午前の授業が終わった小百合は、お弁当という楽しみが待っている学食へ向かう。急いで筆記具をカバンに押し込むと、後ろから小百合を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると授業前に卓人の雑誌のことを教えてくれた女の子で、何か言い足りないのか自慢気に情報を教えてくれた。
それは、卓人が1st写真集を出すと発表があり、これから撮影に入るということだった。その話に小百合は『マジで!?』と驚くが、意味合いはかなり違う。彼女は、推しならそれくらい知ってなきゃ!とでも言いたそうな表情だったが、全く興味がない小百合がまさかその現場に入るなど、これっぽっちも想像しないだろう。
そしてもう一つ。そのカメラマンが女性だとも教えてくれた。
それに対しては何だか微妙な顔つき。そりゃそうだろう。
「そのカメラマンってどんな人?」
「名前までは分からないの。初写真集ってことで初の試みらしいんだけど。どうせならブサイクであってほしい。そしたらさ、卓人もその気にならないしさ」
「やっぱりカメラマンが美人だとヤバい?」
「小百合ちゃん、知らないの?」
それで噂がたったタレントとカメラマンは結構いると言う。それもほぼ事実だと。どこ情報?と言いたかったが、ゆいに関してはあり得ないこと。いい加減なことを言われ、小百合は返事半分で教室を出た。
「どういうこと?」
小百合は食堂に行くまで、ずっとその言葉を繰り返していた。彼女の言ってることに何だか納得できないが、お弁当を食べて忘れようと角を曲がると、ユイたちと一緒に美穂がいた。
「お待たせっと。あっ」
小百合は軽く会釈すると、美穂の後ろでユイは渋い顔をしていた。小百合は慌ててスマホを開けるとユイから『今日は美穂ちゃんがいるから内々の話は出来ないよ』と入っていた。
「あ~。うんうん」
とにもかくにも小百合は早くお弁当が食べたい。今日は豚汁を買って早速巾着を解いた。そっと開けた中にはのり弁の上に白身魚のフライ、横には玉子焼きとカニさんウィンナー、そして頑張って切ったキャベツの千切り。
これをフレンチトーストを焼きながら作ったのかと、食べもしないでまじまじと見ていた。
「さゆっち?どしたの?」
「あっううん。いただきます♪」
カニさんウィンナーをかじったところで、小百合はもう一度ユイに絵本の礼を伝えた。
「ありがとうね。助かったよ。日曜日はちょっと出掛けるからさ」
「アパート探し?」
「うん。目星はある程度ついてるんだけど、内見?だっけ?」
小百合は今、そんな話なんか・・・それも大事だがそれよりも卓人の話がしたい。男性タレントと美人とにかく美人と名の付く女性カメラマンの関係が本当にあるのかどうか。
食べながら開いたLINE。今朝ゆいに送ったが既読がついてない。いつもは撮影中でも必ず読んではくれる。なのに今日はスマホを触る時間もないほど大変なんだろうか。
「さゆっち?なにボーっとしてんの?」
「ん?」
「葉山さんはお姉さんと二人暮らしなんだよね?鬱陶しいとか思ったりしない?」
美穂に聞かれ小百合は否定する。でも世間一般だと嫌がるものなんだろうか。一人っ子の小百合には分からない。それにゆいといたい小百合は鬱陶しいという感情などない。最初、ゆいが来た時はそう思ったことはあったが、そんなことを思ったことを後悔するほどに、今はゆいのことが大好きだ。
「ゆいは私のことすっごく考えてくれるから」
「そう。例えば?」
「例えばって。これ。お弁当。私の分だけ作ってくれたんだ」
小百合はそれ以上のことは言わず、ご飯を口にした。
『このお弁当だけでもゆいの気持ちが伝わるの!』
小百合の話を聞いた美穂は、ゆいという人がこの間正門の前で見た人だと気付く。しかし美穂はそれを確認することはなかった。