4日遅れでバレンタイン記念SS第二弾
こちらは通常営業です



時空管理局本局、ロストロギア保管庫。
ここには、各次元世界から回収された、“ぶっちゃけやばそうな”ロストロギアが集められ、厳重に保管されている。
そして本来ひと気など無いはずの薄暗い庫内に、もぞもぞと動く二つの人影があった…

「…私の調べた情報が確かなら、この辺りのはずなの…」
「…なのは…やっぱり、やめた方がよくないかな…?」
「フェイトちゃん…私達に、最早手段を選んでる余裕なんて無いの…」

片や管理局の誇るエース・オブ・エース、高町なのは。
片や管理局きっての敏腕執務官、フェイト・T・ハラオウン。
その2人が、こんな場所で何をしているかと言うと…

「それは、そうだけど…流石に、保管されているロストロギアを無断で持ち出して使うのは…手段がどうとか以前の問題なんじゃ…」
「乙女にとって恋愛は何にも勝る最重要事項なの。管理局の法律なんて、その前では塵よりも軽いの」
「バレて捕まったらどうするんだよ…」
「それで局をクビになるなら望むとこなの。ストーカー同然のファンを気にせず、堂々とユーノ君のもとに嫁げるの」
「クビじゃ済まないよ…下手すりゃ実刑は免れないよ…」
「その時はその時、ユーノ君とヴィヴィオと家族3人で愛の逃避行なの…あ、あったの!」
「え、本当にあったんだ?第87管理外世界で発見された超強力な媚薬、『サカリツーク8000』が!?」

なのはが目的のブツを発見した途端に、それまで乗り気じゃなさそうだったフェイトが食い付く。

「間違いないの…これさえあれば、夢にまで見たユーノ君でロストバージン…そのまま、あのブラコン巨乳女の手の届かない遠い世界で、ユーノ君と私とヴィヴィオの親子3人で幸せに暮らすの…」
「わわわ、私もソウマに処女捧げて…姫子から、略奪愛しちゃうんだ…エリオ、キャロ、もうすぐお父さんを紹介してあげるからね…」

ハァハァと不気味に息を荒げながら、妄想で盛り上がる2人。
と、その時、不意に庫内の照明が灯り2人を眩しく照らした。

「「っ…!?」」

慣れた暗闇からいきなり眩い光に照らされ、眩んだ目をしょぼつかせる2人の背後から、三つの人影が近付いてくる。

「ハイ、2人ともそこまでやで~」
「なのは、今すぐそのケースを置いてあった場所に戻せ。変な真似したらアイゼンの頑固な染みにするぞ」
「テスタロッサ、お前も両手を挙げて頭の後ろで組め。レヴァンティンの錆になりたくなければな」

管理局の切り札たる凄腕捜査官、八神はやて。
その両隣には、彼女の騎士であるヴィータとシグナムが控えている。

「ど、どうして分かったんですか…?」
「あれだけ血眼になってそのロストロギアの情報を調べていたら、お前達が何をしようとしているかぐらい簡単に検討がつく」
「嘘っ!?…さり気無く調べていたはずなの…」
「デスクワークサボって関連資料漁るのの何処が「さり気無く」だ!?」
「さぁ、2人とも観念しぃや。今なら、何も無かった事にしといたるから…」

シグナム・ヴィータと間抜けな遣り取りをするフェイトとなのはに溜息をつきつつ、はやてが2人に歩み寄る。

「ぐっ…こんなところで諦めるわけにはいかないの…このサカリツーク8000には、私の『ユーノ君ゲット大作戦・バレンタイン編』がかかってるの…」
「私だって、ソウマを姫子から奪い取る数少ないチャンスなんだよ!?はいそうですかと諦められないよ!」
「ロストロギア指定されてる媚薬をバレンタインチョコに入れて既成事実て頭悪過ぎやろ常識的に考えて…まぁ、なのはちゃんとフェイトちゃんが焦る気持ちも分からんでもないけど…」

ある意味予想通りの反応に、はやては頭を抱えたくなった。
六課の隊長クラス2人が本局に保管されているロストロギアを無断で持ち出して使用など、はやての責任問題だけでは済まないだろう。
下手すればなのはもフェイトも逮捕は免れない。
しかも、それを承知の上で次元世界のお尋ね者になってそれぞれ意中の人と逃亡生活を送るつもりでいるのだからタチが悪い。
当然、ユーノやソウマがこの事を知る由も無いのに。

「はやてちゃんに何が分かるって言うの?フラグが立つどころか、フラグを立てるお相手さえ居ないのに!」
「そうだよ!雑誌の写真撮影でいつも背景の穴埋めかハブにされて、ガチレズ扱いされた事の無いはやてに私達の気持ちは分からない!!」

グサッ!
グサグサッ!!

「ぐはぁっ…!?」

なのはとフェイトの言葉の刃がはやての心にクリティカルヒット!
はやてはその場に突っ伏して倒れてしまう。

「はやてーっ!?」
「主っ!?主ぃ!お気を確かに!!」

慌ててはやてを介抱するヴィータとシグナム。
その隙を逃すなのはとフェイトではなかった。

「フェイトちゃん、今のうちに逃げるの!」
「合点承知の介だよ、なのは!」

バリアジャケットを構築し、サカリツーク8000の保管されたケースを抱えて逃げ出すなのは。
フェイトもそれに倣う。

「しまった!?」
「あいつら…ん?」

咄嗟に追おうとするシグナムの手を、倒れたはやてが掴んでいた。

「主、如何されました?」
「………や…」
「…はい?」

何やらボソボソと呟くはやてに、怪訝そうに耳を近付けるシグナム。

「捕まえるんや…あの2人を…」
「は、はぁ…それは勿論、直ちに…」
「非殺傷設定は解除してかまへん…非常事態や、2人の生死は問わん…」
「………は?」

主の口から飛び出した不穏な言葉に、シグナムは我が耳を疑い、思わず硬直してしまう。

「ええから、何が何でも捕まえるんや!ロストロギアの奪回を最優先とし、2人があくまで抵抗するならDead or Aliveやー!!」
「はやてがキレたー!?」

完全にプッツンした状態で喚くはやてに呆然としながら、ヴィータは万が一を考えて保管庫の入り口で待機させておいたスバルとティアナが、何とかなのはとフェイトを取り押さえてくれる事を願ったが…

『大変ですぅ~!保管庫から出てきたなのはさんとフェイトさんに、スバルとティアナがあっさり撃破されてしまったですぅ~!!』
「やっぱ駄目かチクショー!」

やはり入り口で待機していたリインフォースⅡからの念話に、ヴィータが天井を仰いで絶叫する。
幾ら日々実力を上げているスバルとティアナとは言え、ユーノLOVEで暴走しているなのはとソウマLOVEで暴走しているフェイトの相手は荷が重過ぎたようだ。

『2人はそのまま逃走を続けているですよ!』
「行くぞヴィータ。こうなった以上、我らであの2人を止めるしかない!」
「でも、はやてはどーすんだよ!?」

最早完全にトチ狂ったのか、コロセーコロセーと十面鬼のように喚き散らすはやてをこのままにしておくのは気が引けたが…

「…置いていくしかあるまい。下手にお連れしたら、本気でなのはとテスタロッサを殺しかねん」
「…だな…」



それから、2時間46分にわたる追跡劇の末、なのはとフェイトはザフィーラの鋼の軛に行く手を阻まれ、シャマルによってリンカーコア<はらわた>をブチ撒けられ、行動不能に陥ったところを漸く御用となったのだった…



一方その頃、クラナガン郊外の豪邸・姫宮邸のキッチンでは…

「…どうして私は姫子に監視されながら、ユーノへのバレンタインチョコを作っているのかしら…?」

ボウルの中の湯煎で溶かしたチョコをゴムべらで掻き混ぜながら、エプロン姿の姫宮千歌音が溜息混じりに呟く。

「それはね、千歌音ちゃんがユーノ君へのチョコに変な物を入れたりしないようにする為だよ」

同じくエプロン姿の大神姫子(旧姓・来栖川)が、仁王立ちで腕組みしながら、そんな千歌音を見張っている。

「失礼ね。親戚の『J親父』さんから購入したこの『白金粒精泉ジャクビンビン』を入れるだけよ」
「名前だけで十分怪し過ぎるわーっ!」

スパーンッ!

「ぎゃふんっ…!?」

いかにも怪しげなJ丸印の小瓶を取り出した千歌音の顔面に、姫子のハリセンがいい音を立てて炸裂した。

「うぅ…姫子が、姫子が私とユーノのハッピーバレンタインを邪魔する…」
「ハッピーなのは千歌音ちゃんだけでしょ…そんな如何わしい薬を実の弟へのチョコに盛るなんて…」
「でも、これを使うと、いつもはベッドの中では生まれ立ての子犬のように大人しいユーノも、雄の本能丸出しでガンガン攻め立ててくれるのよ?」
「既に使用経験の前科アリ!?おまわりさんこの人です!」

姫子は本気で頭が痛くなってきた。
この容姿端麗・頭脳明晰なはずの親友は、弟の事になると一瞬で只の変態と化す。
デウス・エクス・マキナを巡る一連の戦いの後、千歌音がユーノと一緒に暮らす事にしたと聞かされた時は、姫子も千歌音の孤独を知っているだけに、心から祝福したのだが、まさかこの親友がここまでのブラコンに超進化<ビッグバン・プログレス>するとは思ってもいなかったのだ。

「姫子…見逃してくれたら、貴女にも一瓶分けてあげてもいいんだけど…」
「…シグルブレイドでぶった切られたいみたいだね…」

千歌音の提案に、米神に青筋を立てながら、姫子は怒りの力でスパローのウェアをゲイジングしようとするが…

「だって…大神君、姫子の事を大事にし過ぎてそうなんですもの…姫子だって、偶には壊れるぐらい滅茶苦茶にして欲しい、って思う時ぐらいあるでしょ…?」
「それは…まぁ、ねぇ………ソウマ君、いつも私の事気を遣ってくれるけど…気を遣い過ぎて、ちょっと物足りないかなぁ…なーんて思っちゃったりする事も…確かに…」

図星を指され、あっさり怒りを収めて同調しだす姫子。
やはり親友、何処か似た者同士なところがあったようだ。

「男性局員のお給料は安いけど、何とかやりくりして大分貯金も出来たし…そろそろ、子供も欲しいなぁ…なんて…」
「でも、姫子がそんなに怒るんじゃ仕方ないわね。残念だけど、今回はお詫びの手紙を添えて『J親父』さんに返品する事にしましょうか…」

ガシッ!

わざとらしく小瓶を仕舞おうとした千歌音の腕を、姫子が掴む。

「…どうしたの、姫子?」
「千歌音ちゃん…バレンタインは女の子にとっての一大イベントだよ?ちょっとぐらい、ハメ外しちゃってもいいんじゃないかな?」

極上の笑顔を浮かべながら、姫子は寝返った。
普段、千歌音に対するツッコミに情けも容赦も無いのは、実は欲求不満の八つ当たりも混じっていたのかも知れない。

「話は聞いたわ。私にも、その薬分けてもらえないかしら?」

いつの間に居たのか、キッチンの入り口にルナマリア・アスカ(旧姓ホーク)が佇んでいた。

「ルナちゃん、どうしてここに?」
「ツッコミの増援が要るかと思って来たんだけど…」

増援が現れて即寝返りとか、前代未聞である。

「まぁ、それはともかく…改めて、3人でバレンタインのチョコ作り、再開しましょうか」
「「おーっ!!」」

最早誰も止める者の居なくなった千歌音に、欲望に魂を売り渡した女2人が拳を振り上げて同意する。



結局、バレンタイン当日の2月14日を、なのはとフェイトは六課のオフィスで、始末書の山に埋もれて過ごした。
そして翌日の15日、ユーノとソウマとシンは黄色い朝日を見る羽目になり、千歌音と姫子とルナはその日一日、妙に肌がツヤツヤしていたという…



これにて今年のバレンタインSS記念は終了
前回、真面目なユーなの更新しといて、その翌日にこんなの更新する私は頭おかしいと思う
3日遅れのバレンタイン記念SS
先にタクム・ノノハラさんのブログで

短編:これ以上、失う物など、もうないから・・・

を読んでおく事をお勧めします(ヲイ



満月。
夜空の闇を照らすように、煌々と金色に輝く、丸い月。
その月に、無責任な悪意が眠っている事を、人々は知っているのだろうか?

「…お月様なんて、大っ嫌い…」

そんな悪意の存在を知る数少ない一人である、中学生ぐらいの少女が、夜空に浮かぶ月を見上げ、鬱屈した思いを吐露するように呟いた。



『神無月月面戦役』
時空管理局と、邪神ヤマタノオロチとの壮絶な戦いから5年。
その戦いは、今や管理局のエースと称賛される『高町なのは』と『フェイト・T・ハラオウン』が、力を合わせて邪神を撃退した、と公式では記録されている。

だが、真実はそうではない。
この戦いを勝利に導いた、『真の英雄』は他に居て。
邪神の呪いを受けた彼は、肉体は管理局による最先端の治療で完治したものの、精神は完全に崩壊し、廃人同然の状態で。

「………ソウマ君だけじゃ、ないよ…」

そして、もう一人。
廃人にこそなっていないものの、この戦いで、心に大きな傷を負った少年が居る事を、少女は…高町なのはは知っている。
その元凶が今も眠る月の輝きが、彼らを冷酷に嘲笑っているように見えて。
なのはは、その月をキッと睨まずにはいられなかった…



時間は遡って、その日の夕方。
なのはは早めに終わった教導隊の仕事の帰りに、無限書庫を訪れていた。

「ユーノ君。今、大丈夫?」
「やあ、なのは。丁度、ひと段落したところだよ」

出迎えたのは、無限書庫司書長である『ユーノ・スクライア』
なのはに魔法を教えた、師匠とも言うべき人物。
そして彼こそが、神無月月面戦役において、心に大きな傷を負った少年だった。

「…ひと段落、って…やっぱり、あの人達の事…?」
「うん。あのまま一件落着ってわけにもいかないしね…叩き起こして、月の社から引きずり出して…ちゃんと、ソウマさんに謝らせなきゃ…姫子さんも…姉さんも…」



『姫宮優乃』
それがユーノの本当の名。
そして剣神アメノムラクモと共に封印された太陽と月の巫女の片割れ、月の巫女である『姫宮千歌音』こそが、彼の生き別れの姉である。
だが、再会したたった一人の肉親が彼にした仕打ちは、非道極まりないものであった。
自分と同じ血を引き、月の巫女と同じ力を秘めた弟を、千歌音は自分の身代わりとして、邪神への供物に捧げようとしたのだ。
全ては太陽と月の巫女の宿命を逃れ、太陽の巫女である『来栖川姫子』と愛し合う為に。



「カズキさんから譲ってもらった文献とかを調べてるんだけど、いまいち決定打に欠けてね…こうなったら、もう一度、徹底的に月面を調査するしかないかな…」

そう言って苦笑したユーノの笑顔が、なのはにはとても痛々しく見えた。
当然だろう。
天涯孤独だと思っていた自分の前に現れた唯一の肉親に、最も手酷い形で裏切られたのだから。
本当なら、心に蓋をして、忘れ去ってしまいたいはずだ。
それでもユーノは、今も月の社に眠る2人の巫女を解き放つ方法を、苛烈な業務の合間を縫って探している。
2人に罪を償わせる為に。
彼女らの犠牲となって心が壊れてしまった『大神ソウマ』に詫びさせる為に。
そんなソウマを想い続ける、フェイトの為に。



その為に、自分の心の傷を抉り続けているユーノより、完全に精神がズタボロになり、心の傷を感じる事すらなくなってしまったソウマの方が、よっぽど幸せなのではないだろうか?
なのはの中で何度も、そんな思いが湧き上がってくるのを抑えられない。
一度、うっかり口に出して、フェイトと大喧嘩した事もある。
フェイトとはどうにか仲直りしたが、その一件で、漸く、なのはは自分の中にある一つの想いにはっきりと気がついた。

かけがえのない親友であるフェイトと喧嘩しても。
そのフェイトの、ソウマへの想いを知っていても。
それでも、自分にとってはユーノの方が、それ以上に特別なのだと。

フェイトが、ソウマを想っているように…自分は…



 数えきれない 想いに包まれて
 いつしかきっと この星も恋に走り出す



神無月月面戦役の後、なのはは時間の余裕を作っては、積極的に無限書庫を訪れ、ユーノも時間が空いている時は、出来るだけ一緒に過ごすようにしていた。
そうしなければ、ユーノがいつか、壊れてしまいそうで不安だったから。
お互いの休日が重なった日は、ユーノを街に連れ出し、食事やショッピングに引っ張り回した。
デートと呼べるようなものではない。
なのはは内心、少しでもユーノの心の傷が和らげばという気持ちでいっぱいいっぱいだし、ユーノの笑顔は、あの戦い以降、ずっと心成しか強張ったままだ。

それでも、なのはは、それが辛いとは少しも思わなかった。
思えば、11歳の撃墜事故以来、ユーノは、自分に対して必要以上の負い目を抱いているようなところがあった。
なのはに魔法を教えた事で、平凡な人生を歩むはずだった少女を、戦いの世界に巻き込んでしまったと。
それからというもの、ユーノは献身的過ぎるほどになのはをサポートし続けた。
司書長と考古学者の激務の真っ只中にも関わらず。
だから、その恩返しが出来る、というのが理由の一つ。
そして、もう一つは…



「ね、ユーノ君…時間空いてるなら、食堂で、お茶にしない?今日も、差し入れ持ってきたから」

今日のように仕事のある日でも、なのはは必ず手作りのお弁当やお菓子といった差し入れを持ってくるようにしている。
特に今日は、とっておきの差し入れがあった。

「ん、いいよ。何か悪いね、いつもいつも気を遣ってもらっちゃって…」
「そんな事ないよ。私が、したくてしてるんだもん」

すまなさそうに苦笑するユーノに、頭をブンブンと横に振って答える。
それは、なのはの嘘偽らざる気持ち。



「チョコレートケーキか…今日は、随分と気合が入ってるね」

食堂のテーブルについたなのはがバスケットから取り出したのは、喫茶店を営むパティシエである母親直伝のチョコレートケーキ。
店に出しても見劣りしないであろうその気合の入りように、ユーノも圧倒される。

「当たり前だよ…ユーノ君、今日が何の日だか分かるでしょ?」
「えっ?…うーん…今日は、2月の………ああ、バレンタインデー?」

思い出すまでに暫く間が空いた。
行事を事細かに覚えていられないほどの日付の感覚。
無限書庫の仕事は、相変わらずの強行軍らしい。

「もう…無理はしちゃ駄目って言ったのに…やっぱり、日付の感覚がおかしくなってる…」
「ごめんごめん。ちょっと度忘れしてただけだから」

慌てて誤魔化すユーノに、溜息をつくなのは。
自分もあまり人の事は言えないが、それにしてもユーノは自身を大切にしなさ過ぎる。

「…でも、こんな立派なケーキ貰っちゃっていいのかな。バレンタインってのは…」
「いいの!…ユーノ君には、いっぱいお世話になってるから…」

嘘だ。
そんな義理だけで、こんなケーキを作ったりはしない。
でも、本当の気持ちを今のユーノに伝えるのは、躊躇われた。
漸く巡り会えた、たった一人の肉親に裏切られた、心の隙間に付け入っている、そんな卑怯な真似をしているように思えたから…



 音のない星空に ひとりで泳ぐから
 寂しさに負けないように そばで笑って



そして、時間は戻る。
あの後、ユーノと取り留めの無い世間話などをして過ごし、仕事に戻る彼を見送り、なのはは海鳴の自宅への家路の途中で、煌々と夜空を照らす満月を見上げていた。
ユーノを裏切り、本当の孤独へと追いやった、彼の生き別れの姉が眠る月を。

「絶対に、謝らせるから…ソウマ君にだけじゃなく、ユーノ君にも………2人の前で、土下座して、謝ってもらうから…」

千歌音と姫子を月の社から引きずり出したら、特に姫子は引っ叩いてでもソウマの前で土下座させると、フェイトは言っていた。
その気持ちも、今のなのはにはよく分かる。
なのはも、特に千歌音はぶん殴ってでもユーノの前で土下座させるつもりでいるから。

「あんな酷い事するお姉さんなんて、ユーノ君には要らないんだ………ユーノ君の傍には…傍には………ッ!」

喉の奥まで出かかった言葉を飲み込み、なのはは早足で再び歩き出す。
頭上で呪いのように輝く、満月を振り切ろうとするかのように。
今は言えなくても、いつかきっと、この想いをユーノに伝えると決意して。
実の肉親が裏切ろうとも、自分だけは、ずっと傍に居るから…と。



 恋しい夜には
 想い届けて
 離れてるふたりに 同じ夢見させて
 いつでも 柔らかく抱き寄せてる



時は流れて…

「なのはママー、フェイトママー、まだ~?」

高町家の玄関で、おめかしした小学校中学年ほどの少女が、不満げに声をあげた。
金色の髪に、右が緑、左が赤の目をしたオッドアイの少女。
広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティの引き起こした『JS事件』の後、なのはが養女として引き取った『高町ヴィヴィオ』である。

「お、お待たせ~」
「ごめんねヴィヴィオ~」

慌てながらも、しっかりとお洒落して玄関へと駆け込んできたのは、すっかり成人女性へと成長したなのはとフェイト。
今日は久しぶりに家族全員の時間が合い、揃ってお出かけ出来るという事で、早く出発したくてたまらないヴィヴィオは、そんな2人の『ママ』にお冠だ。

「2人ともおそーい!ユーノパパもソウマパパも、とっくに準備できてるのに」

腕を組んでプンプンと怒るヴィヴィオの後ろで、スーツ姿の2人の青年が苦笑する。

「ヴィヴィオ、男の人は女の人と違っておめかしにあんまり時間かけないから、比べちゃ駄目だよ」

緑のスーツを着こなした、こちらも立派に成人男性へと成長したユーノが、宥めるようにヴィヴィオの頭を撫でる。

「そうだぞ。ヴィヴィオも、今日はお出かけだからお洒落してるだろ?それと同じさ」

代わって青いスーツが様になる、こちらは多少貫禄が付いたものの、実年齢よりはかなり若く見えるソウマが、やはりヴィヴィオの頭を撫でた。

「むぅ~…パパ達はママ達に甘すぎると思います!」

大好きな2人の『パパ』に頭を撫でてもらい、怒りが思いっきり和らいだ事の照れ隠しのように、わざと膨れてみせるヴィヴィオ。

「ヴィヴィオにも、十分甘いよね…」
「うん。時々、羨ましくなるぐらいにね…」

そんな様子に、なのはとフェイトも苦笑する。



ユーノが居て、なのはが居て。
ソウマが居て、フェイトが居て。
そして、ヴィヴィオが居る。

きっと、彼らはこれからずっと、幸せに暮らしていくのだろう。
彼らを縛り、未来を閉ざしていた呪縛は、もう無いのだから。



 どんなに遠くても
 そばにいるから
 心に決めた星 たどりつくその日まで
 信じて いつまでも待ってるから



…バレンタインほとんど関係無い…
タイトル及び本編中の歌詞は『YAT安心!宇宙旅行』の2mdEDより
一ヶ月ぶりの更新、しかも初のユーなのSSが他人の設定流用ってどうなんでしょ(;^_^A
前回までのあらすじ

ループ屋が漸く『MOVIE大戦MEGA MAX』を見てきたのを記念して、はやてが前回スペリオルユーノにオチを持っていかれたリベンジも兼ねて第二回カラオケ大会を開催。
なのはがユーなのの語呂合わせで『魔法戦隊マジレンジャー』を熱唱すれば、千歌音はユーノと『Time judged all』をデュエット。
そして毎度のようにユーノ争奪戦へと雪崩れ込むのだった。

こいつは凄いぜェ!

ユーノ「メタルダーの予告とか、分かる人居るのかなあ…」



リリカルなのは×神無月の巫女×ガンダムSEED

カラオケ大戦メガミックス



前回、なのはと千歌音が一触即発の状態になっていたステージも、どうにか平穏を取り戻していた。

はやて「ほんま、大変やったわー…」
シン「危うく会場が戦場に変わるとこだったな…」
はやて「とてもブログを見てる皆さんにはお見せ出来へんね。放送事故ってやつや」
シン「会場が無事修理出来て良かった…」

難を逃れて安堵する司会と副司会。
何があったのかは気にしてはいけない。

はやて「ほな、気を取り直して、次いってみよかー!」

はやての仕切り直しの言葉を受けて、ステージに上がったのは意外な2人だった。

ルナ「三番、ルナマリア・ホークと!」
コロナ「コロナよ!」
ルナ「『リリカルユーノ アニメイテッド』でもほとんど接点の無かった私達!」
コロナ「何の因果かタッグを組んで歌うのはこの曲!」
2人「「Project DMM『Spirit』!!」」



 (2人)COSMOS!! 強くなれるIT'S ALRIGHT

 (ルナ)愛って何なんだ? 正義って何なんだ?
 力で勝つだけじゃ 何かが足りない
 (コロナ)時に拳を 時には花を
 戦いの場所は 心の中だ

 (2人)COSMOS!! 強くなれるIT'S ALRIGHT
 優しさから始まるPOWER それが勇者
 COSMOS!! どんな時も WANNA BE RIGHT
 自分にだけは決して負けない ウルトラの誓い



はやて「『ウルトラマンコスモス』のOP主題歌やね。主演俳優が逮捕されたりしたけど、子供には大人気で映画が三本も作られたんや。今度の映画『ウルトラマンサーガ』にも登場する…って、シン君、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔してどしたん?」
シン「いや…まさかルナが歌うとは聞いていなかったから…」
はやて「旦那さんにも内緒にしとったんやね…なぁ、嫁さんに隠し事されたんやし、ここはシン君も私と大人の隠し事してみぃへん?」
シン「まだ諦めていなかったのか…何度言われても答えはNoだ」
はやて「もぉ、つれへんなぁ…」



 (2人)COSMOS!! 頑張るからIT'S ALRIGHT
 君に見える光のPOWER それが未来
 COSMOS!! 強くなれるIT'S ALRIGHT
 永遠に輝き続ける ウルトラの光



はやて「熱唱ぶりもなかなかのものやったけど、それ以上に本来3人で歌う歌を2人でパート分けした工夫を評価したいとこやね」
ルナ「どうだった、シン?」
シン「えっ?…よ、良かったんじゃないか?」
コロナ「何照れてんだか…」
はやて「コロナちゃん、自分がソウマ君にこれっぽっちも振り向いて貰えへん上に、ふたばの男女限定カップルスレぐらいにしか応援してくれる人も居らへんからって、余所のカップルを僻んだらアカンで~?」
コロナ「余計なお世話よ!アンタなんか男が寄り付かないぐらいヨゴレキャラになってるくせに!!」
はやて「誰がヨゴレやねん!これでもA'sの時は車椅子の薄幸美少女やったんやで!!」
コロナ「今はセクハラ上等の変態乳揉み女でしょうが!」
シン「だからややこしい喧嘩するなよ…それはそうと、何でこの2人なんだ?」
ルナ「それはね、私達が…」
姫子「ルナとコロナ、でコスモスのルナモードとコロナモードに合わせたんでしょ?」
コロナ「オチを言わないでよ!」

客席から口を挟んだ姫子にコロナが咆えた。

シン「さてと、採点結果は…86点か。工夫は良かったけど、やっぱり3人で歌うのを2人で歌ったのが響いたな」
はやて「何か80点台ばっかりやね。前回は失格も出たけど、90点台もあったのに…」
シン「本来男が歌う歌を女が歌っているからな。ユーノは男だけど、中の人が…」
はやて「じゃあ、ここで男の人が歌ったら高得点叩き出したりするんかな」
ツバサ「ならば、ここは俺達の出番だな!」

高らかに声を張り上げ、ステージに上がってきたのはツバサと…

姫子「あ、ソウマ君だ!」
はやて「思えば兄弟やのに一緒に出てくるのって何か珍しい気がするなー」
ソウマ「原典では敵同士だったからなあ…」
ツバサ「だがこのブログでは共に無限書庫を守る味方同士!俺達兄弟の熱い歌を聞けーッ!!」
シン「無駄に熱いと言うか、ハイテンションだなこの人…」

ステージ上で一人盛り上がるツバサはもう止まらない。
そして、客席では。

ミヤコ「嗚呼、流石ですツバサ様…」

うっとり見惚れるミヤコの横で、ギロチとネココが無言で呆れ返っている。

ソウマ「四番、大神ソウマと」
ツバサ「その兄、ツバサ!曲は伊達明(岩永洋昭さん)と」
ソウマ「後藤慎太郎(君嶋麻耶さん)」
2人「「『Reverse/Re:birth』!!」」



 (ツバサ)どうして心に従わない? 諦める理由無いはず
 (ソウマ)夢の方が俺を突き放して 消えてゆく…それを只見送った

 (2人)Don't look back
 (ツバサ)遅過ぎる事なんてない
 (ソウマ)投げたメダル表か裏
 (2人)Now change your life



シン「『仮面ライダーオーズ』の所謂2号ライダー、仮面ライダーバースのテーマソングだ」
はやて「後藤君の変身する2代目バースの初陣を飾った歌やね」
シン「初代バースの伊達さんは後にプロトタイプを装着して2人でダブルバースとして活躍したな」
はやて「でも、『MOVIE大戦MEGA MAX』であんな事になってしまうなんて…もう二度と、ダブルバースの勇姿は見られへんのやね…」
シン「嘘は言っていないけど…紛らわしい言い方するなよ…」



 (2人)悔しさReverse きっとRe:birth
 (ソウマ)今 思い切り
 (ツバサ)あぁ 大空に声をあげよう
 (2人)状況Reverse/Re:birth
 (ソウマ)もう一度夢の為
 (ツバサ)戦ってみせると
 (2人)ここに誓うよ



 Don't lose yourself 真ん中の自分らしさだけ
 (ツバサ)奪われぬよう
 (ソウマ)失くさぬよう
 (ツバサ)守り抜く
 (ソウマ)その為に
 (2人)Now change your life

 涙をReverse きっとRe:birth
 (ツバサ)今 目を開けて
 (ソウマ)あぁ 眩しさを感じたなら
 (2人)展開Reverse/Re:birth
 (ツバサ)一歩踏み出すのなら
 (ソウマ)新しい未来図が
 (2人)ここに

 It's the re:birth
 (ツバサ)一歩前へ
 (ソウマ)今 踏み出せ
 (2人)自分だけの伝説を 作り上げよう



はやて「いやいや、このまま兄弟ヒーローでやっていけそうなぐらい堂に入った熱唱やね。というわけで、客席の方の感想聞いてみよか~」
シン「何時の間に客席に…」

シンが呆れるのを余所に、はやては客席の面々にマイクを向けていく。
その面子は。

姫子「ソウマ君、カッコ良かったよ~♪」
フェイト「うん、素敵だった…」
コロナ「ま、まぁまぁ頑張った方なんじゃない?」
はやて「はい、素直・控え目・ツンデレと三者三様な感想でした~…そんなソウマ君に比べて、ツバサさんは応援団が一人しか居ないようですが、その辺どない思いますかミヤコさん?」
ミヤコ「ツバサ様の本当の魅力を分かっているのはこのミヤコだけ…只、それだけの事…」
ネココ「あれが『大人の余裕』にゃーの?」
ギロチ「只のツバサ馬鹿なだけだ。あほくせー」

大会終了後、ギロチがミヤコに折檻されたのは言うまでもない…

シン「採点結果は95点。ここに来て初めての90点台だ」
はやて「やっぱり男の人が歌ったからやろか?」
シン「だから何時の間に戻ってきたんだよ…」
はやて「細かい事は気にせんでえぇんよ!さ、キリキリ進めるで~!!」
シン「細かくねー…」

シンのぼやきは、会場の熱気と歓声に掻き消されてしまうのだった。



つづく



今月中にオチを付けられるかどうか…(ヲイ