#53 過払いの歴史 | サラリーマン弁護士がたまに書くブログ

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2019年7月にうつ病を発症したことをきっかけにブログを始めたサラリーマン弁護士が、書きたいことをたまに書いています。

「過払金」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。

 

「過払金」とは,その名の通りです。

 

「払」い「過」ぎたお「金」のことです。

 

だから,「過払金」と呼ばれています。

 

払い過ぎたということは,何か基準があって,その基準をオーバーしているということですが,その基準が利息制限法です。

 

利息制限法に定められている利息を超えて貸し付けて,借主が返済すると,「払い過ぎ」が起こるので過払金が発生します。だから,借主は,過払いとなった分(払い過ぎた分)を,貸主に返すよう請求できる。

 

過払金ってこういうことなんです。これだけ聞くと,すごく簡単な話です。

利息制限法を超えて,返済してしまった金額が過払金に当たるわけですから,このことを理解することは,そんなに難しいことではないと思います。

 

「利息制限法があるんだから,それを守って貸せよwww。利息制限法違反で貸してるんだから,過払金を返してもらうのは当然だろ」

こんなことを思う方もいらっしゃると思いますし,この主張は間違いなく正しいです。

 

ただ,疑問も浮かんでこないでしょうか。

 

「どうして利息制限法違反の利息で貸し付けたの?」

 

この疑問がすごく重要だと思います。だって,利息制限法違反で貸し付けたら,後で過払金として借主に返さなきゃいけなくなるわけですから,始めから,利息制限法の範囲内で貸せばよかったはずです。

 

「貸金業者はみんな悪徳で,利息制限法に違反して貸し付けていたんだ。弱い立場の借主は,貸主に言われるがまま利息制限法違反の利率で返済するしかなかったんだ。だから,過払金が発生したんだ。」

 

こんなことを考える方もいるかもしれません。

 

しかし,いくら「悪徳」だったとしても,法的なリスクを考えない貸金業者は,ヤミ金ぐらいでしょう(ヤミ金も,どうやって商売を続けるかということは考えているでしょう。)。テレビCMもたくさん打ち出していた消費者金融が法的リスクを考えなかったとは,なかなか言えないのでしょうか。

 

実は,端的にいうと,利息制限法違反の利率で貸し出すことが許されていた時代があったんです。

 

今回は,このことをメインに,過払金の歴史についてお話したいと思います。

 

そもそも,過払金が法的に認められたのはかなり古いです。

 

1968年の最高裁判決で,既に,利息制限法所定の利息を超えて返済を続けた場合に,過払金を請求することが認められています。

 

ここで,もう少し過払金について説明すると,お金を借りると,特に消費者金融からお金を借りた場合は,毎月少額ずつ返済しますよね。例えば,50万円借りて,毎月1万円ずつ返済するというパターンです。

ただ,当然,50万円借りたら50万円だけ返せばいいというわけではありません。

利息を付加して支払う必要があります。

 

その利息の上限が,利息制限法に定められているわけです。

10万円未満までの貸付なら,年利20%が上限です。

10万円以上100万円未満なら,年利18%が上限です。

100万円以上の貸付なら,年利15%が上限です。

 

先ほどの例で,毎月1万円を貸金業者に返済するのですが,その1万円のうち,返済したお金は,元本を減らす部分と,利息に充当される部分があるわけです。その結果,利息を払いつつも,元本(50万円)も減っていくわけです。その結果,最終的に元本の分まで全額返済したら,「完済」ということになります。

 

しかし,利息制限法違反でお金を借りて,返済を続けていくと,そのうち,利息制限法の利率に従って計算すると,既に元本まで全部返済してしまっているのに,返済が続いているという事態が生じるわけです。

なぜなら,利息制限法違反とはいえ,契約上は,まだ元本が残っていて,その元本をもとにして利息が発生しているため,その分の返済を貸金業者が請求してくるからです。

 

こうやって,過払金が発生するわけです。

利息制限法に従って計算し直すと,既に元本まで全部返済できるだけのお金を貸金業者に払っているのに,契約上はまだ元本が残っているので,貸金業者が請求してきて,それに応じて払ってしまう(あるいは,口座引落しで自動的に引き落とされ,返済されてしまう)。その結果,利息制限法の利率以上に,貸金業者に支払ってしまい,過払金が発生するわけです。

 

ただ,こうやって発生した過払金は,貸金業者に返してもらえるのですが,このことは,先ほど書いたように,1968年の時点で,最高裁で既に認められていたのです。

 

今から52年も前に,既に過払金を返さなきゃいけないことは,「法的に」明らかでした。

 

じゃら,1968年以降,過払金は発生しないはずですよね。

なぜなら,利息制限法を超えてお金を貸してしまうと,法的に,後から過払金を借主に返さなきゃいけなくなるわけですから,最初から利息制限法を守った利率で貸したほうが,後で過払金を返すという手間が出てこなくて,経済合理的だからです。

 

いくら貸金業者が悪徳であったとしても,法的に負け戦となることが見え透いている,利息制限法違反の貸付けは大々的に行わないはずです。

 

しかし,実際は違ったんですね。

 

実際は,この判決後も,利息制限法を大幅に超える貸付けが横行していました。

刑事罰になる利息は,当時年利109.5%だったので,年利70%を超える貸付も,実際に行われ,執拗な取立が繰り返されていました。

 

おかしいですよね。

 

こんな利率で返済していたのであれば,当然,利息制限法の利率で計算しなおせば,過払金が発生しているでしょうから,取立てに怯える必要はなくて,逆に,過払金を払ってもらえばいいはずです。

 

しかし。

 

過払金を返してもえなくなる立法がなされてしまっていたのです。

 

1983年,いわゆる「みなし任意弁済」が認められるための要件が盛り込まれた「貸金業の規制に関する法律」が成立しました。

 

この法律には,概略,

 

この法律で定めた要件を満たした場合,利息制限法所定の利率を超えて返済した場合であっても,「任意の弁済」と「みなされ」,その結果,過払金が請求できなる,

 

ということが書かれています。

 

え?

 

「過払金請求できなくなる」・・・・?

 

もう1つ付け加えると,↑の法律は,貸金業者による被害(厳しい取立て,高利率)を受けて成立したものです。

 

・・・?

(救済になっていない・・・)

 

せっかく,1968年の最高裁判決で過払金請求が認められたにもかかわらず,1983年に,「みなし任意弁済」という逃げ道を残す法律が成立してしまったのです。

 

そうなると,当然,貸金業者は,「みなし任意弁済」だという主張をしますよね。

 

借主側が,過払金を請求したとしても,利息制限法の利率を超えて返済した分が「みなし任意弁済」と認められれば,法律上,過払金が請求できなくなるわけですから。

 

ここがこのブログの肝です。

 

過払金が最高裁で認められた1968年以降も,利息制限法所定の利率を超える貸付が行われていたのは,1983年の立法により,貸金業者が借主の過払金請求を封じる法的な根拠を持ち合わせていたからです。

 

ただただ悪徳だったからじゃないんです。貸金業者も,過払金を払わなくてよい「法律上の根拠」があったから,利息制限法の利率を超えて貸し付けていたんです。

 

ここまでの話だと,じゃあ,過払金を請求できるかどうかというのは,「みなし任意弁済」の要件が満たされるかどうかに左右されるということになりそうです。

 

「みなし任意弁済」と認められれば,過払金請求できなくなるし,

「みなし任意弁済」と認められなければ,過払金が請求できる

 

実際に,「みなし任意弁済」が認められるかどうかが争いになっていたようです。

今となってはだいぶ昔のことなので,僕も実体験は全くありませんが,「みなし任意弁済」というのは,書面の交付やその書面の記載内容が要件となっていたそうです。

なので,争い方としては,「書面の交付がなかった」とか「記載内容が不十分」などだったそうです。

 

ただ,僕の素朴な考えとしては,貸金業者側も,そういった反論の余地を与えないよう,書面の記載内容は十分吟味するでしょうし,書面を交付した証拠も,保全しておくでしょう。

そうすると,「みなし任意弁済」があったかどうかの争いは,借主側にとって,かなり厳しいものだったと思います。

 

実際,過払金事件は,苦労が多い割に,その苦労が実らないことが多かったようで,一部の良心的な弁護士が行っていたに過ぎなかったようです。

 

しかし,2006年,とてつもない転機が訪れます。

 

最高裁が,「みなし任意弁済」の適用を排除したのです。

つまり,貸金業者が「みなし任意弁済」であること理由に借主の過払金請求を封じることができなくなったのです。

 

(もう少し詳しく説明すると,「期限の利益喪失約款」=「返済期限までに返済しないと,残額一括返済になるよ」という約款がある場合は,返済を事実上強制されることになるから,「みなし任意弁済」とはならない,という理屈で,最高裁は,「みなし任意弁済」の適用を排除しています。その結果,ほぼ全ての貸金業者は,期限の利益喪失約款を設けているので,過払金請求を拒むことができる貸金業者はなくなったということです。)

 

この2006年の最高裁判決以降,それまで一部の良心的な弁護士しか過払金請求をやっていなかったにもかかわらず,過払金事件が一大ブームとなります。

 

なぜなら,2006年の最高裁判決まで,「みなし任意弁済」を盾に,利息制限法の利率を超えた貸付けが行われていたため,それまでの貸付けの全てに,過払金が発生する可能性が出てきたからです。

2006年の最高裁判決は,この判決以前の貸付けであっても,「みなし任意弁済」の適用が排除されること(最高裁判決の判断が及ぶこと)も述べていたので,過去の貸付け全てが,宝の山になる可能性が出てきたです。

 

(ちょっと補足ですが,過去の貸付け全てに過払金が発生するわけではありません。利息制限法の利率で計算し直してみると,元本を全て返済する以上に返済していたことが明らかになった場合にのみ,過払金が発生します。ざっくりいってしまえば,それなりの金額を返済していないと,「払い過ぎ」にはならず,過払金は発生しないということです。)

 

これが過払金の歴史です。

こういった経緯で,2006年以降,「過払金」というワードが一般的にも浸透してきました。

 

2006年の最高裁判決で述べられたことが,今でも,過払金請求の根幹となっています。

 

2006年以降,過払金はブームとなりましたが,とはいえ,過払金請求は,時効があります。

最後に返済した日から10年です。

この時効もあって,現時点では,既に,過払金事件のブームは去っています。

というか,今となっては,過払金ブームはだいぶ昔のことです。

 

2006年の最高裁判決以降,貸金業者も,利息制限法の利率を超えて貸し付けることはなくなりました。

僕が弁護士になったのは2017年ですが,利息制限法違反の貸付けは見たことありません。

 

今では当たり前となっていることにも,当たり前ができるまでの歴史があって,そのために戦った人たちがいるんですよね。

 

今回は,「過払金」という常識に疑問を持って考えてみようという話でした

 

最後に暴露すると,今日のブログには元ネタがあります。

この記事です。

 

伊東先生のホームページは,この他のページもとても勉強になるので,頻繁に参考にさせてもらっています。

そのため,今回は,過払金のページを,僕なりにわかりやすくまとめてみました。

 

↑の伊東先生のブログは,めちゃくちゃ勉強になるので,おすすめです。

 

それでは,また明日。

 

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