最初にすき焼きをごちそうになると知っていればマックに寄り道などしなかった。胃にハンバーガーが残る中、ゆいも小百合もここぞとばかりお腹がはち切れるほどにお肉を食べた。
片付けも手伝い、コーヒーを飲んだ後、小百合は自分の部屋に入った。
引っ越せば狭いながらも自分の部屋が出来る。ということは持って行けなかった服などが置けるということで、いつでも取りに来られるように洋ダンスから引っ張り出した。体型は変わってないので着れるが、好みが変わったのか出した服をたたみ直し引き出しに戻した。
「小百合?何してんの?服?」
「うん。自分のスペースが出来るから、もう少し服も置けるかなって。引っ越した後取りに来れるようにまとめておきたくて」
「そっか。机も要るよね。これ持ってく?でも大きいね。そしたら私が使ってた机は?あれだったらそんなに大きくないし」
「でもゆいは?」
「私は今のがあるから」
小百合はゆいの部屋に入り、その机を見てはゆいが使っていたこともあり一目で気に入った。そして圭吾に話し、落ち着いたら取りに来ると伝えた。
「お母さん、明日のロケが早いからそろそろ帰るね。お義父さんごちそうさまでした。すごく美味しかったです。ありがとうございました」
「事情があって引っ越すことになったけど、小百合のことこれからもよろしくね」
「はい」
小百合は作ってくれたちらし寿司のタッパーをもらい、家を後にした。
車に乗った二人、スカートのホックを外し、苦しい~!と騒ぐ。
「こんなにお腹いっぱいで苦しいの久しぶり。でも美味しかったね。小百合も結構食べてたじゃん」
「あんなお肉、次いつ食べれるか分かんないから。帰ったら薬飲みたい」
「私も。さっ帰ろう」
さすがに今日はドライブの寄り道はしない。珍しく真っすぐ帰ると、小百合はお風呂を入れ、お湯が溜まるまでの間に今日買った時計の箱を開けた。
時計一つでこんなにも大人っぽく見えるとは。小百合が腕にはめた瞬間、見ていたゆいはそう思った。時計なんて壊れない限りそうそう買い替える物ではない。一生ものとまでは言わないが、それくらいに長く使いたい。小百合と色違いのお揃いだから。
「ゆいはどう?あ~♪いいじゃん」
「頑張って買ってよかった。ある意味記念というかさ。やっと一歩が決まった日だから。多分、今日部屋を探した日のこと忘れないと思う」
ゆいがしみじみと言うから何かあったのかと聞くが、話した通りのことだと言うだけ。
「次の場所はさ、小百合と一緒に始まるんだよ。二人で何かを始めるってそれこそ初めてのことじゃん。それもこんな大きなこと。なんかね、なんか」
ゆいはこれから楽しいことが待ってるとでも言いたそうな笑顔でそう言った。
小百合はこれから課題もあるし授業だったテストがあったりとそこまで手が回らないからどうしたらいいのか考えてしまう。なのにゆいは仕事が重なり引っ越しの準備もままならないのに、そんなことは置いといて小百合との時間を純粋に楽しんでる。ゆいが笑ってるなら大丈夫、何とかなる。
「そうだね。今月は忙しくなるね。一緒に頑張ろうね」
「うん!今日は連れ回しちゃってごめんね。小百合、こっちおいで」
隣に座った小百合の肩を抱き寄せ、頬に触れた。そして視線が合うとゆっくりと唇を重ねた。
お風呂が沸きました♪と聞こえるが、離れたくない小百合はゆいの腕をしっかりと掴み、もっとゆいにくっつく。
「お風呂入るからもう少し。もう少しだけ」
今日はまだ全然甘えてない。こんな日くらいは小百合もわがままを言いたかった。