「今度奈良行くときもさ、先輩つれていってあげたらいいやん。剛の地元やろ」
4日前に恋人と会ったとき 、そう言われました。
先日書いたとおり 、アタシが、堂本光一君の「endless SHOCK」を観劇するときに、亡くなった先輩 の写真を持っていこうと思っていると話したからでした。
「あー、そやね。そうするわ」
先輩は、堂本剛君のファンでした。
ただ、SHOCKについては、ファンか否かは関係なく、純粋に「観たい」と言われていたのです。
2年前、初めて観劇して、ハマってしまったとのことでした。
ところが、昨年も今年も先輩は落選。
さらに、先日の初日を待たずして、亡くなってしまい……。
「まぁ、奈良行ったって剛がいるわけちゃうけどな。鹿はいっぱいいるけど(笑)」
「うん、でも喜ばはると思う。剛の大好きな奈良やし」
せめて、奈良の景色だけでも。
そんなふうに思いました。
そう、先月、プチ旅行へ行ったばかりだというのに、今度は奈良へ行くことになったのです。
彼がそれを提案してきたのは、先輩が亡くなる前日の2月9日。
翌朝、ウチに帰り、手帳で仕事の状況を確認して、充分な時間が取れそうにないことを連絡。
しかし、それでもいいからと彼は言ってくれ、予約の手配をしておいてくれるとのことでした。
ところが、その日の夕方に突然の訃報 ……。
おそらく彼は、すぐにホテルを予約してくれたのでしょうが、それどころじゃないアタシを気遣って、予約云々についての連絡は寄越してきませんでした。
そして、会ったときに「予約できたよ」と聞かされたのです。
「俺は、高級ホテルに1回泊まるより、近場の安いところを何カ所も行くほうがいいなと思うねんな。今回は、こないだみたいな温泉らしい温泉じゃなくて、温泉自体は健康ランドレベルなんやけど、夕食がめっちゃいいねん!」
アタシは、高かろうが安かろうが、遠かろうが近かろうが、温泉が健康ランドレベルだろうが食事が何であろうが、彼が隣にいればそれでいい。
彼が楽しそうだったらアタシも楽しいし、うれしそうだったらアタシもうれしい。
2カ月連続で旅行を提案してくれるということは、少なくとも先月の旅行は彼にとっても楽しい時間だったんだなと、うれしく思いました。
1月26日(火)
午前中で仕事を切り上げ、フレックスで退社。
家路を急ぐ。
少し前に入ってきたメールで、彼のほうが先にウチに着くだろうことはわかっていた。
会社を出る前に、向かいの席の先輩から、「これからどこか行くの?」なんて訊かれた。
“恋人と旅行へ行くために早く帰ります”なんて後ろめたくて言えない。
だったらうまく、何か適当なことを言っておけばいいのだろうけれど、嘘をつくのが不得意なアタシ。
結局、「あ……はい、ちょっと……」と、曖昧に答えるのが精いっぱいだった。
マンションの前に、見覚えのある車が停まっていた。
やはり、彼はもう来ているようだ。
急いで共同玄関から中に入り、ちょうど1階で停まっていたエレベーターに乗り込む。
これから旅行へ行く楽しみと緊張、それから彼を待たせてしまっていることへの申しわけなさがないまぜになって、不思議な気持ちだった。
「ゴメンね、お待たせ」
部屋に入ると、彼はベッドの上に乗っかり、テレビ情報誌を読んでいた。
アタシが、生保レディの方から毎週もらって帰ってくるものだった。
「ああ、お帰り。お疲れ様。仕事、ちゃんと終われた?」
「うん、とりあえずは終わらせてきたよ!」
このために必死で、何本かの原稿を仕上げた。
せっかく彼が割いてくれた時間。
アタシも応えなきゃと頑張った。
「そっか、よかった。俺は実は、まだ完全には仕事片付いてなくて、でも電話で指示できるものやし、今日の夜と明日の朝、ちょっと電話させてもらうわ」
「あ、そうなんや。大丈夫なん?」
「うん、大したことちゃうから大丈夫。そしたら行こっか。準備はもう大丈夫?」
「オッケーよ」
アタシは自分のボストンバッグを指差した。
「よし、じゃあ行こっか」
「うん!」
行き先は大阪の箕面。
街中に突如現れる大きな建物「箕面観光ホテル」の建つエリア一帯が、箕面温泉と呼ばれる場所だった。
そういえば、関西限定なのかもしれないけれど、古めかしいCMが流れてるっけ。
「みの~おんせん スパ~~ガ~~デン」って。
「スパーガーデン」というのは、ホテルに併設された施設だった。
「前に行った有馬はさ、いかにも温泉地って感じやったやろ。どんどん山奥に入っていって、街から遠ざかっていって。でもここはさ、ナビではもう到着間近とかなってるのに、一向に温泉地らしくないというか。街の中にあるんよな」
車の中で彼が言ったとおり、1年ちょっと前の有馬温泉 とは、周辺環境がまったく異なっていた。
何せ、阪急の駅がすぐそこだし!
ホテルに到着すると、まもなくチェックインである15時。
彼は、アタシにロビーの椅子に腰かけて待つよう指示し、1人でフロントへ、チェックインの手続きをしに行ってくれた。
友達と旅行をするときは、いつもアタシが、予約から手続きからしているのだけれど、彼と行くと、アタシはお客様状態になる。
過去に2度ほどカラオケにも行ったことがあるけれど、そのときも彼は、受付はもちろん、ドリンクなどの注文もすべてやってくれた。
アタシがやろうとしても、「あ、やるで、貸して」と、受話器を奪われ……。
そういうところも、彼の好きなところの1つだった。
このホテルは、彼の会社の優待割引が利くらしく、ただしプランが限られていた。
洋室ツインルーム 1泊朝食つき
これでないといけない。
部屋に入ると、確かにベッドが2つ並んでいる。
(別々に寝るのかなぁ? 寂しいなぁ……)
と思っていると、彼が、
「これ、どうせ1つ使わへんし、荷物置きやな」
と、自分のボストンバッグを置き始めたので、アタシの心配はすぐに解消されたのだった。
「15時か。着いてすぐやけど、さっそく風呂行こっか」
彼がそう言うので、アタシも同意。
準備をする。
カード型のルームキーは先に戻ってくるだろう彼が持っておいて、アタシが戻ってきたら電話をして鍵を開けてもらうことにした。
浴場は最上階。
大浴場と露天風呂、サウナがあった。
彼は、「こんな時間から風呂に入りに来るやつ、俺らぐらいしかおらんで」と言っていたのだけれど、先客がいた。
誰もいなかったらケータイで写真を撮ろうと思っていたのだけれど、断念する。
露天風呂はもちろん、大浴場もガラス張りになっているので、大パノラマで大阪の街を一望できるのだ。
夜には“1000万ドルの夜景”が観られるという謳い文句だった。
ホテル自体がかなり高台に建っているというのに、さらに最上階の浴場。
しかも、普通の温泉地とは異なり、街中にあるのだから、絶景でないわけがないのだ。
夜にもう一度入りにくるのが楽しみになった。
食事はホテルの外で食べる予定にしていたので、メイクは落とさずに戻ることにした。
部屋の前まで帰ってくると、打ち合わせどおり、彼に電話をする。
結構な時間、コール音が響き、彼が電話口に出た。
まだ戻っていなかったのかな、と不安になる。
「ゴメン、歯磨きしてて」
彼はそう言いながら、ドアを開けてくれた。
「あ、そうやったんや、ゴメンね」
中に入る。
彼が歯磨きを終え、洗面所から戻ってくると、アタシも交替で歯磨きをしに行った。
それから、しばらくテレビを観てくつろぐ。
「これ、部屋のベッドより狭いんちゃう?」
ベッドに寝転がりながら彼が言うので、アタシもその横に寝転がってみる。
「確かにそうかも。同じシングルでも、サイズに違いあるの?」
「あるで。いろいろやで」
「そうなんやぁ」
背後から抱きすくめられた。
「なんか、後ろからこうするのも、意外と密着できていいな」
「ふふ、そやね」
耳に、彼の吐息がかかる。
「なぁ……」
「ん?」
「……こんな昼間から、襲っていい?」
「え?」
アタシが答えるより早く、帯の結び目が解かれた。
「あれ? ていうか、どんだけ巻いてるの?」
「だって、帯長いんやもん。浴衣もめっちゃ大きいから、腰のところで少し上げて帯で留めてるねん」
「あー、そうか。これ男女兼用のフリーサイズやもんな。有馬のときみたいに選べたらよかったんやけど。ていうか、キッズサイズとかのほうがいいんちゃう?」
「えー、嫌や、それは。いいねん、ちゃんと帯で留められるから」
そんな屈辱的なこと、したくない。
それに、サイズが合わないのは慣れっこだった。
一気に浴衣まで脱がされる。
「うわっ、めっちゃすべすべ!」
「マジで! すごい、もう温泉の効果あるんや。即効性やね!」
彼も浴衣を脱ぐ。
「ホンマや! すべすべやね~!! きもちい~」
あまりにツルスベで、彼の肌をなでまくった。
「さすが美人の湯やなぁ」
温泉の効果にテンションが上がり、その勢いのまま、しばし愛し合った。
つづく ……
フィギュア男子、みんな大健闘でしたねー。
高橋大輔選手、織田信成選手、小塚崇彦選手、みんな目立ったミスもなく素晴らしい演技でした。
特に、後者2名は初のオリンピックでかなりの緊張だったでしょうし。
明後日のフリーも頑張れ
持てる力を出し切って、悔いのない試合にしてほしいものです。