千歌音「…カラオケ大戦のオチを付ける予定じゃなかったの?」

実はサイモン・ユージさんのブログで文明さんから直々に(OwO)の使用許可を頂いたので、嬉しさのあまり急遽予定を変更してしまいましたw

ユーノ「謝れ!謎のライダーVIVIDの使用許可をくれた創起さんと、真紅の破壊者の使用許可をくれたタクム・ノノハラさんに謝れ!!」



無限書庫の未整理区画の整理中に、ロストロギアが発見された。
その時、司書長であるユーノ・スクライアは、折悪しく考古学者として遺跡の発掘に出向いて不在だった為、彼の姉であり秘書でもある姫宮千歌音が、代理としてその検分に立ち会う事となった。

「…これが、そのロストロギア…」

そのロストロギアは、箱のような形状と、子供の落書きを思わせる派手な模様から、『玩具箱』と名付けられた。
管理局員達による検査の結果は『そのロストロギアの内部を見た人間が登場する、現実とは違った光景が映し出される』という以外、何も分からなかった為、解析は無限書庫に…厳密には、まだ戻ってきていないユーノに一任されるのだった。

「ふん…また、余計な仕事を一つ増やしてくれて…」

無責任に仕事を押し付けていく局員達に内心、殺意にも近い忌々しさを感じながら、千歌音にはこの『玩具箱』の正体が薄々分かっていた。
自分も試しに覗いてみた『玩具箱』の内部で繰り広げられた光景…それは、かつてデウス・エクス・マキナの中で見せられた、並行世界の自分やユーノの姿と同じものだったからだ。

「つまり…これは、並行世界を覗き見る事が出来るロストロギア…というわけね…」

しかし、そうなると、ここから先が厄介な話になってくる。
管理局にとってデウス・エクス・マキナを巡る一連の事件は、はやて達による『大六課』の一件がある為、ハラオウン閥とも言うべき一部の上層部しか知らないトップ・シークレットとして扱われている。
(これはミッドチルダの住民が、なのは達のような美少女局員の活躍ばかり追いかけ、その裏で起きた管理局内部の不祥事には一切興味を持たない、萌えオタ的な思考の持ち主ばかりだからこそ可能だった荒業である)
つまり、千歌音が『玩具箱』の正体について証言するには、その一連の事件を知る上層部を通さなければならないという事になる。

「あんな連中に頭を下げるなんて…」

なのはやフェイト、はやてといった戦闘面に優れた少女達を蝶よ花よと庇護する一方、調べ物しか出来ない少年に用は無いとばかりに、ユーノを独り無限書庫に追いやった、リンディ・ハラオウンを始めとする上層部の面々の顔を思い出し、千歌音は苦虫を噛み潰したような顔で、主不在の司書長室の机の上に『玩具箱』を置いた。

カチッ…パカッ

「………?」

少々、荒々しく置いたのがいけなかったのか、スイッチが入ったような音と共に、『玩具箱』の蓋に当たる部分が自動的に開く。

ウィィィィン…

「…な、何?…一体、何が…?」

そして起動音らしき音と共に、『玩具箱』の内部から眩い光が放たれ、司書長室を…と言うより、千歌音の視界を真っ白に染め上げていく。

「っ…!?」

その眩さに耐え切れず、目を閉じた瞬間…千歌音の意識は彼女の身体を離れて、奇妙奇天烈摩訶不思議な世界へと旅立った…



「………えっ?…何よ、これ………ここは、一体…?」

浮遊感を感じた千歌音が目を見開くと、そこは司書長室ではなく、様々な色の光が混ざり合って万華鏡のような光景を作り出している、現実味の全く無い空間に浮かんでいた。

『ウェーイ!ようこそディス、この世界のユーノ君のお姉さん☆』

微妙に滑舌の悪い声と共に、目の前に奇妙な物体が舞い降りてきた。
一言で言うと、ドラえもんとオバQが悪魔合体したような姿。
その顔は、(OwO)といった感じのAAで描き表せそうな、赤い複眼と口らしきもので構成されている。
頭部には、菱形の角らしき突起があった。

「………何、コレ?」
『コレとは失礼ディスね!オディはブレイド!時空<とき>を駆けるアンノウンロストロギアにして、正義のヒーロー!仮面ライダーブレイドディスウェイ!!』

暫くの沈黙の後、千歌音が漸く引き出せた第一声に、プンプンと怒ったように自己紹介をする謎の物体…仮面ライダーブレイド(自称)。
ビシィッ!といった感じでポーズまで決めたブレイドに対し、千歌音は…

「幻覚を見るなんて、私も疲れているようね…私一人で司書長代理の仕事なんて、やっぱり無謀にも程があったみたいだわ…ユーノが帰ってきたら、思いっきり甘えてしまいましょう。今なら一緒にお風呂ぐらい入っても、ユーノは笑って許してくれるわよね。だって、もう一週間も離れ離れなんですもの…」

目の前の現実を受け入れる事を放棄した。
ついでに、ユーノ分不足による邪な願望がダダ漏れになる。

『オディは幻覚ディはないのディスが。巨乳お姉さんと一緒にお風呂…普通に考えると馬やらしくて羨ましい光景ディスが、草食系通り越して被食系のユーノ君だけに、そのまま貪り食われてしまう光景が目に浮かぶようディス。ディも、それはそれで燃えるウェイ!』

一人?で盛り上がるブレイドの鬱陶しさに、それを幻覚ではなく現実だと再認識した千歌音は、徐に短刀を取り出し、一瞬で間合いを詰めてブレイドに斬りかかったが…

ギィィィィンッ!!

ブレイドの身体は、予想以上に硬かった。
耳障りな金属音が響き、千歌音は思わず短刀を取り落とし、痛んだ手を反対の手で庇うように押さえる。

「っ…!?な、何よ!?滅茶苦茶硬いわね!?」
『いきなり斬りかかるなんて酷いディスね!お陰でオディのボディに傷が付いてしまったディス!!ちなみに今、「オディ」と「ボディ」をかけてみましたウェイ☆』

見るとブレイドの青いのっぺりとした胴体に、引っ掻いたような傷が出来ている。

「…あんなに硬いのにクネクネ動いて…一体、何で出来ているのよ貴方は?」
『オディのボディは神の金属と呼ばれたオリハルコンで出来ていると言われているウェイ。だから、この世で最も硬い時もあれば、この世で最も柔軟性に富んでいる時もあるのディス』
「デタラメもいいところね…それはそうと、ここは何処?何故、私はこんなところに居るの?帰る方法は?」

会話が成り立つのにかなりの時間を要したが、どうやらこの物体に頼るしかないと観念した千歌音は、嫌々ながらもブレイド相手に本題を切り出した。

『本当に嫌そうに話題を振るディスね…まあいいディスが。ここは時空の狭間。言ってみれば、様々な並行世界が分岐されて出来た隙間みたいな空間ディスウェイ。ほら、千歌音さんもデウス・エクス・マキナの中で一度見た事あるディしょう?』
「…デウス・エクス・マキナの一件も知っているの?」
『オディは時空を超えて活躍するヒーローディスから!人々を涙から救い、笑顔を護る事がオディの使命。悪魔が笑い、正しさが泣く、悲しい世界をいつも気にかけているのディスよ』
「まるで創起さんの世界のジゼルね」
『オディはどちらかと言うと、一件落着した後に出てきて、笑いを届けてホッと一息つかせる存在ディスけどね。大抵の場合、やり過ぎてカオスになるディスが』
「…それ、迷惑なだけじゃない?」
『自覚はしているウェイ。ディも、謝らないディス!』

千歌音はいい加減、頭がクラクラしてきた。
会話を切り出した事を後悔すらしていたが、最早、後の祭りである。

「それで、どうして私はここに?」
『千歌音さんのユーノ君分欠乏症と、例のロストロギアの誤作動が、絶妙な具合に重なり合って起きた不幸な事故ディスね。乙女の一念は天元突破をも果たすとはよく言ったものディスウェイ!』
「そんなの初耳なんだけど…で、どうやったら帰れるのかしら?」

ツッコミ所が多過ぎて、最早何処からツッコミを入れていいのか分からないのを華麗にスルーし、一番聞き出したかった本題に入る千歌音。

『これは言ってみればパワーアップイベントみたいなもんディスよ。千歌音さんはここで新たな力を得て、ユーノ君との愛を護るラブウォリアーとして更に一段ステップアップを果たすのディスウェイ!』
「…それはつまり、修行とか試練とかをしないと駄目って事?それならさっさと…」
『その必要は無いディスよ。オディはユーノ君のお相手であるヒロインの女の子を応援するのも使命の一つディスからね。だから、オディもこうしてこの時空の狭間に居るウェイ』
「………どういう事?」
『オディがこの場で千歌音さんに大いなるパゥワーを授けるディス。しかも、三つも!』

ガシッ!

次の瞬間、ブレイドのちんまい身体は千歌音の両手で鷲掴みにされていた。

「…よこしなさい」
『…ウェイ?』
「その、ユーノとの愛を護る為の大いなる力をよこしなさい!今すぐよこしなさい!!さぁよこしなさい!!!」
『ウェェェェ~イ!?』

そのままブレイドをがっくんがっくん揺さぶる千歌音。
まるでカツアゲである。

『ストップストップストップディスよ千歌音さん!オディを揺すっても大いなる力は出てこないディスウェイ!!』

ブレイドの制止に、漸く千歌音の手が止まる。

『それディは、早速、千歌音さんに大いなる力を授けるディスよ。貴女に、力を…』

これ以上引っ張るとヤバイと本能的に察したブレイドは、何処ぞの機動新世紀のヒロインみたいな台詞を言うと、ペッカーと全身が光に包まれた。
そして、光に包まれたブレイドから、ポコポコポコと分裂するように、三つの小さな光球が飛び出し、千歌音の目の前で静止する。

「…これが?」
『『仮面ライダーW』の園咲若菜さんの大いなる力と、『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』のケイトさんの大いなる力、そして最後は、千歌音さん自身の大いなる力ディス』
「出典がカオス過ぎるわ…それに、どうして私の大いなる力が貴方から出てくるのよ?」
『それがオディのアンノウンロストロギアたる所以ディスよ。人、それを何でもアリと言うウェイ』

あまりのデタラメな展開に、千歌音は盛大な溜息をつきつつも、大いなる力とされている三つの光球を掴むと、それらはそのまま千歌音の掌へと吸い込まれて消えた。

「…まぁいいわ。これで、私は帰れるのね?」
『そうディスね。もっと巨乳お姉さんとお喋りしていたかったような気もするディスけど、千歌音さんはユーノ君の居ない状態で会うとかなり危険そうなのディ、今日はここでお別れディス』
「安心しなさい。金輪際会う事は無いから」
『果たしてそうディしょうか?それはともかく、今日の日はさようならディスウェイ!』

グイッ!

含みを持たせる言葉と共に、何処から垂れてきたのか、頭上の一本の紐を引っ張るブレイド。
その瞬間、千歌音の感じていた浮遊感が消滅し、その身体が、何も無い空間を一直線に落下していく。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

弟と違い魔法が使えず、空を飛ぶ事の出来ない千歌音は、突然の落下に悲鳴を上げる事しか出来なかった。
そして急速な落下の中で、彼女の意識はブラックアウトし…



「はっ…!?」

千歌音が目を覚ますと、そこは司書長室だった。

「………夢でも見ていたのかしら…?」

室内に変わったところは無いし、何より身体が悪夢を見た後のように気だるい。

「まぁ、そうよね…あんな事、現実にあるわけが…」

幾らロストロギア絡みとは言え、あそこまで荒唐無稽な事が起きるわけがない。
そう結論付けて、やはりあれは夢だったのだと納得した千歌音は、机の上の『玩具箱』が開いたままになっているのに気付き、それを閉めておこうとユーノの机に近付いた。
すると。

「これは…」

『玩具箱』の傍に、さっきは無かったはずの二つの物体が置かれている。
それが何なのか、千歌音には何故かすぐに理解出来た。
そして、一度失ったはずの力が、自分の中に蘇っている事も。

「やっぱり、夢じゃなかったのね…」



その後、『玩具箱』は無限書庫で保管される事となった。
千歌音がクロノに『玩具箱』の機能を説明した上で、その中に映し出された『クロノとなのはが恋人同士になっている世界』の映像を見せつけ、半ば脅迫する形で上層部を説得させたからである。
エイミィとの結婚を一年後に控えたクロノに、拒否権は無かった。



千歌音が手に入れた三つの大いなる力。
一つはクレイドール・ドーパントへと変身する(エクストリーム化も可)、園咲若菜のクレイドールメモリ。
もう一つは、ゼットン・ガンQ・ゴルザを使役する、ケイトの黒いバトルナイザー。
そして、最後の一つは…

「今日こそ千歌音さんを倒してユーノ君に告白するの!これが私の全力全開、ブラスター3!!」
「戯言をほざきなさい!貴女みたいな戦闘狂にユーノは渡さない!!」

今日も白い魔王と激突する、赤いタケノヤミカヅチ。
姫宮千歌音の戦いは、始まったばかりだ!



おしまい



お礼SSになってるかどうか微妙なところですが、文明さん、ありがとうございます!
前回までのあらすじ

武者千歌音のデータがなのフェ親衛隊に流出していると知った千歌音は、ツバサ達『特務二課』を招集してスパイ狩りに乗り出すのだった!
以上!

ユーノ「だから端折り過ぎだってば!」



従兄弟のハトコの股従兄弟であるなのフェ親衛隊関係者にデータを漏洩していた技術者は、あっさり捕縛された。

「とにかく拷問だ拷問にかけろ!」

と、無限書庫の業務で徹夜続きのところに余計な仕事まで増やされ、半ば錯乱状態で喚く千歌音を、彼女のお手製ユーノ抱き枕で釣って仮眠室に押し込み、スパイ技術者の尋問は特務二課の面々が引き受ける事となった。
どうにか命拾いした、と安堵の溜息をつくスパイ技術者だったが…

「さてと…そんじゃ、知ってる事を全部吐いて貰うぜェ…?」
「黙秘は無意味ですよ。ネココ、自白剤の用意を」
「了解にゃーの!」

指をボキボキ鳴らすギロチ、冷たい眼差しで見下すミヤコ、巨大な注射器を抱えたネココが取り囲んで見下ろしてくる。
…ガジェット・ネコやガジェット・ギロといったガジェット達に自分達の名前やイメージを勝手に使われ、ネココもギロチもなのフェ親衛隊に対しては並々ならぬ不快感を抱いていた。
コロナは養豚場の豚でも見るような、哀れみと無関心の入り混じった目で見ている。
常日頃「成長してもユーノきゅんハァハァ」を公言して憚らないレーコに至っては、千歌音に勝るとも劣らぬ殺意に満ちた眼光を眼鏡の奥から放っている。

「…さあ、地獄を楽しみな!」

そしてツバサが某白いライダーのような決め台詞と共にサムズダウンし、スパイ技術者にとって地獄の時間が幕を開けた…



「…以上が尋問して聞き出した一部始終だ」
「『百合カル計画』…また、ふざけた名前の計画を…」

仮眠から目を覚ました千歌音は、ツバサからスパイ技術者を尋問(という名の拷問)した調書に目を通していた。

「………それで、スパイは?」
「病院送りだ。致死量ギリギリの自白剤をぶち込んだからな…おそらく一生廃人だろう」
「当然の報いよ」

ユーノに危害を加える者に協力した裏切り者にかける慈悲など無い、と言わんばかりに冷たく言うと、千歌音は読み終えた調書を机の上に置く。

「にしても…拙いわね。連中、T-001のデータから、私の記憶まで引き出してるわ…ユーノの存在を忘れ、前世からの因縁に縛られていた、あの頃の私の記憶を…」

なのフェ親衛隊が目論む百合カル計画。
その目標の一つに、千歌音と姫子を百合に戻す事が挙げられていた。
それは2人を、永遠の輪廻の中で愛し合い、そしてやがて殺し合う事を繰り返す、無間地獄のような運命に再び縛り付けるという事に他ならない。

「連中から見たら、お前達の輪廻地獄も、なのはとフェイトのお飯事も、同じにしか見えないんだろうな」
「冗談じゃないわ…私も姫子も、漸く真っ当な幸せを手に入れたと言うのに…」
「…真っ当な幸せ、か…」

義妹(弟の嫁)である元・陽の巫女がこの場に居たら…



「いや、真っ当になったのは私だけだからね?千歌音ちゃんは、実の弟と近親相姦っていう、もっとアブノーマルな泥沼に頭の天辺まで浸かりきってるから」



と、情けも容赦も無いツッコミを入れたのだろうな…と、ツバサは思った。

「こうなったら…背に腹は代えられないわね…」

そんなツバサの思惑も知らず、千歌音はとある決意を固めるのであった…



「…その決意が、私らマシンs制作委員会との共同戦線というわけやね」

そこから更に二週間が過ぎ、場面は騎士千歌音とコマンド千歌音を前にした千歌音とはやての居るドック内に戻る。

「………あくまで今だけよ。百合カル計画なんてふざけたものさえ叩き潰せば、貴女達と仲良くするつもりなんて毛頭無いわ…」
「ま、そんならそれで別にええですけど」

苦虫を噛み潰したような顔で睨んでくる千歌音に対し、はやてはおどけるような仕草で飄々とかわす。

百合カル計画の概要を知った千歌音は、それまで敵視していた元・六課勢力であるマシンs制作委員会と一時休戦し、協力する意向を表明した。
そして、マシンs制作委員会が『攻め』であるところのセイバープランに専念出来るよう、新たに作らせた騎士千歌音とコマンド千歌音を、既存のマシンsと共同で無限書庫の防衛に当たらせ、『守り』を強化するという後方支援策を発表。
この支援策は、はやてによって『TMV計画』と名付けられた。
『TMV』とは『千歌マシンバリエーション』の略である。

「もっとマシな計画名は無かったのかしら」
「ええやないですか。私らのセイバープランと千歌音さんのTMV計画、この『剣』と『盾』で、百合カル計画から、無限書庫を守るって事で」



そして二体の『千歌マシン』は起動の時を待つ。
騎士とコマンド、この二体が辿る運命を知る者は、今はまだ居ない…



プロローグ・完



スランプで一ヶ月以上間が空いてしまった…
※注意※
このSSは『リリカルユーノ アニメイテッド』の設定を基本としていますが、最終的にはユーなのを予定しています
また、StSから四期現在までの『リリカルなのは』本編を、一切フォロー無しの否定的な観点で、思いっきりネガティブに捉えた上で進行します
そういうのが嫌な人は、見ない事をお勧めします



「はぁ…」

今日も今日とて、高町なのはは憂鬱だった。

「なのっ?」
「ゆのー?」

テーブルに頬杖突いて溜息をつく、そんななのはの様子に、心配そうになのマシンとユノマシンがトコトコと寄ってくる。
ヴィヴィオの護衛用に作られた、全てのなのマシンとユノマシンの試作機に当たる第一号達、それぞれ通称を『なの』と『ゆの』という。

「ん…何でもないよ。なのもゆのも、心配しなくていいからね」
「なの…」
「ゆの…」

二体を安心させるように笑いかけるなのは。
しかし、思えば本来ヴィヴィオの護衛であるはずのこの二体が、こうして家で暇を持て余しているという現実は、なのはの憂鬱の原因の一つでもあった。

「…ホント、どうしてこうなっちゃったかなぁ…」



事の起こりは、JS事件の終結から暫く後まで遡る。
ヴィヴィオを養女として引き取ったなのはは、『奇跡の部隊』と称される機動六課に所属していた教導官としての多忙な日々の中、それでもSt.ヒルデ魔法学院に通うヴィヴィオと一緒に帰宅してやりたいとの思いから、魔法の師であり幼馴染であり、何より密かに想いを寄せる相手でもあるユーノが司書長を務める無限書庫を待ち合わせ場所とし、ユーノにヴィヴィオを預かってもらっていた。
幸い、ヴィヴィオはユーノによく懐き、司書の仕事にも興味を持ち、司書見習いとして無限書庫に馴染んでいった。
これなら、そのうちヴィヴィオが「ユーノ司書長にパパになって欲しい」とか何とか言い出して、自分とユーノのキューピットになってくれるのでは?などと虫のいい期待をしていたなのはだったが、一向にそんな気配は無い。
これは一体どうした事かと疑問に思ったなのはは、ある日、それとなくヴィヴィオに聞いてみた。

「ねぇ、ヴィヴィオ。ユーノ君の事、好き?」
「うん。好きー」
「じゃあ、ユーノ君がパパになってくれたらいいなぁ、って思う?」
「?…パパってなぁに?」

返ってきた答えに、なのはは自分の耳を疑った。
ヴィヴィオはパパ、すなわち父親という存在を知らない。
何故?
元々本好きで、今や無限書庫で司書見習いとして働いている娘が、父親の意味すら知らないというのはおかしくないか?
…と、そこまで考えたなのはだが、思えば世の中には、『オバQ』は知っているくせに、その中にも登場しているママの意味を知らなかったカエル型宇宙人や、美少女アニメオタクの集まりのくせに、必ずと言っていいほどクローズアップされるクリスマスやバレンタインデーといったイベントを知らなかった忍者達も居るし、何よりかつての部下に自分が管理局員を目指すきっかけとなった事件の原因であるにも関わらず、「ロストロギアって何だっけ?」などと発言した愚か者が居たように、妙に偏った知識というのは現実にあるものなのだと自分を無理矢理納得させた。

しかし、はっきり言ってこれは拙いとしか言いようがない。
これが女手一つで娘を育てるシングルマザーならともかく、ヴィヴィオにはもう一人『ママ』が存在している。
2人の母親に育てられ、父親という存在自体を知らない娘…それが世の中から、どんな色眼鏡で見られるか。
ましてや自分と、もう一人のママであるフェイトは、常日頃から同性愛者のレズビアンであるという噂が絶えない。
管理局内に『なのフェ親衛隊』なるストーカー集団紛いのファンクラブまで存在し、高官の身内も所属している為、上層部もその活動を黙認しているという現状だ。
思えばヴィヴィオを引き取ってからというもの、やたらとなのフェ親衛隊の活動が活発化し、2人に一番近い汚らわしい異性としてユーノと彼の職場である無限書庫が嫌がらせに遭っていたが、それが何故か漸く分かった気がした。
このままでは、ヴィヴィオは自分とユーノのキューピットどころか、自分がフェイトとガチレズである動かぬ証拠になってしまう!
…かと言って、変な噂がこれ以上広まらないようにフェイトと距離を取るわけにもいかなかった。
ヴィヴィオが、フェイトの事もママと慕っている以上、自分の都合でヴィヴィオとフェイトを引き離すわけにもいかない。



どうしたものかと悩んだ挙句、なのはは、まずヴィヴィオに父親という存在を知ってもらおうという結論に達した。
これまで、なのはが帰れない時は、ヴィヴィオをフェイトの実家である海鳴のハラオウン家で預かってもらっていたが、これをやめる事にする。
ハラオウン家にもクロノという父親が“一応”存在しているが、自宅よりもクラウディアで多く過ごし、滅多に帰宅しない父親など、居ないのと同じだ。
カレルとリエラだって、父親であるクロノの顔を覚えているのかどうか。
何より、クロノには聖王教会のカリムとの不倫疑惑まで立っている。
そんな父親の家にこれ以上ヴィヴィオを預けて、男性不信にでもなられたら大変だ。
などとクロノに対して失礼極まりない考えを展開しながら、なのはは代わりの預け先を考える。

はやての八神家も駄目だ。
一見、ヴィヴィオが懐いているザフィーラが居るから良さそうに思えるが、ヴォルケンリッターにおけるザフィーラは『盾の守護獣』、すなわち獣扱いである。
将を含めて女性が3人、たった一人の男が獣扱い、これがヴィヴィオに男性蔑視の思想を植え付けでもしたら非常に拙い。
思えば彼らの主たるはやてからして、機動六課の主要メンバーのほとんどを女性で固め、提督であるレティの息子という事で副官に任命したグリフィスも軽視し、「誰か、指揮代わって!」などと戯言をほざいた前科がある。
ヴィヴィオにはあんな風になって欲しくはない、と心の中ではやてを罵倒しながら、なのはは八神家に×を付けた。

次になのはが候補として思い付いたのが、前述の愚か者ことスバルのナカジマ家である。
あの家は、なのはの周囲の人物には珍しく、父親のゲンヤが健在だ。
顔見知りのナンバーズ更生組も居るし、預け先としては悪くない。



「スバル、悪いけど、ヴィヴィオを預かってもらえないかな?今日、仕事が詰めて帰れそうにないんだ」
「いいですよー」

思い立ったら即行動とばかりに、教導隊の仕事が押して帰宅出来なくなったその日、早速なのははスバルにヴィヴィオを預かってもらうよう頼み、スバルはそれをあっさり快諾した。
これでヴィヴィオも父親という存在を知り、行く行くはユーノに「パパになって欲しい」と言うようになるだろう…と、なのはは自分の勝利が目前である事を信じて疑わなかったが、百合厨や主人公最強厨の思惑以外は上手くいかないのが彼女らの存在する世界である。

スバルは尊敬するなのはの要望に応えるべく、率先してヴィヴィオの相手をしていた。
その結果、ヴィヴィオは父親云々よりも、スバルやギンガのやっている格闘技に興味を持つようになってしまった。
最初はスバルやギンガがお遊び程度に教えていたが、なのは信者であるスバルとフェイト信者であるギンガが2人の『娘』であるヴィヴィオに教える格闘技は、言ってみれば接待ゴルフみたいなものであった。
それを見ていたノーヴェが空気を読まず割って入り、ヴィヴィオに本格的に格闘技を教え始めてしまう。
かくしてヴィヴィオはすっかり格闘技に夢中になり、次第に無限書庫ともユーノとも疎遠になってしまったのだ。



「こんなはずじゃなかったの…」

今やヴィヴィオはちょっとした不審者なら返り討ちに出来るまでの腕前になり、護衛用のなのとゆのはお役御免とばかりにヴィヴィオと行動を共にする事が少なくなった。
無限書庫では親六課派であるヴィヴィオファンの司書達が意気消沈してゾンビのようになり、逆に司書長秘書にしてユーノの姉である千歌音を筆頭に頂く反六課派の司書達が我が世の春が来たとばかりに高町家(笑)ネガティブキャンペーンを展開している。
クロノがこの場に居たら「世界はいつだってこんなはずじゃない事ばっかりだよ!」とでも言ったのだろうが、今や伝説の三提督に進言出来るほど出世コースまっしぐらで、年上の幼馴染を孕ませて結婚し、2人の子宝に恵まれ、あまつさえ不倫まで楽しんでいるような、勝ち組過ぎる男にその台詞を言う資格は無い。
そんなスーパークロノタイム、ブラスター3の砲撃で吹っ飛ばしてやるところだ。

「なのなのっ」
「ゆの、ゆの」
「いいなぁ…」

少し離れたところで、なのとゆのが仲良く遊んでいる。
自分達をモデルにしたマシン達は仲睦まじく戯れているというのに、オリジナルである自分達はどんどん距離が離れていくばかり。
何がいけなかったのか、どうすれば良かったのか、答えが出ないまま時間だけが虚しく過ぎていく。

ピピピピピ…

不意に、携帯電話のアラームが鳴る。
表示を見てみると、久しぶりのユーノからのメールである。

「ユーノ君から?…何だろ…?」

とりあえずメールを開いてみる。



『大事な話があります。2人きりで会えないかな?良ければ、空いている時間を教えてください』



簡潔なメールだが、『大事な話』『2人きり』といった単語が、なのはの思考回路を直撃した。

「ゆゆゆゆゆ、ユーノ君から大事な話!?しかも、2人きりで会いたいだなんて…これは、もしかして、もしかしなくても、告白とかプロポーズとか、そういう間違い無いパターンだよね!?だよね!?」
「なのっ?」
「ゆのー?」

なのとゆのから不思議そうな視線を受けているのにも構わず、一頻りキャーキャーと一人で盛り上がったなのはは、午後からならいつでも大丈夫との旨を返信するのだった。



そしてその日の午後、さり気無くいつもより気合を入れてお洒落をしたなのはは、時空管理局本局内の喫茶店で、ユーノと待ち合わせしていた。

「ごめん、待った?」
「うぅん、私もさっき来たとこだよ」

少し遅れた事を詫びるユーノに、気にしないように微笑むなのは。
傍から見ればデートとも取れるシチュエーションに、なのはは自分の予感が間違いじゃない事を確信する。
それから暫くは、なのはは紅茶、ユーノはコーヒーを飲みながら、互いの近況などを当たり障り無く談笑していた。

「それで…メールでも言ったけど、大事な話があってね…」
「うん…何、かな?」

談笑がひと段落したところで本題を切り出すユーノに、なのははいよいよ来たかと微かに身を強張らせながら、告白なりプロポーズなりの返答をシミュレートする。
勿論答えは、迷わずにSAY YES以外無いのだが。

「実は…今度、無限書庫を辞める事にしたんだ…」
「へっ?…あぁ、そうなんだ…」

自分が予想していたロマンティックな話題ではなかった事に気分が消沈し、気の無い返事を返してしまうなのは。

「………ちょっと待って?ユーノ君が、無限書庫を辞めるって事は…」

だが、次の瞬間、遅れて脳に達したその言葉が何を意味するか理解し、震える声で恐る恐る尋ねると。

「うん…なのはとも、フェイトや他のみんなとも…お別れだね…」

ユーノは少し寂しそうな、しかし、決意は固いといった表情で、今度は予想通りの答えを返す。

「そんな…」

呆然とするなのはの脳裏には、何故か赤く染まった地球をバックに高笑いする千歌音の姿が浮かぶのだった…



つづく



なのはの扱いが悪いと怒られた事はあるが、うちのブログで一番扱いが悪いのってクロノとはやてじゃなかろうか?