ハスキーの応急処置を終え、「デジレ=ドゥシャン」へと戻ったウロボロスは、テルシスの情報とRe dei Caniから送信されてくる街中の監視カメラの映像を頼りに、現シェパード、ダビデを探していた。ダビデから一本の電話が来たのだ。「探して欲しい奴がいる」、と。今まで書面で送信してきていたのに、今に鳴って何故電話などという盗聴されやすい手段で連絡を寄越したかは容易に判断はつく。おおかたそれに重傷を負わされたのだろう、そして己の残された時間を悟ったのだろう。ある程度の判断はついた。ハスキー、恐らくあれに壊されたのだ。そしてウロボロスとして、デジレとして、両方の治療にあたることになった。皮肉すぎやしねェか、と、嘲笑混じりに呟く蛇は、すこしだけ寂しそうだった。
とある豪奢な作りの建造物、その一室でパイプ煙草を嗜みながら自分の愛杖を弄る老紳士風の男性がひとり。右隣には腰巻きと長く伸ばした髪が印象的な隻眼の男性が控えており、左隣には美しい顔立ちながら体格の良い男性がどっしりと構えていた。場所はRe dei Cani本部、サウル=ベンヴェヌート=インノチェンティの執務室である。とても静かで空気が重い。老紳士がひとこと、「暇ですね」と話しかけるが、どちらも自分宛と思わなかったのだろう、沈黙を続けた。サウル老はくすりと笑い、つまらないなあと漏らす。
彼等の脳裏に浮かんだのはひとりの青年、金の長い髪を靡かせ、海色の瞳を煌めかせた、美しい「それ」。それも元は親に捨てられた男娼であったが、圧倒的暴力性と残虐性を持ち、果てには謀略により多くの組織内の人間を陥れ、その資質を買われて幹部にのし上がった男であった。「圧倒的暴力による統制」、Re dei Caniの体勢を体現したような男、それがダヴィド――現在の名は「ダビデ=オッタヴィアーノ=インノチェンティ」、件の無断出撃をした輩である。