自分の国の大使館の到着したエムポパさんは、去り際に私に言葉を残した。
「何よりも自分自身に忠実であれ」
と。そしてこれは伸太さんの親友=ブルーキャットの言葉ではなく、自分の祖国に古く伝わる言葉だと念を押された。
そして…。
「静香、君がここに来なければ、俺は母国の幼友達をインドに呼んで家庭を作る決心なんてしなかったさ!」
と告げた…。
エムポパさんは…伸太さんとまる代さんの間で揺れ動く気持ちがあったのかなぁ…?
それが私の出現によって、伸太さんはまる代さんと二人で、捨て子のプサディーちゃんを育てる覚悟をして…。
じゃあ…私の気持ちは?…何の障害もなければ伸太さんの気持ちは…?
私…馬鹿だ…。ほんやくコンニャクで相手の言葉が解ったとしても、相手が心の内を話すとは限らないことに今さら気付くなんて…。
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「源さん、源静香さん、では次の質問いいですか?」
インドの日本大使館に到着した私は、職員達からの矢継ぎ早の『尋問』に上の空で答えていた。
伸太さんの気持ち以上に、私自身の本心を知る方法はないものかと考えながら聞いてたからだ。
「は、はい!すみません、ええと…。」
「このほんやくコンニャクという大発明の経緯は理解出来ました。
では…そもそも貴女は何故、インドに?クリシュナ教授との出会いはその後なのでしょう?」
各省庁の質問攻めは想定していたが、この「雁野(かりの)」という名札を付けた大使館職員はとにかく執拗に感じた。
公職に就く者らしからぬ髪型は、ほぼ目を隠すほど長く、陰気な雰囲気だった。
「はい…。最初は…インド在住の友人に会いに行ったんですが…。
その彼が経営する農園のイモがほんやくコンニャクの材料となって…。」
「それは素晴らしい!インドで芋を育てる日本人と、その芋でコンニャクを作った日本人女性!
これは素晴らしい晩餐会になりそうだ!
そうだ!世界平和の足掛かりは我が外務省だ!
決して出来杉の手柄なんかじゃない!」
「出来杉?あの…貴方は出来杉防衛大臣と何か…?」
「すみません、独り言ですよ。
そうだ、是非とも晩餐会に、その芋農園を経営する日本人男性も招待したい!」

私は、この大使館職員もかつてのクラスメートだったことを思い出せなかった