「アインちゃんとこに行火があるら」
「ない」
「前に貸してやっつら?」
「それは小学生の時の話」
菩薩の義母とアイン。
このやりとりはすでに10回を超えている。
毎回気長に同じセリフを繰り返すアインに感心しつつ鍋をつつくあたしだ。
しゃぶしゃぶは豚に限る。最近だと「豚しか勝たん」と言えばいいのだろうか。
さすがにアインもゲンナリしたのか「おばあちゃん。俺を何回も泥棒扱いするのやめてくれない?」などと言いだした。
気持ちはわかる。借りてもいない行火を何度も何度も「お前に貸した」と断言され、その度に否定し続けなきゃいけないってのは確かにお辛いことでしょうよ。
しょうがない。いつもなら黙っているけれど今日は救済しましょうか。
「ねえ。行火をなんで必要なの?」
「寒いもんでな」
電気毛布を強、いや ダ ニ 退 治 マ ー ク で使っているじゃないのさ。
「電気毛布が壊れとる」と言うので見に行ったけど…めちゃめちゃ熱いじゃないですかww
「手を入れてごらん」と言えば「わあ!あったかいねぇ」と言うのだけれど。
「んじゃ足を入れてごらん」と言えば「何にもあったかくない」と…そりゃ足が壊れてるんだね←
「電気毛布がこれ以上頑張れない!程頑張ってても足が感じてないんだよ」
それに、電気行火はコードがボロボロになっていて い つ で も 発 火 O K 状態だったのだ。
何度も何度も説明してその度納得はするんだけどね…忘れちゃうのはしょうがないね(トオイメ)
「つか。靴下はいて寝てるの?」
「履いとるに。これ」
ズボンをまくり上げて見せてくれたら納得した。なるほど。ああ。そりゃ無理だわ。
長いパッチは上にずり上がり、毛糸の靴下は下にずり下がり。
ど う も 足 首 で す ! こ ん ば ん は ! !
一番冷やしちゃいけないところが丸見え!なるほどザワールド!はい!消えた!
菩薩の義母の誕生日には毎年足首ウォーマーをプレゼントしているのだが、なぜか部屋には一つもなかった←
おかしい。最低でも5つはありそうなもんだが…1つもなかった←
「これを貰ったけえど、ワシは使わんで貰ってくんりょ」
姪っ子に嬉々として差し出す姿が目に浮かんだけれど、プレゼントした後は菩薩の物。
誰にあげようが、捨てようが菩薩の勝手だ。肝心なのはないってその部分だけ。
あーもーあたしだって3つしかないんだぞ!
この時期乾かないから洗い替えで3つないと回らないんだぞ!←
「足が冷えるときはくるぶしを温めなきゃ駄目ね。くるぶしの横に太い血管が走ってるから、そこを冷やすとどれだけ足の裏を温めたって無駄。無意味」
昔から【首と名のつくところは冷やすな】ってのは正しいのでございます。
もこもことダルマほど着こんでいる菩薩だけれど、肝心なところは丸出しだったってわけ。
足を出してごらん?とずり上がったパッチを下に下げ、明後日の方を向く毛糸の靴下を上に引き上げ…その上から足首ウォーマーで固定して。
「ビックリするほど温かくなるからもうちょっとそのまま待っとりな」
そう言いながら豚肉を菩薩の器に放り込む。
3秒で「はれえ!もんのすごくあったかいなぁ」などと言いだすのでポン酢で咽て。
「首は大事なんだな」とアインが本気にするのでとうとう噴出しちゃった。
3秒では温まりませんが思い込みってのは最大のお薬なので黙っていよう。そうしよう。
「お風呂沸いてるからアイン先に入っていいよ。大事な首をよーく洗いなさいね!!」
「おかん。それ…意味合いが違うんじゃね?」
そこには気が付くのか。ちぇ。でも語源には近いのかも。
【首を洗って待ってろ!!!】
日本人ならすぐさま理解するこの文言。最初に言ったのは徳川家康なの。
「明日は一戦あるなというような時には、首をよく洗っておけ。武士たるもの生きている時は鬼神のように戦い、死しては誉を永遠に残すよう心掛けよ」
あんたも武士でしょ!よーく洗っておきなさいね!
「俺は武士じゃないけど…まあ、洗っておくわ…うん」
数時間後。
トイレに起きてきた菩薩に「足はどう?」と聞けば「電気毛布が直ったんな!どえらいあったかいもの」なんて言うw
でしょうとも。温める場所ってのがあるのよ。肝心なのは首!
首は電気毛布も直すパワーがある!!!(わけではありません)
Amazonで足首ウォーマーをポチポチしながらニヤニヤしちゃう。
そんな真夜中の記憶の欠片。