ゆいに生活費を渡す面目として書いた手紙。6万円を2つ折りにし封筒へ。しかし触ってみると違和感ありありで気付かれてしまうかも。
考えた結果、明日は強引にお弁当を持たせその中に入れようと考えた。
もし明日、ゆいが帰って来なければ授業前にスタジオへ行って置いてくればいい。
「うん、そうしよう」
考えがまとまると、やっぱりテスト勉強はせず、これから惣菜と弁当の下準備を始めた。
ゆいはというと、目の前の料理に箸をつけようとするといろんなスタッフさんたちが入れ替わり立ち代わりゆいに挨拶に来た。ゆいは気付かないが挨拶に来た人の大半が女性スタッフ。モデルのような容姿で今日の挨拶も謙虚な一言、ゆいの噂を耳にしていたスタッフは、今日一目見たゆいと距離を縮めたい。横で見ていた清原さんは納得の目で見ていた。
最後のスタッフと名刺を交換。やっと食にありつけると思い、追加で注文したレモンサワーを飲み、王道の生ハムメロンを食べた。
「ゆいちゃん、人気もんですね♪」
「いやいや。ちょっとビックリ。でも嬉しいです。一期一会じゃないですけど、人とのつながりは大切にって。多分今回だけって方が大半だと思うので」
「確かに。今日はこの後どこへ行かれるんですか?」
「友達と会うことになっていて。私がなかなかこっちへこないので、ついでと言いますか」
大して美味しくもない生ハムをレモンサワーで流し込んだ時、小百合からLINEが入る。チラ見したゆいは、無表情で返事を送った。
明日の弁当の仕度が終わった小百合は、連絡事項としてゆいにLINEしたがすぐに返事が来たので、飲み会はどうしたのかと時計を見た。
『お弁当作ってくれるの?マジで?ありがとう❤明日は絶対に始発で帰るから❤待っててね❤』
『今はレモンサワー飲んでる。もうすぐお開きになると思う』
「そうなんだ。ハートが3つもだけど酔っぱらってるのかな?でも普段も何の意味もなく❤ばっかりだけどね」
小百合は絵文字一つ送り、シャワーを浴びに行った。
一人シャワーを浴びて考えることは明日からのこと。疲れて思うように行かない時、ゆいに当たってしまうかもしれない。家のこと疎かにしてしまうかもしれない。ゆいとの時間が減ってしまいすれ違い生活。いつもの妄想でそんなことはないと分かっていても容易に浮かぶ一人劇場にため息が出てしまい、髪を洗う手が止まってしまう。
今までのゆいは、不安視する小百合のために誘われた飲み会はほとんど断って来た。それを良くないと思った小百合は考え直し、自分に遠慮するなと言って近頃は出掛けるようにもなった。どんな人に会っても良いようにとスーツまで新調させて。自分自身心が成長したと思ったにもかかわらず、それでも小百合の心の奥には怖い気持ちがくすぶっていた。
❤が3つも入ったLINEを送ってくれてもだ。ここまで猜疑心が強い自分が情けなくなる。
好きな人にそんなことを思うのは初めて。恋愛経験が少ないからなんだと思うが、仮にそうでなくてもゆいの気持ちを素直に受け止められない自分はやっぱり・・・情けない。
『私の気持ち分かってくれないの?』
ゆいに何度も言われてきた。なのになぜ言われたのか忘れる。でもその言葉を言われた時、ゆいはものすごく悲しそうな眼をしていた。それだけはハッキリと覚えている。だったら。
小百合は気を取り直し、シャワーを済ませると、ゆいがいない間にムダ毛のお手入れを始めた。
親睦会はそろそろお開き。幹事さんにお一人様3000円のお支払いをし、〆の挨拶を聞き親睦会は終了。ゆいは呼び止められる前にそそくさと店を出て、幹事さんに今日の礼を言いい、清原さんと店を出た。
金曜日にまた会うことを約束し、駅前で別れると改札に入る前に小百合に電話を掛けた。