気掛かりなこと | トランジットガールズ Another Story ♬novel♬

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ドラマ トランジットガールズの未来の物語。

変わらないよ・・・。
私はずっと変わらない。

屋上での撮影は陽が沈まないうちに終わらせたい。しかし思い通りには行かないもので、陽は沈みかけてしまいインタビューを残したまま撮影は終了。機材は後から降ろすことにして、リビングに戻り、残りのインタビューを録ることになった。

撮影の延長は最初から分かっていたこと。誰一人嫌な顔をせずセッティングをし、ワンちゃんを抱きかかえて降りてきた輪湖さんはソファーに座ると、いつも離さないはずのワンちゃんたちを『放牧』した。

「葉山さん、今日はもういい画が撮れたので、残りのインタビューは音だけでOKにしようと思うんですけど」

担当さんにそう言われ輪湖さんのそばにいないワンちゃんたちを見たゆいは、輪湖さんがどうしてここで遊ばせたのか気になる。

「そうですね。でも葉山さんたちだけ帰っていただくことが出来ないので、申し訳ないんですが」

「分かりました。では撤収だけさせていただきます」

ゆいとさちはなるべく音を立てないように静かに作業を始めた。

それにしても、大事な飼い犬を機材が所狭しと置いてある場所に放すとは。粗相をされたら大変。今日はペット用のシートも敷いてない。今まで本人が一番に気を遣っていたのに何故。

 

「ゆいちゃん、今日の輪湖さんってちょっと変じゃいない?」

「やっぱりそう思う?いつもはもっと気に掛けてるはずなんだけど」

そうなれば、輪湖さん個人に何か『心あらず』的なことがあったんだろとゆいは推測する。ただそれが何なのか、輪湖さんの様子を気にする者はいない。申し訳ないがさっきまでゆいもその一人。どんな悩みでも解決する術を持っていたら声を掛けることも考えるが。

インタビューが終わるまでまだ時間がある。手が空いたゆいは、ポケットからスマホを出し『やっぱり❤』と思いながら小百合からのLINEを読んだ。

『明日の夜、予約が重なったから貸し切りにするんだって。今日はその仕込みを手伝うから10時までやってくね。ゴメンだけどお迎えお願いします』

「だから謝る必要なんてないんだってば」

お迎えに行く時間が遅くなったということはカレーが作れるかもしれない。

時間を逆算しても、小百合を迎えに行く時間までに間に合う。

今頃になってやる気が出てきたゆいは、もうすぐ終わるインタビューをじっと見ていた。

 

『葉やま』は今日も開店直後から賑やか。小百合は昨日の常連さんたちが来ないことを祈りながらジョッキにビールを注いだ。

圭吾に言われてメモ書きを渡されると洗い場に入り、小さな台を使って明日のランチの切り出しから始める。

小百合もゆいの健康を考えて和食メインで考えたいが、味覚が子供なせいかどうしても脂っぽいものになってしまう。小百合の逃げ道は揚げ物焼き物。献立に困れば冷蔵庫にある物を適当にフライにしてみたり、肉があれば焼いてみたり。料理人の娘ながらなかなかの不出来である。しかしそう思っているのは小百合だけで、普段の小百合の料理はママのレシピのおかげもあるが、何でも器用に熟し、どんな料理でも美味しい。今は時間がなくて出来ないが、ゆいが美味しいと言ってくれるロールキャベツを作ってあげたいと思いながら浅葱を切っていた。

「あ~最近、肉じゃがも作ってない。ゆい、好きだったもんなぁ。作ってあげたいと思う時に限って時間がないだよなぁ」

壁に掛けてある小さなカレンダーを何度見ても空いてる日は日曜日しかない。「だったら日曜日の夜に作ろうかな。今日帰りに24時間のスーパーに寄って」

計画を立てた瞬間、今日は10時まで上がれないことを思い出し、腹の底から溜息を吐いた。

 

ゆいがいる現場もやっと終わり、今日の仕上がりをチェック。次回は再来週の月曜日で終了の予定。輪湖さんのことが気になるゆいは、さちと一緒に様子を見に行った。