小百合は、久しく作っていないゆいの好きな手料理を作ってあげたいと、圭吾に頼まれた明日の切り出しをしながら考えていた。しかし作ってあげられる時間がないと気付き、海より深い溜息を吐く。圭吾に呼ばれ表に出ると、空いた席を片付け始めた。
撮影が終わったゆいは帰る前、控室へ行き輪湖さんの体調を気遣う。
「輪湖さん、今日はお疲れ様でした。今日、もしかしてご無理されてたのでは?体調が優れなかったような気がして。もっと早くにお声がけすればよかったと青木さんと話してたんですが」
話を聞くと、更年期による怠さだと教えてくれた。撮影を先延ばしには出来ないので無理をしたと言った。
「気付いてくれてありがとう。男性スタッフもいるし、さすがに更年期って言えなくて。それで次回の撮影なんだけど、少し時間かけてもいいかな?一応先生には話しておくけど」
「遠慮しないでください。輪湖さんの体調を考えながらゆっくりで。スタイルの変更も考えましょう。何か用意するものがあれば遠慮なくおっしゃってください」
「ありがとう。カメラマンがゆいさんで良かった。こんなこと男性カメラマンだと言いにくいから」
女性ならではのことだが、ゆいにとってはまだまだ先のこと。理解はしてるがそう声を掛けることしかできない。
挨拶をして控室を出ると「やっぱりだったね」とさちと話した。
現場を後にすると、さちは申し訳なさそうにゆいにお願いをする。
それはスタジオに着くまで寝させてほしいということだった。夜更かしの理由は人それぞれ。ゆいは訳も聞かずOKし、さちを寝かせた。
「着いたら起こしてあげるから」
運転に集中しなければいけないが、ゆいもそれなりに考えることがあり、さちが寝ている間、来週からの写真集撮影のこと、引っ越しのことをずっと考えていた。
日曜日、一度不動産屋へ行く予定だが、ゆいとしてはどうしても今年中に引っ越したい。新年を新しい部屋で小百合と迎えたいから。その思いを叶えるには今動くのが一番いいタイミング。それが一番大事なことなのにまだ小百合に話せていない。小百合に話してしまうと責任を感じて大事な課題を慌てさせてしまうから。それでなくても後期の試験も重なるから勉強させてあげたい気持ちが先行して、やっぱり小百合には言いにくいことだった。
「あっ、この道・・・」
いつもここを通る時は決まって夜。夜しか通らない道、その先を曲がれば時々通うホテルがある。通うと言っても特別な時にしか行かない場所。
『久しく来てないなぁ』
ゆいは隣で爆睡しているさちをチラ見し絶対に起きないと確信すると、帰る方とは逆にそのホテルの道へ向かった。用があるわけじゃないので素通りするが、横目で見た駐車場は、さすがに満車っぽかった。
お互い生理がまだ先なので行くには時期的に良いタイミング。でもこれからしばらくの間、小百合とは出来ない。小百合が課題を提出した時、ちょっと誘ってみたいなと思う。でもそんな余裕があるならアパートを探そうよと小百合に突っ込まれそうだ。
しかし、次のアパートはどうなんだろうか。声が漏れたりしないだろうか。
それこそたーちゃん家のように防音シートみたいなものを貼った方がいいのか。難しいところだ。
さちに気付かれずにそんなことを考えながら抜けた道。後2~3キロで着く頃さちを起こした。
「もうそろそろ着くよ。起きて」
「もう?早いなぁ。ありがとう!」
さちは伸びをしながら足りないと言い、また寝ようとした。
「寝かせてあげたいけど無理!さっ目を覚まして!」
そして駐車場へ入ると車のナビから『お疲れ様でした』と聞こえた。