思います。

 

それではまた明日!・・・↓

 

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