本当のことが言えたなら | トランジットガールズ Another Story ♬novel♬

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ドラマ トランジットガールズの未来の物語。

変わらないよ・・・。
私はずっと変わらない。

明日、すぐに出発できるようにバンに機材を載せ、スタジオの裏にある搬入口に駐車してシャッターを下ろした。

今日はこれで上がり。これから急いで駅の本屋へ行くという菜々を車に乗せ、ゆいは仕事を上がった。

「ゆいさん、いつもありがとう。却って遠回りなのに」

「全然遠回りじゃないよ。クルって回るだけ。少しでも早く行って買えばその分早く手が付けられるでしょ。それにたまにはどこ行く当てもなくちょっと寄り道して帰りたいし。ちょうどいいのよ♪」

嘘じゃない。一人でいる家は淋しいから。でも小百合のために晩ご飯も作りたい。菜々を送ったら急いで帰ろうとやっぱり真逆な気持ちで駅まで走った。

 

『葉やま』でバイト中の小百合は、今日からしばらく入ることを常連さんや商店街のおっちゃんたちと話していた。

人当たりのいい孝之、『葉やま』のマドンナ的な??小百合。なぁ~んにも知らないおっちゃんたちはからかう様に『二人付き合っちゃえば』と嗾ける。もう慣れているので軽くかわすが、ゆいや菜々が聞いたらいい気はしないはず。もし小百合がゆいの立場なら分かっていてもどことなく辛い気持ちになる。時々常連さんから小百合はそう言われるが、果たして孝之も同じことを言われるんだろうか。

洗い場に入った小百合は、汚れ物を持ってきた横山さんにそれとなく聞いた。

「ありますよ。でも爽やかにかわしてます。裏ではめっちゃ怒ってますけど」

こんなことを言われていることを菜々は知っているのだろうか。菜々だって嫌だろう。相手がいくら小百合だからってこんなからかわれ方をされたら。

言われてるのが自分だけじゃないし、酔っ払いのたわごとに一々目くじら立ててちゃ堪忍袋がいくつあっても足りやしない。父さんには悪いが早く帰って欲しい。

 

菜々を駅で降ろしたゆいは、菜々に分からないよう道を曲がりそのまま家に帰った。途中、ATMに寄り道し、小百合から預かった6万円のうち4万円を自分の口座に入れ、家に帰ると残りの2万円を共通の通帳に挟んでおいた。

「7時かぁ。ご飯の仕度しなきゃ。でも今日は何時に終わるのかな」

何を準備してくれたのかと冷蔵庫を開けるとトレイに切り出しの下準備が入っていた。

「チキンカツかな。小百合からLINE来てるかも」

期待した小百合からのLINEはなく、何だか残念な気持ちでカバンからお弁当箱を出した。家の掃除は小百合が全部やってくれたので晩ご飯を作る以外することがない。

迎えに行く時間まで、もう一度住宅情報誌を広げ、他にも調べようとパソコンでサイトを見ながら、この地域の近辺を探した。

しかしいくつかの当てがあっても、小百合が目星をつけた場所が一番条件に合う。もう日曜まで待ってられない。

「小百合に話してみて今日の帰りに行ってみようかな。そしたら日曜日・・・あっ!日曜日って」

先週の日曜日に、小百合が腕時計が欲しいから買いに行きたいと言ったことを思い出す。その日はデートの約束をした。でも小百合は渡された課題をやらなきゃならない。小百合がどうしたいのか聞きもせず、ゆいは今度のデートは中止にした方がいいと思ってしまう。

「何だかいろいろと重なるなぁ。あっ、そうだ」

明日のゆいの仕事はロケなのでお弁当は持って行かない。だったらと小百合のお弁当を作ってあげようと迎えに行く時間まで準備をすることにした。

「そしたら明日の朝はフレンチトースト作ってあげよう」

 

ゆいが小百合の笑顔のために張り切って仕込みをする頃、店は満席状態が続いていた。やっと帰った常連さん。小百合はホッとするが毎日これでは精神が

持たない。『彼氏』がいると何度も言ってるのに。

からかわれた時の対処法をどうにか考えないと。

でも何だか『彼氏』という言葉が胸の奥に引っかかっていた。