こうなること、つまりゆいがずぶ濡れになることを想定して持たせた服の着替え。小百合はゆいが転ぶ前提で用意したが今日ばかりは勝手が違い、ゆいの意に反して結局ずぶ濡れ。しかしこれが功を奏したのか、担当さんは大満足のシーンが撮れたと卓人の自信を褒めた。しかし、ゆいは今一つ。その理由を口にすることはなかった。気付けばとっくにお昼。衣装チェンジを兼ね、しばらくの休憩を取る。スタッフさんが買ってきてくれたアイスを食べながら、ゆいはテントの中で水平線をじっと見ていた。
「どしたの?ゆいちゃん。疲れた?」
「ううん。私、海を見るのが好きなんだけど、雲も人も船もな~んにもない、この水平線しか見えない海が好きなの。水平線があるってことは地球が丸いって証拠じゃん。あの向こうは何が見えるんだろうって」
「なんだかポエムみたいなこと言うね」
「海の水が青い理由知ってる?」
「知らない。知ってるの?」
「知らない♪」
「なにそれ~。っていうかまだ着替えないの?」
「多分もう一回くらい転ぶだろうから」
「小百合ちゃんの期待通りPart2ってことかもね」
ゆい、由紀、さちの下らない会話が続く中、午前の授業が終わった小百合は、何を食べようかと考えながら学食へ。あまりに急いで来たせいかユイたちはまだ来ていない。その間にと、ゆいからのLINEを開けた。
「OKのスタンプね・・・あっ!」
タイミングがいいのか、ゆいから海の写真が入ってきた。そうゆいが好きな、あの海の風景。小百合はすぐに返事を送りユイたちと合流した。
「小百合も昼休みかぁ。おっ❤来た来た」
『キレイ!素敵!夕日もきれいなんだろうなぁ』
今日はこの後もあるので、夕日が見れないうちに退散しなければならない。残念だが小百合の期待には添えない。ゆいは返事を送れないまま次の撮影に入った。
朝物足りない食事で腹が減りまくりの小百合は、何を食べようかギリギリまで迷った。今日はガッツリ食べたいので、クリームソースのオムライスにした。
「ななっち、今日は?」
「私はお弁当。孝之が作ってくれたの」
その隣でユイと慎二が小百合と同じオムライスのチケットを買っていた。
出来ることなら小百合もゆいが作ってくれたお弁当が食べたい。そう思っただけなのに、口から『食べたい』と出てしまい、当たり前だが菜々からヤダ!と言われる。
「でしょうね。ってそうじゃないんだけど」
このオムライスを食べたことで午後の授業、何か飲まされたのかと思うくらいの睡魔が襲っても構わない。それくらいにガッツリ食べたい小百合は、自販機でお茶を買い、写真を一枚。ゆいに送ったところで手を合わせた。
「さゆっち、そんなにお腹空いてたの?」
「それがさ~」
小百合はカップラーメンに辿り着くまでのきっかけとなったコーンのピラフの話をした。
ユイたちは朝からカップラーメンのことはさすがに驚いていたが、そんな時のストックだと納得していた。
隣で菜々の弁当をチラ見した小百合は、おかずのチョイスに目が大きくなる。
まるで高校生のお弁当のようで、レタスの上にピーマンの肉巻き、ウィンナー、小っちゃく巻いたケチャップスパ、茹でたほうれん草。そして玉子焼き。
毎日こんなんじゃ食費がパンクだ。でもやっぱり美味しそうだった。
小百合も思う、本当はこんな感じで作ってあげたいと。でも時間がなく難しいのが現状だ。
『たけもっちゃん、力入れすぎだって!何か悔しい』
でも、一度くらい頑張って作ってみようか。日頃頑張ってるゆいのために。