女子なら身に着ける物は彼氏に買ってもらうもの。これが鉄則らしい。そんなバカみたいな決め事を宣言された小百合に、そばで聞いていた亜衣と弥生は気にするなとなだめてくれた。
時計は前から欲しくて自分で買った物。欲しいものは自分で買うが当たり前。なのに何故、あんな残念みたいなトーンで言われなきゃいけないのか。
確かに、ネックレスと指輪はゆいがプレゼントしてくれたもの。でもこれには理由があり、むやみやたらに買わせた物じゃない。
自分で気に入って買った時計なのにケチを付けられたようで胸くそ悪い。
『何だよ何だよ!男が買ってくれる時は何か裏があるに決まってんじゃん』
授業が始まっても小百合はあの冷めた言葉が頭に残ったままだった。
この話を小百合が話すか話さないか、それは小百合の気持ち次第だが、小百合が落ち込んでる頃、ゆいはやっと来たイケメンモデルの卓人の撮影が始まる。
今日も昨日同様、取り巻きの女性スタッフが多い。しかし今日の場所は千葉。さすがに遠いのか若干少ない。それでも便乗して近寄る輩もいる。
もろ直射日光を浴びるので、10月と言えども日焼け止めは欠かせない。首やら腕にも塗り、これから始める。
「今日は日差しが強いのでまだまだ熱中症に気を付けて、今日一日頑張りましょう!ではよろしくお願いします!」
ゆいが手を上げ、撮影がスタート。
タンクトップに、くるぶし丈のデニムを履いた卓人が素足で波打ち際を歩く。最初は海を見ながらゆっくりと歩き、立ち止まっては来た波で遊ぶ。
「卓人さん、自由でいいですよ」
昨日もそうだが、その自由が恥ずかしいという。場数を踏まないと無理なのは分かるが、それでは写真集として成り立たない。
「ポーズを指定されるよりずっとやりやすいと思うんだけどなぁ」
ゆいは由紀にバケツに海水を汲んでもらい、ゆいの合図で思いっきりかけてもらうことにした。
「由紀さん・・・お願い」
「りょ~かい!卓人さんゴメンね♪」
思いっきり全身に海水を掛けられた卓人は、本当に掛けたんだと驚くが、まだまだ気温が高いせいか、逆に笑ってしまった。ゆいはその瞬間を逃さず何度もシャッターを切った。
「ゆいちゃん、まだやる?」
「あ~ありがと。濡れたついで。そのまま入っちゃって」
ゆいも一緒になって膝まで入ると、少し慣れたのか、卓人はそのまま泳ぎ始めた。しかし、ゆいは泳ぐことはできない。どうやって撮ろうかと思った時、波がチャプン♪とゆいのお尻に掛かってしまった。
後ろで見ていたゆきとさちは、慌ててタオルを持ってきてはゆいを呼んだ。
「あ~ぁ。濡れちゃった。小百合にやっぱりって言われそう。でもこれは不可抗力だよね」
別に濡れたって小百合は怒らない。そのために用意したのだから。
卓人にスイッチが入った以上はこのまま撮り続け、卓人が疲れたところで引き上げ、ゆいはタオルをもらった。
「ゆいちゃん、やっちゃったね」
「大丈夫♪今日はちゃんと着替えを持ってきてるから♪」
「さすが小百合ちゃんだね」
「え~?何で分かったの?」
「普段の二人を見たら分かるよ。このまま続ける?」
ゆいは返事をして、また海の中へ入った。
小百合が着替えを持たせてくれたせいか、今日のゆいは気が大きい。
何の躊躇もなく、ベッタベタに濡れては一心不乱に、そしてカメラを濡らさないよう卓人が遊ぶ姿を撮りまくった。