勝手に論愚選
【朝日俳壇2024,06.】
［大串 章 選］
迂回路も人生の道月涼し （鎌倉市 江刺家 徹）
〔評〕真実一路だけが人生ではない。迂回路もまた人生の一齣。
爆撃は遠隔操作蠅たたき （横浜市 佐藤 潤）
（評）取り合せの妙。遠隔操作の甚大な「爆撃」も小さな「蝿たたき」も命を奪う
通訳のいらぬ鳥語や明易き （さいたま市 池田 優夫）
戦地めく蟻のむくろを蟻運ぶ 〔東京都世田谷区 石川 昇〕
廃校の時計休まず夏に入る （千葉市 鈴木 一成）
［高山 れおな 選］
孑孑をピアス揺らして覗きけり （川越市 大野 宥之介）
誰よりも白シャツ似合ふ人逝けり （玉野市 北村 和枝）
新ジャガのくぼみのやうに子のゑくぼ （日立市 加藤 宙）
短夜やファドの坩堝（るつぼ）のレストラン （加古川市 森木 史子）
育休の息子の淹れる新茶かな （京都市 山本 京子）
［小林 貴子 選］
片陰や優しい方が影譲る （柏市篠原 申八）
絵空事めきてカクテルさくらんぼ （神戸市 小柴 智子）
げんげ田や人生初の悩みごと （新潟市 野澤 千恵）
瓶底にワインの澱（おり）や桜桃忌 （横浜市 田中 清春）
そう言えば今日は父の日どうもです （橿原市 上田 義明）
［長谷川 櫂 選］
尊大な羞恥心なり蟇 （大和郡山市 宮本 陶生）
〔評〕「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」（「山月記」）。中島敦の読者か。
叢（くさむら）に天女かしらん蛇の衣 （富士市 村松 敦視）
潮騒の向こうは四国麦の秋 （豊前市 三原 逸郎）
中学生白黒二色更衣 （長崎市 下道 信雄）
はまなすや流人も仏も石ひとつ （柏市 正野 貴子）
龍が玉銜（くわ）へたる能登青嵐 （羽咋市 北野 みや子）