ロストレイル開発ブログ -5ページ目

アリオの冒険:3

 結局、おれはそれを家に持って帰ってきてしまった。
 最初は誰かの忘れものかと思ったが、そんなものがおれの机に入っているのもおかしい。パスケースの中身はからっぽだったが……これは普通、定期券なんかを入れておくもので、定期といえば……、そう、列車だ。

「それが運命ならいつか乗れるわ」

 あの夜、会った女の子――アリッサの声を思い出す。
「……」
 自室の机のひきだしをそっと開ける。
 ここにも何か見慣れぬものが入っていたりして、と一瞬、構えたが、特に異変はない。変わらずそこには……、「あの夜の証拠」があった。
「でもケースだけじゃなあ。定期かチケットがないと列車には乗れねーんだし」
 おれは呟く。
 そうなのだ。おれがあの列車に乗る資格があるというなら、なんでチケットそのものが送られてこないのだろう。

 その夜のことだった。
 寝苦しい夜を、おれはそっと抜け出す。自転車を漕いで、あの山のほうへ。
 何の根拠もない。ただの思いつきというのも、バカバカしいようなもので……、でもなぜか、おれは奇妙な確信をもって、自転車を走らせる。
 念のために、デイバッグの中に非常食のチョコレートやスナック菓子を詰め、ポケットには例のパスケースを入れて。
 腕時計を見れば、ちょうど、あの日アリッサたちに出会ったのと同じくらいの時刻だ。
 おれは山へと続く野原へ、駆け出す。
 手にはパスケースを握りしめた。
 いつか――、もっと小さい頃に読んだ物語のことを、おれは思い出していた。

(するとどこかで、ふしぎな声が、銀河ステーション、銀河ステーションと云う声がしたと思うといきなり眼の前が、ぱっと明るくなって――)

「おーーーーーい」
 おれは夜空へ呼ばわった。
「乗せてくれよお! おれが乗ってもいいんならさ!」
 それは、奇跡か、それとも魔法だったのだろうか。
 あっけないほど簡単に、それはやってきた。
 星空の彼方から、硝子の楽器のような音を立ててきらめく線路が中空に弧を描く。
 あっと思う間もなく、おれは自分の目の前の野原の地面から、みるみるうちに石や木や金属が立ち現われて、こじんまりした田舎の駅にあるみたいなプラットフォームをかたちづくっていくのを見た。
 そして、音を立てて、その列車が今できたばかりの<停車場>に滑り込む。
 夢でも見ているみたいだ。
 呆然とするおれの目の前で、扉がすっと開いた。

「……」
 車両の中には、4人が向かい合って座れるボックス席が両側に並んでいる。
 誰も乗っていなかったが、そのうちのひとつに、おれは座った。
 日本の電車ではないようなつくりだ。昔風で、たぶん、ヨーロッパかどこかを走っているような感じだ。映画かなにかで見たことがあったかも。
『切符を拝見』
「!? ……うわあっ」
 おれが声をあげてしまったのは、いつのまにか、そいつがおれを覗き込んでいたからだ。
 ひどく背の高い、大柄な――服装からすると、この列車の車掌さんだと思われる人……なのかな。顔は、なにか仮面のようなものでよくわからなかった。仮面といっても、人間の顔ではなくて、ヘンなくちばしみたいなのがあって……、とにかく妙だ。
『キップ、キップ』
 車掌さん?の帽子のうえに、これまたおかしな、鳥型のロボットみたいなものがいて、おれを急かすような声を出す。
「あ――。すみません、持ってないんです。お金払ったらいいですか?」
『……』
 車掌さんは何もいわずに、じっとおれを見る。なんだか不思議な迫力がある。
『パスホルダー、パスホルダー』
 鳥がわめいた。
「え? あ、これ……?」
 おれは手に持ったままだったパスケースを見せる。ケースだけで、定期もなにも入っていないけど。
 でも車掌さんは、それを見ると、何もいわずに、歩いて行ってしまった。
「あ、ちょっと」
 がくん、と列車が揺れる。そして、身体が浮遊するような感覚。
「え、え……」
 動き出したのだ。
 窓にはりつくと……、すでに、そこは空中だった!
 おれは下を見下ろした。ぐんぐんと地面が遠ざかっていく。おれが乗った<停車場>はもうどこにも見当たらない。

『ロストレイル1号、特別運行便にご乗車いただき、ありがとうございます』

 どこかから放送が聞こえてきた。

『当列車は、まもなく、壱番世界よりディラックの空へと離脱いたします。揺れますのでどなたさまもお席をお立ちにならないで下さい。0世界へは、約一時間で到着致します』

 がくん、と車両が揺れる。
「なんだあ」
 窓の外は、一瞬にして、宇宙空間のような、しかしそれともどこか違う、不思議な光景に変わっていた。
「……は、ははは……」
 渇いた笑いが、自然に漏れる。
 なんだかこれは――、本格的に、すごいことになってきたぞ……。
 

名前の話

この呟きは本当にどうでもいい雑談です。

アリッサとアリオって名前の響きが似すぎていますが、偶然です。

ってか、なんっにも考えていなかったらカブっちゃいました。それに書いてから気がづくというていたらく。失敗したなあ。
アリッサにはアリッサである意味があり、先に決まっていたのですが、アリオはこのブログを始めてから超てきとうに名づけて、それも一応、自分の中では由来があったのですが……。

固有名詞の名付けはいつも苦労します。
今まさに、ロストレイルの公式NPCをつくっているのですが、いったい何と名付ければよいのか……。

銀幕の時も、イラストをお願いする段階で決まっておらず、イラストレーターさんに適当なウソ名前で発注させていただいたのを思い出します。公開時にぜんぜん変わっていて驚かれたかもしれませんね。

銀幕の公式キャラは自分ロジックでひねりすぎて、すこしヘンな名前になってしまったと思いますね。浦安くんは、あの有名なテーマパークのある地名からとっていますが、テーマパークが、というよりも、「映画会社であるところのD社」からきているんです……が、そのような指摘は3年間、とうとう一度もありませんでした(笑)。

嶋さくらはひっくりかえして「さくら・しま」→桜島、は、大阪の地名で、これも有名なテーマパークのある場所ですが、やはりテーマパークではなく「映画会社であるところのU社」からの連想なのでした。「盾崎時雄」は「盾」がロゴマークのワーナー・ブラザーズ(タイム・ワーナー)社で、タイム・ワーナーだから時雄だったりとか、そういう誰にもわからないロジックで決まったりしていました。

全員がそうではなくて、柊市長は単にハリウッドからの連想だし、ロイ監督など特に由来のないキャラもいます。植村さん、七瀬さんあたりはかなり飛躍しているので、余人には想像がつかないでしょう。梨奈ちゃんだけはひょっとしたら、想像がつく――かな? 東栄三郎は「東栄」→「東映」でこの人だけが邦画です。

PLのみなさんは、キャラクターの名前はどうやって決めておられますか?

旅人は忘れられるもの…

==<おしらせ>================
サイトを準備サイトとしてリニューアルさせました。
http://tsukumogami.net/rasen/

応援リンクのバナーなども公開しています。
よろしければご覧下さい。
========================

さて、アリオの冒険第2話です。
アリオが出会った少女アリッサとは、きっとPCさんもゲーム開始後に出会うことになるはずですので、名前を覚えておいてあげて下さい。

今回のお話の中で、アリッサたちが気になることを言っていますね。

「そうでないなら、すぐに忘れる。そういうルールだから」

また、アリオはアリッサが日本人ではないようだと思ったのに、彼女と普通に話せていました。

実は、ロストレイルの旅人は、旅先において3つの加護を持っています。

(1)旅人の言葉
降り立った地域で「もっとも一般的な言語」を理解し、使用できるようになります。

(2)旅人の外套
現地の人に対して積極的に接触せず、ごく普通の行動をとっている限り、あまり注目を浴びません。

(3)旅人の足跡
旅を終えて帰還したロストナンバーのことを、現地の人は高確率で忘れてしまいます。

この3つの力のおかげで、ロストナンバーたちは安心して異世界での任務に従事することができるようになっているのです。

しかし、アリオは彼がロストナンバーに覚醒する途中(本当ならアリッサは一目見て彼がロストナンバーだとわかったはずです。真理数が頭上に浮かんでいないからです。ここはまだ覚醒が不十分だったのだと解釈しましょう)だったためか、この影響を受けませんでした。

そして彼の手元にあらわれたパスホルダー。これはロストナンバーは全員所持している重要アイテムです。これを持つことで、その人はロストレイルの旅客になれるのですから……。

以前にもお話したように、この物語のここまでの内容は、PCさんであれば「登録以前」の出来事となるようなことです。『螺旋特急ロストレイル』では、キャラクター作成時に、PCさんの「来歴」を選択する項目を備えることを検討中です(まだ未定ですのでなくなっていたらごめんなさい)。

「来歴」とは、いかにしてロストナンバーになったのかを、いくつかのパターンに分類して、おおざっぱに指定したものです。キャラクターのバックストーリーは、プレイヤーさんの想像にゆだねられるべき部分ですが、今回は銀幕よりも依拠する世界観がしっかりしているぶん、こういった簡単な方向性の提示があったほうが逆にキャラクターをつくりやすいのではないか、と考えたことによるアイデアです。

反対に、なんにも考えずにフィーリングで「来歴」を選択して、そこから自分の設定を考えていく……といったやり方もいいかもしれません。PBWでは「キャラクターの初期設定は少ないほど遊びやすい」ものだと思っているDRのオススメのやり方でもあります。


本日はここまで。

次回更新は7月13日の予定です。ご感想やご質問などもお待ちしておりますのでよろしくです!

アリオの冒険:2


気がついてみると、さっきから、ごとごとごとごと、ジョバンニの乗っている小さな列車が走りつづけていたのでした。ほんとうにジョバンニは、夜の軽便鉄道の、小さな黄いろの電燈のならんだ車室に、窓から外を見ながらすわっていたのです。 
(『銀河鉄道の夜』宮沢賢治)



 走る、走る。
 おれの自転車が夜の畦道を走った。
 さっき見た、夜空を走る列車。あれは山のほうに向かったはずだ。
 このあたりはみんな夜が早いから、あれを見たのはきっと望遠鏡をのぞいていたおれだけだっただろう。
 あれは何だったのか……、おれが夢かまぼろしを見たのでなければ、空を飛ぶ列車だなんて。おれの知っている電車ではなかった。もっと古い――でも蒸気機関車ってほどじゃない、うまく表現できないけど、クラシカルな感じで。
 なぜだか、あれを追いかけないといけない。
 おれはむしょうに、そんな感じがしたのだ。まるで、そう――、あれがおれの乗る列車だ、とでもいうみたいに……!

 おれは出がけにひっつかんできた懐中電灯をつけて、山への入口に立つ。
 あたりは真っ暗で、電灯の輪の中には、ただ鬱蒼と生い茂る木や草が浮かび上がるばかりだ。列車がどこかに停まったのなら、なにか気配があると思ったのだが……。
 ――と、そのときだった。
「きゃーっ」
 突然の悲鳴に、おれは飛びあがる。
 そして、がさがさ、と木の葉が揺れ、木の枝が折れる音。
「いったーー」
「誰かいるのか!?」
 おれは声と音のしたほうへ走り、光を向けた。
「……あ」
 そこに、ひとりの女の子が、いた。
 年齢はおれと同じか、すこし年上くらいだ。
「……きみ、このへんの人? そうよね?」
 彼女は立ち上がると(それまで尻もちをついていたのだ)、土を払い、おれに向かって訊ねた。髪も瞳も黒――いや、深い茶色なのか?――だけど、顔立ちは日本人じゃなかった。でも、話す言葉は何の違和感もない日本語だ。
「最近、このあたりでおかしなことがなかった?」
「……」
 このへんの人、とおれに聞いたからには、彼女はよそから来たんだろう。こんな夜中に、この辺鄙な田舎にどうやって来るのか。答はひとつだ。
「空を飛ぶ列車を見たよ」
 おれがそう言うと、彼女はぽかんと口を開け、それから笑いだした。
「たしかにおかしなことだけど――それは、私たちが乗ってきたんだもの」
 やっぱり。
「でも驚いた。あなた、ロストレイルを見たの?」
「おおい、アリッサ! 大丈夫か!」
 別の方向から、声がかかった。
「怪我はなかったのか……って、誰だコイツ!?」
 茂みをかきわけ、あらわれた人物に、今度はおれが口をあんぐりと開ける番だった。
 すらりと背の高い身体に、時代がかった……これまた知識のないおれには正しい呼び名がわからないが、ゲームか映画に出てくるファンタジーな国の貴族っていうか、そんな感じの服装の人物だった。それはまあいいとして……、そのひとの首から上は、「ウサギ」だったんだ。着ぐるみ? いや、仮面か?
「なんだ、停車場のこんな近くに現地人!?」
「ロストレイルを見たんですって」
「はァ?」
 ウサギ男(声は男の声だった)は、女の子の袖をぐい、とひっぱると、コソコソとなにかを囁いた。女の子がそれに答を返し、ふたりでなにか相談をしているようだ。切れ切れに、真理……とか、ディラックの……とか、司書……とかいう言葉が聞こえた。
「うん、まあ、とにかく。驚かせてしまったようだが、それも明日になったら忘れるだろう。きみは、家に帰って眠りたまえ。じゃあな、少年!」
 それから、ウサギ男はそう一方的に宣言すると、女の子と連れだって行ってしまう。
「ま、待って! あんたたち、あの列車に乗ってきたって……あれは一体」
「それが運命ならいつか乗れるわ」
 女の子が、振り返って言った。
「そうでないなら、すぐに忘れる。そういうルールだから。……私はアリッサ。もしこの名前をきみが覚えていられたら、『着いた駅で、アリッサをたずねて』。じゃあね!」
 そして、ふたりは行ってしまった。

 そんなことがあったのが、もう一週間ほどまえのこと。
 すぐに忘れるだの、覚えていられたらだの、そんなことを言われたが、あんな出来事、忘れられるわけがないじゃないか。
 そりゃあ、たしかに、次の日起きたら、昨晩のアレは夢だったのかな?と思ったのは本当だ。でも、そうじゃない証拠があって……。
 そしてそれは、夏休みがはじまる前の日のことだった。
 最後のホームルームが終わって、放課後のチャイムが鳴る。
 机の中に置きっぱなしにしていたテキストなんかも、今日は持って帰らないといけないと思って、おれは机の中のものをひっぱりだして――、そこにそれを見つけた。
「なんだ…………これ?」
 おれの持ち物ではなかった。
 いったいいつからここにあったのか。
 それは……てのひらに収まるサイズの、パスケースだったのだ。

あるロストナンバーの物語

アリオの冒険」はとあるロストナンバーが旅に出るまでの物語。
このほうが具体的なイメージが掴みやすいかも、と思って小説風に書いてみました。

PCさんは、すでにロストレイルの旅客となった状態でゲームをスタートするわけですので、ここで描かれるようなことは「バックストーリー」ですね。バックストーリーは、各プレイヤーさんがそれぞれ自由に考えてもらえればよい部分ですが、このお話がイメージするうえで参考にしていただけるかなと思います。

アリオくんは壱番世界に住んでいた16歳の男の子です。ですからキャラクタータイプでいえば「コンダクター」ということになります。

授業中の居眠りから目覚めた彼が、先生やクラスメートの頭上に『数字』を見る場面は、彼が<覚醒>してしまったことを意味しています。彼が見た『数字』は<真理数>。世界群のはじまりとともに存在していた『数字』です。ロストナンバーにはこの数字が読めます。ここは「+1階層」の壱番世界なので、みんな「1」が着いていたんですね。この真理数を読み取る能力を<真眼>といい、ロストナンバーが共通して持つ力です。これによってロストナンバーとそうでない人をすぐに見分けることができます。

彼が夜空に見たのはもちろん「ロストレイル」です。
普通、ロストレイルは、その世界の住人に目撃されないように走行します。アリオが列車を見たのは、ひとえに、彼の「運命」だったと言えるでしょう。ロストナンバーたちの運命は、自然と旅立ちへとつながっていくのですから。

今回からしばらくは、「アリオの冒険」の物語を追いながら、開発レポートで解説を加えるという形式にしたいと思います。次回更新は7月6日予定です。