大きな作品を作るのにはスタッフたちの意思疎通が必要になる。そのためにも始める前に顔合わせし、撮影に関係ないことでもコミュニケーションを取ること。そんな機会を与えてくれ、ゆいは感謝する。
そんな親睦会も終わり、一緒にいた清原さんはいつものバーへ。別れたゆいは由美のマンションに行く前に小百合に電話を掛けた。
その小百合は脱毛クリームを塗り、テレビを見ていた。そこにゆいから電話が掛かり、もしかして帰って来るのかと喜び勇んで電話を取った。
「もしもし!帰って来れるの?何時になる?」
「ゴメン。親睦会が終わったって言いたくて」
「なにぃ!期待しちゃったじゃんか」
「ゴメン。小百合、気にしてると思って」
「まぁ別にさぁ。今から行くの?由美さんとこ」
「うん。これから地下鉄に乗って。明日、始発に乗って帰るから」
「うん、LINE読んだよ。お弁当用意しておくから」
「・・・今日、ゆっくり出来なくてゴメンね。明日からバイトなのに」
「大丈夫。そんなことは気にしなくていいから」
「うん。じゃ~地下鉄乗るから。戸締りしっかりね」
「ゆいも気を付けて」
小百合は電話を切った瞬間、やっちまった!と叫ぶ。自分でも分かるくらい不機嫌な言い方。確かに帰って来るのかと一瞬でも喜んだが、帰って来なくても自分のことを気にして電話まで掛けてくれたゆいの気持ちをなぜ瞬時に考えてあげられなかったんだろうか。
小百合はすぐに掛けなおそうかとスマホを掴んだ。でもきっともう地下鉄に乗ってるはず。駅に着いたら由美に連絡するだろうと思い、一言だけゆいにLINEを送った。
電車に揺られるゆいは小百合の言葉に悲しい気持ちになり、どうしたらいいのか考えてしまう。小百合が気にしてるからと思ってのことだったが、ぬか喜びさせてしまったことを後悔していた。電車の振動でスマホのバイブに気付かないゆいは、窓に映る自分の顔を見ては情けない顔に溜息。
電車を降り改札を出ると、駅に着いたことを由美に電話しようとスマホを出す。小百合から一件入ってることに気付き、慌てて開くと・・・。
『電話ありがとう。怒ってごめんなさい』
ゆいはすぐに返事を送り、由美に電話を掛けた。
シャワーでもう一度洗い直しクリームを持って座ると、ゆいからの返事を読んだ。
『私こそごめんなさい』
「何やってんだろう、私」
少しはやろうと思っていたテスト勉強。これで完全にやる気がなくなり、着ていたパジャマを脱ぐと、ゆいが着ていたパジャマに袖を通した。
早々に明日の支度をし、ベッドに入るとゆいの枕を抱きしめ意味もなくテレビを見ていた。
「あっ、ダメじゃん」
途中まで見ていた住宅情報誌とペンを持ってきては続きのページをめくる。
小百合の希望は風呂トイレは別。自分の部屋はテスト勉強さえできれば狭くてもいい。キッチンはコンロはせめて2つは欲しい。リビングはベッドを置くとなると多少は広い方がいい。だっていつかは大きなベッドに替えるから❤
「スタジオへ就職が決まれば、毎日ゆいの車で行くことになるのかな」
もし前日に口も聞きたくないほどの喧嘩をしても、あくる日はゆいの車に乗って出勤ってことになるんだろうか。そんな時は乗りたくないから一人で電車バスで行くことになるのか。
そんな妄想などしなくても、一人で出勤する可能性はいくらでもある。ゆいが出張だったり、体調を崩したり。
「何かあった時のために駅は近い方がいい」
今住んでるアパートが好きすぎて近所から離れたくないと思ってきたが、ゆいと一緒ならどこでもいいと、この頃そう思うようになった。
「こんなところかな。後はゆいの意見を聞いてっと。眠くなってきちゃった」
テレビも部屋の電気も消し、布団に入るとゆいの枕を顔に押し当て、ゆいの匂いで目を閉じた。