勝手に論愚選 【朝日俳壇2024.01.07】第40回朝日俳壇賞 | 論愚阿来無の欠伸日誌(ろんぐあらいぶのあくびにっし)

論愚阿来無の欠伸日誌(ろんぐあらいぶのあくびにっし)

「小人閑居して不善を為す」日々大欠伸をしながら、暇を持て余している。どんな「不善」ができるのか、どんな「不善」を思いつくのか、少し楽しみでもある。

 アラコキ(アラウンド古稀)世代が、何に夢中になり、どんなことに違和感を覚えるのかを徒然に綴っていきたい。

勝手に論愚選
【朝日俳壇2024.01.07】
[小林 貴子 選]
奈良県はタツノオトシゴ年新た (奈良県斑鳩町 若林 明良)
食卓に骨の賑はふ聖夜かな (浜松市 小澤 あり須)
白鳥の羽ばたきはんぱ夢はんぱ (仙台市 三井 英二)
メリークリスマス言つたことない七十二歳 (東京府中市 矢島 博)

[長谷川 櫂 選]
象の名は花子と言へり開戦日 (富士宮市 渡邉 春生)
うそ寒や唇動きさやうなら (西海市 前田 一草)
冬ともし針一本のかげぼふし (彦根市 阿知波 裕子)

[大串 章 選]
極楽も地獄も忘れ日向ぼこ (長崎市 下道 信雄)
電子音続く改札息白し (東京都板橋区 竹内 宗一郎)
路地裏の居酒屋で飲むサンタかな (千葉市 石野 勤)

[高山 れおな 選]
をちこちに狐火浮かぶ開戦日 (長崎県波佐見町 川辺 酸模)
(評)中国と戦争しつつ米英と開戦。狐に憑かれてでもいたように。
くるくるくるきたきたきた大嚔(おおくさね) (葛西 茂美)
古きもの炎にかへし焚火かな (南足柄市 海野 優)
寒林は大きな鳥籠朝日差す (北本市 萩原 行博)
初場所や髪に稲穂の芸者衆 (さいたま市 田中 つかさ)
枯菊を五右衛門風呂の種火とす (東京都中野区 庄司 敏文)
らつきようを咲かせて島に猟師老ゆ (松山市 杉山 望)

第40回朝日俳壇賞
大串章 選
連凧の伸びゆく先に未来あり (下関市 野崎 薫)
 関門海峡に春を告げる凧揚げ大会。子供たち手作りの凧も舞うが、この句は大人達が揚げた河豚(ふぐ)の連凧を見て、子供たちの未来に幸あれとの願いを込めて作った。常々、明るく楽しい句を作ろうと心がけている。
(評)「連凧」の先には、どんな未来があるのか。大空は限りなく広い。

高山れおな 選
鬼やんまわが持たぬものすべてもつ (佐渡市 千 草子)
 ……空からの来訪。華麗な衣装。鋭い眼光。短い滞空=滞在時間内での世界の新たな裁断。ゆきわたるキラメキ。たちまち、知られざる彼方への投身。振り返らないその影。……ひとすじ残る希望の裂開(れっかい)。
(評)鬼やんまの賛嘆(さんたん)の裏に、諦観(ていかん)や自恃(じじ)などさまざまな感情が籠る丈高い句。

小林貴子 選
水差せば金魚は裳裾(もすそ)拡げけり (奈良市 田村 英一)
 人々は連綿と金魚と共生し、庶民文化となる。金魚は仕種が多様で、感情表現も豊か。愛すべき仲間である。句作の際は、句材を擬人化して詠みたいと思っている。今回の金魚は、天平時代の女性というイメージだった。

長谷川櫂 選
八月を真二つにして黙祷す。(吹田市 大田 昭)
 八歳の時に対米英戦争が始まり、十二歳で敗戦の痛みを知った。日本の昭和は、まさにこのとき真二つにされた。改選の罪は今でも忘れることは無く。国のために散った若者達への黙祷を忘れることもない。
(評)「八月を真二つ」とは、実に印象鮮明。昭和史を一言で描いた。