一人で過ごすこんな夜は | トランジットガールズ Another Story ♬novel♬

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ドラマ トランジットガールズの未来の物語。

変わらないよ・・・。
私はずっと変わらない。

思いつきで買い物に出掛けた小百合。手短に済ませ早足で家に帰る。途中、片手に荷物を持ち替えては懐中電灯で照らしながら暗い路地を歩いた。

夜道を一人で歩くなど久しぶりというか滅多にないこと。やっぱり怖い。

やっとの思いで家に着くと、とりあえずソファーに座りエコバッグ2つをボーっと見ていた。

「ご飯食べよう」

一人の晩ご飯、たまには酎ハイでも飲もうかと、買ってきたものを片付けてローテーブルに置くとテレビをつけた。

やらなきゃいけないテスト勉強はもう捨てた。ゆいの写真はご飯が済んでから。何かのはずみで醤油でもこぼした日にゃ。

 

小百合が一人弁当を食べている頃、ゆいはやっと合流。今日はほぼ全員が集まっていてキャンセルしなくて良かったとホッとした。

とりあえずビールで乾杯後、序列関係なく右から順番に名前と担当、ちょっとした意気込みを話した。自己紹介というのは恥ずかしく不慣れなもの。カメラマンという中心的存在にも関わらず、どこかの新人スタッフのように挨拶。

『いい作品になるよう、みなさんと力を合わせて頑張りたいです』と、ありきたりな挨拶で自己紹介を済ませた。すると周りから大きな拍手をもらい、ゆいは恐縮する。しかし、なぜそんな挨拶でこんなにも拍手をしてくれるんだろうか?ゆいにはさっぱり分からない。

「純さん、どういうこと?」

「それはゆいちゃんが謙虚だからですよ。今回の撮影、きっとうまくいくと思います」

今の自己紹介なんて、取ってつけたような言葉だったのに。でも実際ゆいはそう思ったわけで、何の脈絡もない。脈絡もないと言えるほど気の利いた言葉ではなかったが、印象良く思ってくれたらそれでいい。

自己紹介も終わり、これから各々の会食が始まる。一応お開きの時間は10時。この後に会う由美にはその時間をLINEし待ってもらうことにした。

「純さん、私、回って来た方がいいんですかね?」

「あ~そういうのは無し。個人的に話したい人は良いけど、無理に話し掛けて気を遣うくらいならしない。お酒が入ると自然に会話が出来るようになるので」

「気楽でいい~♪」

 

テレビを見ながら一人黙々と食べている小百合は、その音だけを聞きながら再び住宅情報誌をめくっていた。

ゆいがどれだけの家賃を出せるのか分からないが、高くて無理ならそれでもいいと、気になる間取りに印をつけた。今の小百合の頭の中は妄想でいっぱい。

「やっぱりベッドは一つでいいよね?ここだったらこっちに置いて、テレビはここで。そしたら寝ながら一緒に見られるし。でも部屋数と家賃は比例するんだよなぁ。あっ!今月ゆいにまだ渡してない」

今月は夏休みにガッツリバイトをしたので、ちょっとは余分に生活費を渡せる。今回はゆいが拒否っても絶対に渡したい。

現金を直接渡すと受け取らないから、今回は少しだけ手紙を書いて諭吉さん6枚を封筒に入れれば、お札に気付かないゆいはそのまま受け取ってくれる。

「そうしよう」

そうと決まれば空の弁当箱と空き缶を片付け、レポート用紙とペンを出した。

「あっそうだ。写真」

ゆいから許可が出たので小百合は引き出しからいくつか束ねてある中から一つ出し、一枚ずつゆっくりと眺める。ゆいの写真は全部見てきたつもりだった。でも手に取った写真は小百合の知らないものばかり。知ることが出来て嬉しい反面、まだ知らないことが多いことに恋人としての何か足りなさを感じる。

他にも小さな箱があり、中には整頓された何十枚のSDカードが入っていた。多分今まで撮った写真が収めてあるのだろう。それがこの現像した物なのか分からないが、この中に自分と一緒に撮った写真もあったらいいなと、大切に保管しているこのたくさんの写真を見て思う。

 

何だか今日はゆいがいなくても淋しくない。