収拾がつかなくなってきたカメラマン問題。今まで気付かなかったスタッフたちは卓人の発言に驚くが、現場に就いていた由紀もさちも、そして当のゆいも驚かなかった。むしろ、ですよね?と言いかけたほどだ。
少々ざわつく空気に、先生はゆいと卓人の間に入り助言。と言うより卓人に少しの脅しをかけた。それも真顔で。
「舟橋君、一言だけ言わせてくれる?うちの葉山のことなめんじゃねーぞ。こいつは相手が誰であれ、世界一の写真を撮る逸材なんだよ。あんな野郎と比べるなんざ百年早いわ!あなたはまだ新人。カメラマンが付くだけでも有難いと思いなさい」
先生は見かねた関係者に、卓人にもう一度チャンスをあげてと言い、マネージャーを外に出し大説教。
話を聞いていたゆいは不謹慎ながらも先生の説教がちょっと嬉しかった。
「卓人君、どうする?続ける?止める?止めるのは構わないけど、私を紹介してくれた健斗さんにはどう説明するの?」
まさか先生から雷を落とされるとは思ってなかった卓人は、もう頭が真っ白。
卓人はゆいに謝って撮影は続けたいと言ったが、こんな状態では今日はもう無理。今日の衣装は明日改めて撮ることになった。
先生から大説教を受けたマネージャーは情けない顔で戻ってきては卓人を控室へ連れて行った。
先生はあきれ顔でゆいに一言。
「夏美さんとのことでも似たようなことあったわね。ゆいさんは良くも悪くも恨まれるわね。大丈夫よ、絶対にいい作品になるから。とりあえず、今日はお疲れ」
ゆいは先生を追いかけ、今日これから不動産屋へ行くことを話し、今日契約日が決まること、引っ越しは今月末の日曜にしたいことを伝えた。
「分かったわ。ゆいさんの休みを調節してあげるから。業者は任せて」
「ありがとうございます。少しでも早く引っ越して小百合のテスト勉強に間に合わせたいので。出来れば月末の日曜がいいんですけど」
「そうね。明日、改めて教えて。業者への連絡はそれからでも遅くないから」
撮影が今日も中断し、少し早く仕事を上がるゆいは小百合にLINEを送った。
ゆいは迷惑をかけたスタッフ全員に謝罪し、明日の撮影もお願いしますと頭を下げた。どのスタッフもゆいは悪くないと言ってくれたが、それがゆいには微妙な気持ちだった。
「純さん、ごめんなさい」
「いえいえ。でも当たってましたね、神崎妖花のこと。あの子もきっと今日の発言を後悔すると思います。明日も頑張りましょう!お疲れ様でした」
今日の授業が終わった小百合はゆいのLINEに喜ぶが、早く終わったとの連絡だけだったので中止になったことは知らない。
スタッフ全員を見送ってから帰ると言うので、それまでの時間を図書館で過ごそうと急ぐ。ただちょっとお腹が空いた。まだ家には帰れないので図書館の前に構内のコンビニで何か買おうと入った。
「ゆいもきっと空いてると思うから・・・」
小百合は、太ること間違いなしのクリームいっぱいのフワフワドーナツと、これでも気を遣うブラックのコーヒー、そしてゆいにはチョコドーナツとかっぱえびせんの小袋を買った。
飲食可能な場所に行き、今から食べようと袋を掴んだ時ゆいから電話が掛かった。
「今上がって、これから正門前に行くから」
「マジで?」
「なに?」
「ううん。今行く!」
食べたかったフワフワドーナツは家に帰るまでオアズケ。残念だがゆいに逢えるなら我慢!と急いで図書館を出た。