小百合は愚痴る気持ちなど全くなかった。そんなことを思ってるよ、程度のことだった。多くは語らなかったが何か察したのかユイからはゆいに話しなといわれた。一応うなずいたがそれでもやっぱり迷う。
少し重たい空気のまま一旦別れ、小百合はいつものテラスへ行った。
ここでゆいからのLINEを読むことが一番の楽しみ。今日はロケのためあれからLINEは来ていないが、それはそれで履歴を読むのも楽しみだ。
ゆいはこれからやっと昼食を取ることになったが、スタッフがこの先にある道の駅で何某か食べようと行き当たりばったりで決める。土地勘がないゆいは着替える間もなくそのまま前の車について行った。
「ゆいちゃん、服」
「もうねぇ、乾いてきたよ。でも着替えたいからさ。店に着いたらトイレ行って着替えるよ」
「ところでさ。撮影が終わった時の話だけど。やっぱりさ」
由紀は、今回のゆいの行動に今一つ納得していなかった。終始楽しく撮影に挑みたいのは分かる。でも小百合に勘違いされるようなやり方はどうなんだと。
それはゆいも分かってた。それでもそういう態度になった理由をゆいは仕方がないと言った。公私混同はしない。いくら小百合がそう思ったとしてもそれは理解してほしい。
「あの子は私を信じてないし、写真集のことはそこまで重きを置いてない。事務所がやれって言うから、でもよくわかんないし。だったら健斗さんに聞いてみよう!って流れなんじゃない?たまたま健斗さんが私の名前を出したから」
卓人が撮影が始まった話を健斗にLINEしたのは紹介してくれた手前、報告だけはと思ったんだろう。ゆいもそこそこの場数を踏んできた身。それくらいのことは察しが付く。
そんなヤツを相手に表情を引き出すのは並大抵のことではない。
ゆいの話を聞いた由紀は、やっぱりなのかとゆいの話に納得する。
「ゆいちゃんが何かポージングを指示した時、一瞬舌打ちしたような音が聞こえたのよ。まさかだとは思ったけど」
そろそろ午後一の講義が始まる。テラスでゆいのLINEと二人だけのインスタを見ていた小百合は、自分が思っていることをゆいに話してもいいのか今も迷っていた。今日は疲れて帰って来ることは分かってる。そんな日は自分のことだけを考えたいだろう。でも小百合も辛い。
「どうしたらいいんだろう。一つずつ片付けていくしかないのかな」
今日はゆいに晩ご飯を作ってあげる約束をしていたが、今の小百合にはメニューを考える気力もない。そろそろ時間になり席を立った時、ゆいからLINEが入った。
『これから道の駅で食事なの。
オムライス美味しそうじゃん♪ちゃんと食べてくれたので私は安心して撮影に挑めます!帰りは気を付けて。家のことはしなくていいからね。自分のために時間を使ってください。そう言っておかないとなんでもやっちゃうから。
あっ、来た♪今日はさつま芋づくしのセット食べます♪』
ゆいからのLINEを読み、ゆいの食事を見た小百合は、やっぱりゆいと同じことを思う。
「ゆいは疲れた時は適当に済ませるから。ちゃんと食べてくれてよかった」
家のことはやらなくていい。いつもゆいから言われている言葉。責任感が強すぎるせいで気持ちがいっぱいになってしまうからとゆいに再三言われてるのに。小百合の思いにゆいが気付いたのかは分からない。でもこの言葉をもらった小百合は少し心が軽くなった気がした。そして今日は一つだけゆいに甘えた。