3月31日(土)
今日はプロジェクト・アブロードの活動の一環として、
他のボランティアと一緒にNGOが主催するマーケットに行き、
ランチをとることになっている。
集合場所のメキシコのラビ・シェベルホテルに少し早めに行き、
ホテルのワイファイを借りて、メールのチェックとブログの
アップをする。
NGOのマーケットは外国人がとても多く、ここがあのアジスに
いるということを忘れるくらいだ。こんなところがあったのかと
驚いてしまう。白人、中国人、日本人?がこの街にこんなにいたのか
と思うくらいに、きれいな車で乗り付けてくる。
おそらく、大使館やユニセフの職員の家族なのだろう。
なにしろ、ここアジスアベバのイギリス大使館、アメリカ大使館、
フランス大使館などはびっくりするくらい広くて、きれいで、鉄条網
がはられていて、外から見る限りまったくの別世界のような気がする。
それはそうと、このマーケットでは地元でいろんなNGO活動をしている
団体(障碍者団体、子供の就学支援をしている団体、森林保護の活動を
している団体など)がそれぞれブースを出している。
そういう団体ならばと、できるだけ買ってあげることに。
とにかく、外国人向けの値段なので、他よりだいぶお高い気がするが。
他のボランティアに会うのは、今日が初めてだった。
カナダから来た大学生の女性、高校を卒業したばかりのスイスから来た
女の子。あとは昨日会ったベルギー人のご夫婦。そして、ビクセンと
エルダナ。
みんな2,3か月はここで活動をするらしく、本当にすごいなと思う。
正直言って、私は2週間が限界かも…と思った。
確かにもっといれば、生活にも慣れるだろうし、この社会にも馴染めるの
かもしれないが、毎日あの路上生活をしている人たちを見て、物乞い
をする老人や少年たちに接する生活をし続けるのはつらい。
その場でお金をあげて済む問題ではないだけに、とてもむなしくなる。
昼食後、エルダナとアラ・キーロまで一緒に行き、別れた。
今夜の夕食ご招待のために銀行でお金をブルに換金しておく。80ドルで1360ブル。
数百ブルを財布に入れ、残りのブルとドルは封筒に入れて、
ウェストポーチにしっかりと収め、チャックをする。
何だか今日は普通の生活が出来が様な気がして、ちょっと気分も
よく、心も浮かれていた。 それが、いけなかったのだ……。
アラ・キーロの交差点を渡っていたら、少年たちがまた
「ティッシュを買って」と寄ってきた。
「ティッシュはあるからいい」と何度言ってもしつこく付いてくる。
明日はこの街ともお別れだと思うと、この少年たちの話を聞いてやっても
いいかと「いくつなの?」なんて尋ねたりした。しかし、通じない。
しまいには少年たちは私を取り囲み、ひとりの少年が私の目の前に立ちふさがり、
ティッシュの箱を突き出して、「マザー、ファザー」とかなんとかずっと
しつこく言って離れない。
横断歩道を渡りきったところで、「悪いけど、急いでいるから」と振り切って
行こうとしてふと下を見ると、ポーチのチャックが開いていることに気付いた!
しまった、やられた!!!
目の前にいたティッシュの箱を持った少年の手をつかんで、
「あんたの友達はどこなの???!!!」
と問い詰めた。あたりを見回しても、ほかの少年たちはいない。
逃げられた!
「どこ行ったの???!!!」
私は大声で叫んだ。
ただ事ではないとみた老紳士が寄ってきた。
「財布が盗まれた!」と言うと、老紳士が少年にアムハラ語で
しかりつけている。
横断歩道を戻ったところで、少年の手に封筒があるのを見て、
ポーチの中を見ると、封筒がない。
「私のお金!」と、ブルとドルの入った封筒を取り返した。
しかし、ポーチの中には財布がない。
「やられたー! なんてこった!」
私はただ絶望して、目の前が真っ白になった。
おそらくかなり取り乱していたのだろう。通行人が大勢寄ってきて、
なんだ、どうしたんだ、とばかりにべらべらと話し出した。
なんといっているのか全くわからなかったので、「この中で英語の
わかる人はいますか?」と聞くと、30歳くらいの男性が片言の英語で
少年が言っていることを解説してくれる。
自分はほかの少年のことは知らない。何の関係もないと言っているらしい。
周りの大人たちは、ここではよくあることだ、気にするな。お金を恵んでやったと
思えばいいじゃないか。おそらく少年と財布を取った少年とは関係はないだろう、
と言う。
とられたのはお金だけかというので、財布ごと取られたんだ。
少年はやってはいけないことをやったんだ。よくあることで済ませては
いけない! 私は財布を取り戻したい! と強く訴えた。
"It's a bad thing to steal the money from others!!!"
少年は、周りの大人たちから責め立てられ、泣き出し、ますます
事態は混乱していった。陸橋の上で、私は男たちに囲まれ、どうしたら
いいか途方に暮れていたら、さっきの英語のしゃべれる男性が
ここで待つようにと言う。
待っていたら、私の財布を持った少年を捕まえて、連れてきた。
しかし、中を見ると、空っぽだった。
「お金はどこなの? どうしたの?」
と問い詰めるが、少年は泣くばかりで、拉致が明かない。
その間も、周りのやじ馬たちが大声で少年に怒鳴りつけ、
もう、何がどうなっているのかわからない。
英語の男性が少年と私に付いてくるように言う。
いったいどこに行くのか?
連れて行かれたところは、警官のところで、婦人警官が
少年にきつく怒鳴りつける。少年はますます泣き出し、
警官は少年を蹴り出す始末。
どうするか? と私は聞かれたが、どうするもこうするも、
私は盗まれた財布を取り戻したいだけだ。
では、警察署に行こうということになり、ガソリンスランドの
横のがれきの中を通って、何とも辺ぴなところにある警察署
まで一緒に行った。
そこで、私はまたカチンとくるのだ。
警察署がなんでこんな辺ぴなところにあるのかもおかしな話だが、
そこにいる若い警官たちが、ことの事態を察知して、へらへらと笑って
いるのだ。大したことじゃないとでもいうように。
"Take it easy!" と言われた時には、本当に殴ってやろうかと
思った。あんたらがそんな態度だから、この街の少年たちが
盗みをしてもいいと思ってしまうんだろうが!
とにかく、話にならない。私が引き下がらないので、ここの
所長と話をすることになった。彼は一応英語は話せるが、なまりが
はげしく、何を言っているのかよくわからない。しばらくやり取りを
してから、どうも少年は財布の中身をとった別の少年の住所を知っている
らしいから、こちらで行ってみて確認をし、連絡をするという。
私は明日日本に帰るのだ。私の携帯に連絡をもらっても、もう
使えないかもしれないし、まずこの人の英語じゃ何を言っているのか
わからない。
そこで、アツィダの連絡先を教えた。
本当に連絡をくれるのだろうか。所長もなんだかにやけた顔で
言っているので、信頼できないが、ここにいてもしようがない。
なんてこった……。
せっかく帰国を翌日に控え、楽しい気分でいたのに、こんなことに
なって……、本当にショックだった。
私は教育省の前の交差点を渡りながら、
この国はどうなっているんだ!!! と怒りが爆発しそうだった。
乗合タクシーに乗ったら、横の男性から声をかけられた。
前にアツィダに朝送ってもらった時に途中で乗ってきた生物の
先生だった。よく覚えていてくれたものだ。
落ち込んだ顔をしている私に「どうした?」と聞いてくるので、
実は…、と話をした。
「それは大変だったね」と言ってくれたところで、家の近くまで
きたので、あわてて「ワラチ!(降りる)」と言って、飛び降りた。
昨日インターネットの使用料を払っていなかったのを思い出し、
支払いに行くと、いつものおばさんがいた。
「昨日の分、払っていないから……」と言うと、
「そんなの、いいのよ」
と、本当に気にしていない。
「いや、そういうわけにはいかないですから」と、30分の使用料
6ブル(36円)を支払う。
やはり、私はすぐ顔に出るのだろう。様子がいつもと変なのを察知して、
おばさんは
「どうしたの?」と聞いてきた。事の始終を話しているうちに、
涙が出てきて、「私は明日日本に帰る。これまで本当にいい思い出が
できたのに、最後にいやな思いをしてしまった。少年たちはもちろん悪いが、
あの警官たちの態度に腹が立つ」ということを話していたら、本当に
涙が止まらなくなり、思いを吐き出してしまった。一緒にいた別の客も
一緒になって、私の話を聞いてくれた。
いつもは、結構クールなおばさんだが、今日は「ほら、そこに座って」と
とても優しく、私の話を聞いてくれた。自分もここでちょっと目を離した
すきに携帯を盗まれたことがあって、こういうことはよくあるのよ、と
彼女にも言われた。
実際に盗みは日常茶飯事なのだろう。それをこの国の人たちは当たり前で
済ませているのだ。本当にそれでいいのだろうか。
彼女は、私に親近感を覚えたのか、メールを書くからアドレスを教えて
ほしいと言う。この国の人はすぐにメール交換をしたがる。
家に帰ると、誰もいなかった。
アツィダの電話番号を警察に教えたことを伝えなければと思い、
彼女に電話をした。一応事の次第を話しておかなければ電話があったときに
びっくりしてはいけないと説明を始めたら、彼女は電話を誰かに代わった。
それが誰なのかわからない。
「え~っと、どちら様ですか?」と聞くと、
「○○だ」と言うが、その名前が聞き取れない。まあいい。関係者だろうから、
話を続ける。しかし、電話だと相手の顔が見えないだけに話しづらい。
私の話を聞きながら、相槌の打ち方と確認の仕方から、これはテスファーフネン
(お父さん)だと分かった。
すぐに帰るから、家で待っているようにと、まるで私の本当の父親のように言う。
彼らが帰ってきて、また説明のし直し。もう、いいよ。カードも、パスポートも
無事だったわけだし、お金だけだから。
それより、今夜は、せっかく私がみんなを夕食に招待しようと思っていたのだから、
夕食に行こうと言うと、
「いや、こういうことは、きちんとしておかないと、夕食に行っても
楽しくない。私はマキのホストファミリーで、彼女はうちのゲストだと
話をしに行く」と譲らない。
また、話がややこしくなりそうだが、彼も一度言い出したら聞かない人なので、
言うことを聞いて(…と言うか、私のためにこうして時間をとってくれることに
感謝をしないといけないのだ)
途中雨が降り出した。どんどんひどくなっていった。土砂降りの中をアツィダが
運転する車は曇って前はほとんど見えない。奥まったところにある
警察署はわかりづらく、やっとの思いでたどり着いた。
また若い警官たちが、また来たのかとでもいうような態度で入口を
ふさいでいるので、中に入ろうとテスファーフネンを促す。
まあ、待て。と彼に言われ、若い警官と何かを話している。
所長はおらず、あの少年は廊下に寝そべるようしてこちらを見ていた。
まだ、ここに拘留されていたんだ。こんな小さな少年なのに。
裸足、服はボロボロ、顔も汚れで黒い肌が白くなり、うつろな目で
じっとこちらを見つめている。お腹も空いているのだろうな。
私は何ともいたたまれない気持ちになり、しゃがみ込んで少年に尋ねた。
"Did you steal my money? Just tell me!" "Look at my eyes"
私はお金語を取られたということより、この少年が嘘を言っているかどうか
が知りたかった。もし本当に取ったのなら、それは絶対やってはいけない
ことだと教えてあげたかったし、もし、彼は中身を取った別の少年から
空っぽの財布を渡されただけなのであれば、彼をすぐにここから釈放して
あげてほしかった。
年を聞くと、8歳だという。もう一人のお金を盗んだ少年は10歳だという。
テスファーフネンが、彼はそういう目で見て、同情を買いたいだけなんだ。
彼は別の少年を知っているというんだから、みんなグルなんだよ。
あまり同情するのはよくない」と私が情に流されようとするのに釘を刺した。
結局、所長とは会えなかった。
おそらく、所長は少年の家に行くこともしないだろう。
所長の言うことも信用できず、お金はもどってはこないだろう。
警察がそういうことだとしたら、この国の子供たちはこれからどうなるの
だろう。
ますます、気が滅入った。
大雨の中、家に帰ると、停電で、家の中は真っ暗だった。この雨の中、
運転をすること自体難しいので、せっかくディナーにご招待しようと思っていたが、
あきらめて、家で食べることになった。
しかし、外食する予定だったため、何の準備もしていない。
あるもので食べましょうと言うことで、蝋燭を立て、
残り物をみんなでつついて、真っ暗な中、キャンドル・ディナーとなった。
本当に散々な一日だった。
"What a day!"