家の中のモノ。
今の私のあんな・こんなを映し出す。
さあ今日も点検。
出かける前にお風呂のカビ取り。
ピカピカで気持い〜〜〜い
一年前のやましたひでこの
Yahoo!ニュースの記事を発見した。
自己達成予言
これを簡単に説明するならば、「そうなるだろうと信じたことが現実におこる」ということ。言い換えるならば、今現在の自分の「思い込み」どおりに未来が展開するということになるだろう。
さてさて、過日、見事なばかりの自己達成予言に出会ったので、ぜひ紹介したいと思う。
連休明けの日曜日の早朝、たまたま乗ったタクシーの運転手さん。彼はとても寡黙だった。私の乗車時の挨拶にも行先を告げる言葉にもまったくの無反応。つまり、無言のままタクシーは発車した。
そうだ、人の性質はいろいろ。誰もが愛想のよいキャラクターとは限らない。それに、挨拶をするのが時にかったるいほど疲れていることだってあるはず。きっと、この運転手さん、昨晩からの深夜連続勤務で大変だったに違いないと、私は勝手に想像を巡らして自分を納得させることにした。なぜなら、私も同様に前の晩からなかなか仕上がらない原稿に朝まで時間を費やしていたから。
ところがだ。最初の赤信号でタクシーが停車したとたん、驚いたことに運転手さんは急に饒舌に喋り出す。そして私は、自分の想像がまさに勝手であったことに気がつかされた。人は自分の経験に基づいた視点<つまり、この時の私の視点は自分の睡眠不足という経験>からしか物事を見ないもの。運転手さんのパワフルな言葉遣いには、睡眠不足も疲労も微塵も感じられなかったから。
そして私も俄然、興味が湧いてきた。眠たくはあったけれど、運転手さんから次々と繰り出される自己達成予言の数々がとても面白かったから。
「お客さん、この道はね、いつも必ずこの信号に引っかかるようにできているんでね。」
「お客さん、この交差点はね、いつも必ず止まらなくちゃならないんでね。スムーズに曲がることなんて絶対ないね。」
「お客さん、景気がいいのは連休だけさ。終われば誰も絶対タクシーになんか乗らないもんだよ。今日は一日ヒマに違いないね。ノルマは絶対果たせっこないよ。」
「お客さん、今こんなにいい天気だとさ、来週あたりは絶対雨になるね。来週は休みなんだけどさ、いつも休みにどこか出掛けようとすると、必ず雨に降られるんでね。」
お客さん、お客さんと呼びかけられるたびに、運転手さんの「近未来予想」に付き合っていた私。なんだか、そのあまりのネガティブさにそこはかとない親愛の情も覚えたり。あげくの果ては、目的地を通り過ぎ、車で戻るとなると「もっと厄介なことになる」という彼の予想に素直にしたがってそこで降車。自らの足で歩いて目的地へと。そう、私だって、これ以上彼の「ツイてない自慢話」に付き合うのも如何なものか……でしたから。
「いつも」
「必ず」
「絶対」
そして、それに続く否定的な、決して望んではいないであろう未来の現実たち。
でも、運転手さんはそれに気づいていない。自らの自己達成予言が、決して自分が望んでいないことばかりであることに。信号にいつも引っかかることも、毎度スムーズに交差点を通過できないことも、お客がなくヒマでノルマを果たせないことも、休みの日に雨に降られて行楽が台無しになることも、決して望む未来の現実ではないのです。けれど彼は、そうやって毎日毎日、未来を望まない色に染め続けている。そうやって暮らし、人生を生きている。
繰り返しておこうか。私たちは、無意識の自己達成予言を繰り返しながら生きている。
「ほらね」
「そう」
「やっぱり」
「言ったとおりになったでしょう!?」
そう、私たちは、自らの予言を達成し、その結果に一喜一憂している愛すべき存在。
ところで、私はこう思うのです。自己達成予言の内容がポジティブなのかネガティブなのか、そんなことを斟酌(しんしゃく)する以前に<いえ、斟酌するまでもなく、その殆どがネガティブかもしれませんね>、心しておかなければならないことがある。
私たちが、いかに反応的に終始しているか。
私たちが、その反応に終始し、いかに自分を周囲の状況の被害者に仕立て上げているか。
つまり、この運転手さんに例えてみるならば、自分は、赤信号の被害者で、交差点の混雑の被害者で、景気のせいでノルマが果たせない被害者で、お天気が悪いせいで行楽がダメになる被害者で、といった具合。赤信号、混雑、景気、お天気……外的要因に反応して、身のツキのなさを嘆き、残念な自己達成予言をバラまき続ける。
さて最後に、私の大好きなマリリン・ファーガゾンのこの言葉を紹介させていただこうか。
われわれの文化の中の、たくさんの自己達成予言のうち、もっとも有害なものはおそらく、年を取ることが衰退と病弱をもたらすという思い込みだろう。
それにしても、あのタクシーの運転手さん、今頃は、雨の中の行楽を満喫しているのかしら。どうなんだろう。