最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦 -35ページ目

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

「じゃあさ、まずは俺達で使ってみようぜ!」

「そ、そうだよ。大事な首脳会談でぶっつけ本番てのは不味いよね。
僕たちが実験台になってさ…。」
わかってる…。誰だってブルーキャットの未来技術があれば使いたくなるのは当然よ。
世界平和の為にと言いながら、三人の男性は、

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「ムード盛り上げ楽団」で、自分にどんな効果が現れるか試したくなっていたのだ。

ラッパと太鼓とヴァイオリンで三体だけのミニロボット楽団だけど、彼らの奏でる音楽を聴いた者達は、自分の本心がより強化される。
本来は、試合やプレゼンテーションなどの「大舞台で成功するBGM用ロボット」として開発されたのだという。
しかし、これを使用した者は、成功を願うよりも、不満をぶちまけることが先行した者が多数居るという。
プレゼンの席で商品の素晴らしさよりも、報酬や今後の引き抜き話に終始したり、スポーツの試合では勝利よりも監督の采配を公に批判する選手も居た。
そう、これは決して「ウソが上手くなる機械」ではないのだ。
それを理解してるのかしてないのかに関係なく、使用することを躊躇わない周音(スネ)夫さん、武(たけし)さん、英才(ひでとし)さん。
社会人としてそれぞれ立派になられても、どこか皆が少年のままだなぁなんて。

そして私も迷いなく四次元ポケットから最後の道具としてムード盛り上げ楽団を出した。三体の起動スイッチを押した。
一番怖がってたのは私かもしれない。
私の中の奥底にある本心が強化されるなんて…。
演奏された曲は、ショパンとベートーベンの名曲をアレンジしたようなクラシックぽくないような曲だった。
切なさを前面に出しながらも、力強さと達観した様な安らぎを表現したような旋律だった。

皆が聞き入る中、真っ先に沈黙を破ったのは武さんだった。

「俺さ、このムード盛り上げ楽団をバックにリサイタルしたことあったんだ。
でも結果は大失敗だった。唯一最後まで聴いてくれた先生は倒れちまったよ。
おかしいよな?『観衆を感動させたい』って気持ちが強化されるなら、拍手喝采なのに…。今になってわかるよ。俺は自分を大きく見せたかっただけなんだな…。」

「ジャイアン、静香ちゃん、出来杉。今からでも伸太に会いに行こうぜ!」

「僕も同じだ。一言、バカヤローて言ってやりたいよ」

英才さんまで。
私も…会いたいです。

「いよいよね…。」

「あぁ、いよいよだな…。」

「私一人の力ではここまでたどり着けなかったわ。本当にありがとう。」

インドで実施される日米印の三ヶ国会談。
そしてその晩餐会で私が開発した「21世紀版・ほんやくコンニャク」

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が出されることも決定した。

その為に外務大臣以上に交渉してくれた出来杉防衛大臣。

その出来杉さんを説得?してくれた副大臣の剛田武さん。

私に研究の時間と資金とスタッフを提供してくれた骨川周音夫社長。

私と幼少期を過ごした三人の男性が遂にインドに揃った…。

ただ…。

「静香くん、野比くんが気がかりなのは解るが、もう諦めようよ!
彼には守るべき家族があるんだから!」

「出来杉の言うとおりだぜ!俺も逆の立場なら、家族と村の為に、『世界平和なんかどうでもいい』ってなるかも知れないっつーの!」

「わかってるわ武さん、英才さん!
別に私達側に協力してほしいとかじゃなくて…。
伸太さんには窮屈に自分の本心を押し殺してほしくないのよ…。」

「ねぇ、静香ちゃん。それって首脳同士の話し合いの問題点でもあるよね。
いくら通訳なしで会話出来ても、本心を語るとは限らないって。
じゃあさ、静香ちゃんの鍵でさ、ドラえもんのポケットを使って『素直になれる道具』とかってないの?」

「それだ!流石、周音夫!悪知恵だけなら出来杉より賢いぜ!」

「酷いなジャイアン!悪知恵って」

「確かに私が使える道具は3つ。
最初に伸太さんを探す為の『尋ね人ステッキ』。そして本物を開発見本として使用した『ほんやくコンニャク22世紀完全版』。
あと一つ残ってるわ…。」

「素直になれるか…。そんな道具あるの?」

何故かその時、私は一つの道具を鮮明に記憶していた。

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「ムード盛り上げ楽団」よ。

それはその状況下で最適な音楽を奏でてくれるバンドロボット。
その音楽の効果は絶大で、明るい曲で嬉しくなり、悲しい曲で寂しさは倍加する。
でも、「心から望むことを迷いなく実行させること」が出来るのだ。

当時、「勝ちたい」と強く願った伸太さんは、自分の拳だけで武さんに勝ったこともあったわ。秘密道具でズルしたのとは明らかに違う。
気持ちが強くなっただけで、身体は変わってなかったんだから。
(続)
「じゃあな、静香!世界平和や世紀の大発明もいいが、自分の幸せを考えな!」

自分の国の大使館の到着したエムポパさんは、去り際に私に言葉を残した。

「何よりも自分自身に忠実であれ」

と。そしてこれは伸太さんの親友=ブルーキャットの言葉ではなく、自分の祖国に古く伝わる言葉だと念を押された。
そして…。

「静香、君がここに来なければ、俺は母国の幼友達をインドに呼んで家庭を作る決心なんてしなかったさ!」

と告げた…。

エムポパさんは…伸太さんとまる代さんの間で揺れ動く気持ちがあったのかなぁ…?
それが私の出現によって、伸太さんはまる代さんと二人で、捨て子のプサディーちゃんを育てる覚悟をして…。

じゃあ…私の気持ちは?…何の障害もなければ伸太さんの気持ちは…?

私…馬鹿だ…。ほんやくコンニャクで相手の言葉が解ったとしても、相手が心の内を話すとは限らないことに今さら気付くなんて…。

****
「源さん、源静香さん、では次の質問いいですか?」

インドの日本大使館に到着した私は、職員達からの矢継ぎ早の『尋問』に上の空で答えていた。
伸太さんの気持ち以上に、私自身の本心を知る方法はないものかと考えながら聞いてたからだ。

「は、はい!すみません、ええと…。」

「このほんやくコンニャクという大発明の経緯は理解出来ました。
では…そもそも貴女は何故、インドに?クリシュナ教授との出会いはその後なのでしょう?」

各省庁の質問攻めは想定していたが、この「雁野(かりの)」という名札を付けた大使館職員はとにかく執拗に感じた。
公職に就く者らしからぬ髪型は、ほぼ目を隠すほど長く、陰気な雰囲気だった。
「はい…。最初は…インド在住の友人に会いに行ったんですが…。
その彼が経営する農園のイモがほんやくコンニャクの材料となって…。」

「それは素晴らしい!インドで芋を育てる日本人と、その芋でコンニャクを作った日本人女性!
これは素晴らしい晩餐会になりそうだ!
そうだ!世界平和の足掛かりは我が外務省だ!
決して出来杉の手柄なんかじゃない!」

「出来杉?あの…貴方は出来杉防衛大臣と何か…?」

「すみません、独り言ですよ。
そうだ、是非とも晩餐会に、その芋農園を経営する日本人男性も招待したい!」
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私は、この大使館職員もかつてのクラスメートだったことを思い出せなかった