3日遅れのバレンタイン記念SS
先にタクム・ノノハラさんのブログで

短編:これ以上、失う物など、もうないから・・・

を読んでおく事をお勧めします(ヲイ



満月。
夜空の闇を照らすように、煌々と金色に輝く、丸い月。
その月に、無責任な悪意が眠っている事を、人々は知っているのだろうか?

「…お月様なんて、大っ嫌い…」

そんな悪意の存在を知る数少ない一人である、中学生ぐらいの少女が、夜空に浮かぶ月を見上げ、鬱屈した思いを吐露するように呟いた。



『神無月月面戦役』
時空管理局と、邪神ヤマタノオロチとの壮絶な戦いから5年。
その戦いは、今や管理局のエースと称賛される『高町なのは』と『フェイト・T・ハラオウン』が、力を合わせて邪神を撃退した、と公式では記録されている。

だが、真実はそうではない。
この戦いを勝利に導いた、『真の英雄』は他に居て。
邪神の呪いを受けた彼は、肉体は管理局による最先端の治療で完治したものの、精神は完全に崩壊し、廃人同然の状態で。

「………ソウマ君だけじゃ、ないよ…」

そして、もう一人。
廃人にこそなっていないものの、この戦いで、心に大きな傷を負った少年が居る事を、少女は…高町なのはは知っている。
その元凶が今も眠る月の輝きが、彼らを冷酷に嘲笑っているように見えて。
なのはは、その月をキッと睨まずにはいられなかった…



時間は遡って、その日の夕方。
なのはは早めに終わった教導隊の仕事の帰りに、無限書庫を訪れていた。

「ユーノ君。今、大丈夫?」
「やあ、なのは。丁度、ひと段落したところだよ」

出迎えたのは、無限書庫司書長である『ユーノ・スクライア』
なのはに魔法を教えた、師匠とも言うべき人物。
そして彼こそが、神無月月面戦役において、心に大きな傷を負った少年だった。

「…ひと段落、って…やっぱり、あの人達の事…?」
「うん。あのまま一件落着ってわけにもいかないしね…叩き起こして、月の社から引きずり出して…ちゃんと、ソウマさんに謝らせなきゃ…姫子さんも…姉さんも…」



『姫宮優乃』
それがユーノの本当の名。
そして剣神アメノムラクモと共に封印された太陽と月の巫女の片割れ、月の巫女である『姫宮千歌音』こそが、彼の生き別れの姉である。
だが、再会したたった一人の肉親が彼にした仕打ちは、非道極まりないものであった。
自分と同じ血を引き、月の巫女と同じ力を秘めた弟を、千歌音は自分の身代わりとして、邪神への供物に捧げようとしたのだ。
全ては太陽と月の巫女の宿命を逃れ、太陽の巫女である『来栖川姫子』と愛し合う為に。



「カズキさんから譲ってもらった文献とかを調べてるんだけど、いまいち決定打に欠けてね…こうなったら、もう一度、徹底的に月面を調査するしかないかな…」

そう言って苦笑したユーノの笑顔が、なのはにはとても痛々しく見えた。
当然だろう。
天涯孤独だと思っていた自分の前に現れた唯一の肉親に、最も手酷い形で裏切られたのだから。
本当なら、心に蓋をして、忘れ去ってしまいたいはずだ。
それでもユーノは、今も月の社に眠る2人の巫女を解き放つ方法を、苛烈な業務の合間を縫って探している。
2人に罪を償わせる為に。
彼女らの犠牲となって心が壊れてしまった『大神ソウマ』に詫びさせる為に。
そんなソウマを想い続ける、フェイトの為に。



その為に、自分の心の傷を抉り続けているユーノより、完全に精神がズタボロになり、心の傷を感じる事すらなくなってしまったソウマの方が、よっぽど幸せなのではないだろうか?
なのはの中で何度も、そんな思いが湧き上がってくるのを抑えられない。
一度、うっかり口に出して、フェイトと大喧嘩した事もある。
フェイトとはどうにか仲直りしたが、その一件で、漸く、なのはは自分の中にある一つの想いにはっきりと気がついた。

かけがえのない親友であるフェイトと喧嘩しても。
そのフェイトの、ソウマへの想いを知っていても。
それでも、自分にとってはユーノの方が、それ以上に特別なのだと。

フェイトが、ソウマを想っているように…自分は…



 数えきれない 想いに包まれて
 いつしかきっと この星も恋に走り出す



神無月月面戦役の後、なのはは時間の余裕を作っては、積極的に無限書庫を訪れ、ユーノも時間が空いている時は、出来るだけ一緒に過ごすようにしていた。
そうしなければ、ユーノがいつか、壊れてしまいそうで不安だったから。
お互いの休日が重なった日は、ユーノを街に連れ出し、食事やショッピングに引っ張り回した。
デートと呼べるようなものではない。
なのはは内心、少しでもユーノの心の傷が和らげばという気持ちでいっぱいいっぱいだし、ユーノの笑顔は、あの戦い以降、ずっと心成しか強張ったままだ。

それでも、なのはは、それが辛いとは少しも思わなかった。
思えば、11歳の撃墜事故以来、ユーノは、自分に対して必要以上の負い目を抱いているようなところがあった。
なのはに魔法を教えた事で、平凡な人生を歩むはずだった少女を、戦いの世界に巻き込んでしまったと。
それからというもの、ユーノは献身的過ぎるほどになのはをサポートし続けた。
司書長と考古学者の激務の真っ只中にも関わらず。
だから、その恩返しが出来る、というのが理由の一つ。
そして、もう一つは…



「ね、ユーノ君…時間空いてるなら、食堂で、お茶にしない?今日も、差し入れ持ってきたから」

今日のように仕事のある日でも、なのはは必ず手作りのお弁当やお菓子といった差し入れを持ってくるようにしている。
特に今日は、とっておきの差し入れがあった。

「ん、いいよ。何か悪いね、いつもいつも気を遣ってもらっちゃって…」
「そんな事ないよ。私が、したくてしてるんだもん」

すまなさそうに苦笑するユーノに、頭をブンブンと横に振って答える。
それは、なのはの嘘偽らざる気持ち。



「チョコレートケーキか…今日は、随分と気合が入ってるね」

食堂のテーブルについたなのはがバスケットから取り出したのは、喫茶店を営むパティシエである母親直伝のチョコレートケーキ。
店に出しても見劣りしないであろうその気合の入りように、ユーノも圧倒される。

「当たり前だよ…ユーノ君、今日が何の日だか分かるでしょ?」
「えっ?…うーん…今日は、2月の………ああ、バレンタインデー?」

思い出すまでに暫く間が空いた。
行事を事細かに覚えていられないほどの日付の感覚。
無限書庫の仕事は、相変わらずの強行軍らしい。

「もう…無理はしちゃ駄目って言ったのに…やっぱり、日付の感覚がおかしくなってる…」
「ごめんごめん。ちょっと度忘れしてただけだから」

慌てて誤魔化すユーノに、溜息をつくなのは。
自分もあまり人の事は言えないが、それにしてもユーノは自身を大切にしなさ過ぎる。

「…でも、こんな立派なケーキ貰っちゃっていいのかな。バレンタインってのは…」
「いいの!…ユーノ君には、いっぱいお世話になってるから…」

嘘だ。
そんな義理だけで、こんなケーキを作ったりはしない。
でも、本当の気持ちを今のユーノに伝えるのは、躊躇われた。
漸く巡り会えた、たった一人の肉親に裏切られた、心の隙間に付け入っている、そんな卑怯な真似をしているように思えたから…



 音のない星空に ひとりで泳ぐから
 寂しさに負けないように そばで笑って



そして、時間は戻る。
あの後、ユーノと取り留めの無い世間話などをして過ごし、仕事に戻る彼を見送り、なのはは海鳴の自宅への家路の途中で、煌々と夜空を照らす満月を見上げていた。
ユーノを裏切り、本当の孤独へと追いやった、彼の生き別れの姉が眠る月を。

「絶対に、謝らせるから…ソウマ君にだけじゃなく、ユーノ君にも………2人の前で、土下座して、謝ってもらうから…」

千歌音と姫子を月の社から引きずり出したら、特に姫子は引っ叩いてでもソウマの前で土下座させると、フェイトは言っていた。
その気持ちも、今のなのはにはよく分かる。
なのはも、特に千歌音はぶん殴ってでもユーノの前で土下座させるつもりでいるから。

「あんな酷い事するお姉さんなんて、ユーノ君には要らないんだ………ユーノ君の傍には…傍には………ッ!」

喉の奥まで出かかった言葉を飲み込み、なのはは早足で再び歩き出す。
頭上で呪いのように輝く、満月を振り切ろうとするかのように。
今は言えなくても、いつかきっと、この想いをユーノに伝えると決意して。
実の肉親が裏切ろうとも、自分だけは、ずっと傍に居るから…と。



 恋しい夜には
 想い届けて
 離れてるふたりに 同じ夢見させて
 いつでも 柔らかく抱き寄せてる



時は流れて…

「なのはママー、フェイトママー、まだ~?」

高町家の玄関で、おめかしした小学校中学年ほどの少女が、不満げに声をあげた。
金色の髪に、右が緑、左が赤の目をしたオッドアイの少女。
広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティの引き起こした『JS事件』の後、なのはが養女として引き取った『高町ヴィヴィオ』である。

「お、お待たせ~」
「ごめんねヴィヴィオ~」

慌てながらも、しっかりとお洒落して玄関へと駆け込んできたのは、すっかり成人女性へと成長したなのはとフェイト。
今日は久しぶりに家族全員の時間が合い、揃ってお出かけ出来るという事で、早く出発したくてたまらないヴィヴィオは、そんな2人の『ママ』にお冠だ。

「2人ともおそーい!ユーノパパもソウマパパも、とっくに準備できてるのに」

腕を組んでプンプンと怒るヴィヴィオの後ろで、スーツ姿の2人の青年が苦笑する。

「ヴィヴィオ、男の人は女の人と違っておめかしにあんまり時間かけないから、比べちゃ駄目だよ」

緑のスーツを着こなした、こちらも立派に成人男性へと成長したユーノが、宥めるようにヴィヴィオの頭を撫でる。

「そうだぞ。ヴィヴィオも、今日はお出かけだからお洒落してるだろ?それと同じさ」

代わって青いスーツが様になる、こちらは多少貫禄が付いたものの、実年齢よりはかなり若く見えるソウマが、やはりヴィヴィオの頭を撫でた。

「むぅ~…パパ達はママ達に甘すぎると思います!」

大好きな2人の『パパ』に頭を撫でてもらい、怒りが思いっきり和らいだ事の照れ隠しのように、わざと膨れてみせるヴィヴィオ。

「ヴィヴィオにも、十分甘いよね…」
「うん。時々、羨ましくなるぐらいにね…」

そんな様子に、なのはとフェイトも苦笑する。



ユーノが居て、なのはが居て。
ソウマが居て、フェイトが居て。
そして、ヴィヴィオが居る。

きっと、彼らはこれからずっと、幸せに暮らしていくのだろう。
彼らを縛り、未来を閉ざしていた呪縛は、もう無いのだから。



 どんなに遠くても
 そばにいるから
 心に決めた星 たどりつくその日まで
 信じて いつまでも待ってるから



…バレンタインほとんど関係無い…
タイトル及び本編中の歌詞は『YAT安心!宇宙旅行』の2mdEDより
一ヶ月ぶりの更新、しかも初のユーなのSSが他人の設定流用ってどうなんでしょ(;^_^A