小説「人格転移の殺人」 西澤保彦
「七回死んだ男 」に続き、また西澤保彦がやってくれました。
- 人格転移の殺人 (講談社文庫)/西澤 保彦
- スコア選択: ★★★★★
ファーストフード店にたまたま居合わせた男女6人。
そのとき大地震が起き、ちょうど近くにあった大きめのシェルター(?)に死に物狂いで入りこんだ。
が、そのシェルターは人格を転移させる機械で…
CIAが人格転移の実験を行っている場面から始まる本書。
研究者とその助手が軽やかなやり取りで背景などを説明します。
このとき既に”転移マシーン”が大前提として語られるため、まずこれを受け入れないと先に進めません。
前にも後にも、この機器の種明かしは無いですので。
そして、20年後。。。
ファーストフード店に集った国籍も性別も違う6人。
店の片隅に人知れず置かれた機器が地震を引き金に人生を狂わせます。
ここで疑問がひとつ。
なぜ登場人物が外人ばかりなのか?
日本人が主人公で、この面子は珍しいのではないでしょうか。
しかし、最後まで読めばその必要性は理解できます。
また、他にも色々と疑問は出てきますが、最後にはほとんど理解できるのでご安心を。
このあたり、よく考えて構成されていると思います。
意味の無さそうな会話や行動が実は重要な意味を持っていたりします。
それを知ったときのやられた!という快感は”七回死んだ男”に通じるものがありますね。
しかし、この本は中盤までが退屈なんです。
説明が長く、展開が遅いのがその理由。
本当の面白さは中頃の転移が始まってから。
ここから怒涛のように転移が起こります。
そして殺人も。
これがまた怖い。
そして読者は主人公と一緒に謎を解いていくことに。
ここにも落とし穴があり、正当な(に思える)謎解きでまんまと穴に落とされ…
もうここまできたら脱帽と言うしか無い。
どんでん返しも殺人の動機も緻密に計算され、すべて納得のいく出来でした。
この読後の爽やか~な気分は一度味わって欲しい。
また、読むときはメモをとりながらをオススメします。
転移によって人格がコロコロ変わって、混乱する可能性があるため。
そのときに状況をしっかり理解しないと最後の驚きが半減しますよ。
素早い展開と驚きの結末、これは映像向きだと思います。
できるなら「キサラギ」の監督でやってもらいたい。
とはいえ、日本語が流暢に話せる外国人探しが最大の難関ですが…
DVD「ニセ札」 レビュー
実話をもとにした内容です。
- ニセ札 [DVD]/木村祐一,倍賞美津子,青木崇高
スコア選択: ★★★
製紙産業が有名な小さな村で、ある夜4人が集まり、シンゴからある提案がなされた。
それは出回ったばかりのお札を複製するというもの。
それぞれのスペシャリストが賛同し、その計画は始まった。
監督がキム兄だからどうこうと言うつもりはないです。
それ無しでも、よく出来てると思える内容。
面白そうなタイトル、題材から期待しすぎて、ガッカリくる人がいるかもしれません。
つまらなくも無いし、心踊ることもないけど、しっかり最後まで見れる無難な出来。
今回キラリと光ってたのはインパルスの板倉さん。
まるでスネ夫のような軽く、信頼できない奴を好演しています。
素ともとれる演技は絶妙で、監督の配役に拍手。
ただ、シナリオが惜しい。
知的障害者の文夫が度々、意味深な場面で登場するのに、効果的に使われていません。
この彼の存在理由からくるモヤモヤ感がとても残念。
先が読めるし、驚きがないため、普通の作品という烙印を押されてしまうのでしょう。
実話をアレンジするなら、もっと大々的に付け加えてもよかったかな。
この作品で一番言いたかったのは最後の法廷でのセリフだと思います。
拝金主義の現代を皮肉るポップな作品でした。
小説「トンコ」 雀野日名子
短編3本収録されてます。
- トンコ (角川ホラー文庫)/雀野 日名子
スコア選択: ★★★
トンコ…高速道路で運搬トラックが横転。その拍子に中にいた豚のトンコが脱出する話。
ぞんび団地…ゾンビになりたい少女の話。
黙契…自殺した妹のことを想う兄の話。
あとがきで書いてある通り、ホラーが苦手な人でも読める内容です。
素人とは思えないほど描写がうまく、3つとも全然色が違います。
トンコでは、豚の感情と上からの視点を組み合わせ、切なさを生み出しています。
トンコの”想い”と的確な”行動説明”の相乗効果は想像以上。
逃げているわけではないけど、なぜか追いかけてくる鬼の形相の人々は豚の目から見たら確実にホラーです。
次にゾンビ団地。
こちらは、です・ます・た口調で児童文学のよう。
愛情を与えられない子供がゾンビに愛情を求めるという、薄愛の家庭を皮肉った内容。
柔らかい描写に潜む悲劇的な出来事がホラー。
最後に黙契。
これはオーソドックスな描写で、ストレートに内容勝負の一話です。
妹の死で明らかになっていく真実が悲しい。
感情多寡の人は胸にグサッと来るものがあるはず。
これは意外にも、妹の死によって豹変していく兄の恋人が一番のホラー。
色々書きましたが、ホラーのゾクゾクっとするものはないです。
ホラーでも変わったものを読みたいと言う人はオススメ。
DVD「机のなかみ」 レビュー
2006年公開。
- 机のなかみ [DVD]/あべこうじ,鈴木美生,坂本爽
スコア選択: ★★★★
可愛い女子高生(鈴木美生)の家庭教師になった馬場(あべこうじ)。
彼女の父親からくれぐれも間違いのないようにと釘を刺されるが、馬場の心はそうはいかない。
しかも、彼女もまんざらでは無いらしく…
心のダークな部分を明るく描いた監督の勝利。
良かった点をピックアップしてきます。
まず、鈴木美生が可愛い。
当時20、21歳?とは思えないほど幼い容姿はこの内気な女子高生役にぴったりです。
そんな無垢な彼女はあべこうじの毒牙にかかってしまうのか?
二人きりの室内では、一挙一動にハラハラドキドキ。
まさに、可愛い女の子の家庭教師なんて羨ましすぎるぜ!状態。
また、あべこうじのキャラが好青年だったら許せる(?)けど、どう見てもウザキャラ。
前半はこの二人が段々と近づいていく様子(馬場の目線)をジリジリ見せられ、スクリーンのこちら側としてはイライラしないわけがない。
この時点で既に監督の策略にハマっているわけで、後半になって初めて騙されてることに気づきます。
後半はうって変わって女子高生のターン。
時間を遡って同じシーンを女子高生の目線から辿っていきます。
これが前半とは一転、全く違う心境で見てる自分がいました。
思い込みとは怖いもので、独りよがりだということを痛感させられます。
と、ここまでがひとつ目。
次に、ダークな心の描き方。
友達同士、恋人同士、はっきりと言うわけでもないし、行動に移すわけでもないけど、明らかにブラックな部分を覗かせます。
間接的な言葉や小物を適所に用いて、彼女に地味なダメージを与える。
その積み重ねによる結末があの部屋での混沌としたシーンでしょう。
その辺の描き方が的確で、監督の才能を感じさせます。
最後に鈴木美生の限界セクシーシーン。
これは頑張ってたと思います。
そこまでエロ路線では無いですが、存在感は抜群でした。
残念だったのは、鈴木美生の演技。
前半はセリフ少なく、純真な雰囲気が出てて良かったのですが、ラストの感情を表に出すシーンには申し訳ないけど酷すぎて笑ってしまいました。
とてもポスト宮崎あおいとは言い難い演技力です。
でも、それを補うかのごとく他の役者はクセがあって上手。
それゆえ際立って見えたのかも。
世に出てる膨大な作品群に埋もれさせたくないキラっと光るB級映画。
てことで、気になったら見てください。
DVD「酒井家のしあわせ」 レビュー
音楽は山崎まさよし。
- 酒井家のしあわせ [DVD]/ユースケ・サンタマリア,友近,森田直幸
スコア選択: ★★★
子どもが親を選べへんように親も子どもを選べへんねん
次雄(森田直幸)の母(友近)は父の死後、今の父親である正和と再婚した。
新しい父親(ユースケ・サンタマリア)にまだ馴染めない、そんな時、父親が男を好きになったと言って家を出て行ってしまった。
訳も分からず一人考え込む次雄がとった行動とは。
新しい父との距離感が分からない。
それに加え、最近親どうしの仲が悪いし、何においても上手くいかない気がする。
そんなもやもやした思春期の葛藤を主役の森田直幸くんが好演してます。
彼はどっかで見たことあると思ったら、「きみの友だち 」に弟役で出てたんですね。
そちらもいい役どころでしたが、今作の方が役者としての実力が分かります。
父はホモで、血も繋がってないけど、行方が気になるのはやはり子供だから。
親が家族を想うのと同様、子供も親のことをしっかり考えてます。
その辺の熱いやりとりに注目。
また、中だるみ防止のアクセントとして、ちょっとした驚き、感動も用意されており、退屈しないよう工夫されてます。
ただ、どんでん返しも感動も何か足りない。
それはユースケの演技から発される現実感の希薄さが原因に違いない。
まず、役に対して悲壮感が全然感じられない、明るすぎる。
これはネタバレになるので、見て感じてください。
次に、「黙って忘れてくれ」というセリフ。
家族を想っての行動ならば、あの場面でこんな言葉を吐くとは思えない。
色々考えてのことかもしれないけど、あまりに無責任すぎる。
アレとかコレとか連発でわけ分からないと思いますが、ここも映画を見て納得してください。
そして最後まで楽観的な雰囲気は続き、めでたしめでたし。
これならメーター振りきって完全にコメディ路線でも良かったのでは?