今日の授業が終わった小百合は、ゆいからのLINEを待ちわび、席も立たずノートも片付けずその場でスマホを開けた。当然と言えば当然だが何も来ていない。
「だよね。さっ、雑誌買いに行こう」
小百合が生協へ向かっている頃、同じように授業が終わったユイたちも帰るが、美穂がユイのところへ来て、これから小百合に会うのか聞いてきた。約束などしていないので会わないと言ったが、美穂は信じていない顔をする。
「だって毎朝会うんでしょ?」
「会うけど、うちらは朝と昼休みだけだから。韓国語の時は一緒だけど。それ以外は。みんなバイト入ってるし。何で?」
「葉山さんに会えないかなって」
「LINE教えてもらったんだから直接聞けばいいじゃん?」
横で聞いていた菜々は美穂が何が言いたいのか分からない。めんどくさいと思ったのか理由をつけて席を外す。
「私、ちょっとバイト急ぐよ。今日はさゆっち来ないから」
「うん。また明日ね~」
美穂から小百合のことを聞かれる前に別れた方がいいと思い、ユイも急ぐ振りをして教室を出た。
「ユイ、俺今から生協行くけど一緒に来る?」
「いく!」
なぜか二人で小走り。そこで生協から出てきた小百合とバッタリ会う。まさか会うとは思わず、お互いビックリで少々声が響いた。
「小百合ちゃん、買い物?」
「うん。卓人が特集だったから」
「あ~ゆいさん、今度撮るって言ってたもんね。菜々が言ってたけど月曜日ゆいさんに就くんだって?」
「うん、ちょっと楽しみなんだけどさ」
こんな会話を昼に話したかった。少し聞いてほしいことがあるが、今は時間がない。
「今度ちょっと聞いてよ。あっバイト急がなきゃ。じゃ~ね!また明日ね」
「うん。明日ね~」
ユイも本当は話を聞いてあげたいが、なにせ韓国語の課題がでているので、小百合の話を聞いてあげる時間が今はない。小百合の背中を見送り中へ入った。
急いだおかげでバスに乗れた小百合は、荒い呼吸を手で押さえながら流れる景色を見ていた。あれから小百合のLINEにはゆいの既読がついたまま。
言い方は良くないが、小百合はゆいの返事を期待していない。撮影中はLINEを読む余裕などないことは小百合が一番分かってる。だから読んでくれたということはそれだけ気に掛けてくれたということ。
でもそんなポジティブに考えられるようになったのは最近のこと。
ゆいの仕事もよく理解できなかった時は、返事が来ないことに勝手にピリピリしていた。もちろん、佐伯さん絡みで。今思えばバカだよなとあの時の自分に言ってやりたい。そんなこと思う時間が勿体ないと。
初めてヤキモチや嫉妬を感じた時、ましてやその相手が自分に敵わない佐伯さんだった時には、一緒にいるだけで何もなくても、少しのことでも疑ってゆいを困らせた。スマホに入っているゆいの写真を見ては、少しは自分も成長したのかとちょっとだけ自負する。それでもやっぱりゆいがイケメンと絡む時はイライラムカムカする。ゆいに一々言わないけど。
今日は何時までかな~なんて思いながら階段を上がり、扉を開け今日も元気よく挨拶。圭吾は挨拶もそこそこに、いきなり悲しい一言を小百合に告げた。
「小百合、おはよ。悪いけど今日は10時まで頼む。明日予約が重なって夜は貸し切りにしたから。その仕込みとランチの切り出しも頼みたいからさ」
帰る直前に言われるよりか、先に話してくれた方が心の準備も出来るけど、帰れないのは同じ。
小百合は着替えると、倉庫の前で一升瓶のケースをひっくり返して座り、ゆいにLINEを送った。
「一時間でも多く働いて引っ越し代を稼がないとね」
それに今日の夜はゆいがカレーを作ってくれるかもしれないから。きっと疲れてるはずなのに。
それでもやっぱり心の中は期待し、洗い場に入った。