美女と野獣と冥王星② | ***Walk on the light side

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銀河に煌く星たちのように

あるとき、野獣の城にひとりの男性が迷い込んできました。従者たちは彼をもてなそうとしますが、野獣の王子は不法侵入だと、男を捕らえてしまいます。

 

野獣は心の深い闇に触れられたくないのですね。なので、そこに入ってくるものがあれば警戒して、それ以上荒らされないように、見張り、拘束します。これは私たちが傷ついているときに「放っておいて」と、心を閉ざして、干渉しようとする人を退けることでもありますね。

 

捕らえられた男の娘のベルが、父親を捜しに暗い森を抜けて、お城へやってきました。ベルはフランス語で「美しい」という意味だそうで、そのまんま、Beauty(金星)ですね。

 

父親が囚われている姿を見たベルは、野獣に自分を身代わりに父を解放してほしいと申し出ます。このあたり、もっとも金星が高揚する、魚座の金星ではないかと推測されますね。

 

野獣の王子は承諾して、父親は帰され、ベルが城に留まることになりました。

 

 

ベルは少しずつ城の従者たちと仲良くなっていきますが、野獣の王子とは、なかなか距離が縮まりません。ベルは野獣と和解しようと働きかけますが、あまりにも横暴な彼の態度に思わず逃げ出しまいます。

 

しかしお城を出たところで、暗い森で狼の群れに襲われるベル……あわやというときに、野獣が助けにきたことで、ふたりの関係が変わっていきます。

 

ベルは異形に恐ろしい野獣のなかに、やさしさ(金星)を見出し、野獣の王子のほうも、ベルなら自分を受け入れてくれるかもしれないと期待を抱き始めたのでした。

 

お互いの中に自分の一部と、欠けていたものを見出し合うことで、私たちは他者と惹かれ合います。それは愛と光だけではなく、必ず闇を見ることがセットなんですね。

 

なぜなら闇は愛から拒絶されたものであり、誰もが多かれ少なかれ、必ずその経験と痛みを持っています。誰かを愛することは、闇も含めて愛されることをお互いに期待することであり、だからこそ同時に闇は再び愛から拒絶されることを何より恐れてもいます。

 

あまりにも恐れが強くなりすぎると、愛してくれようとしている相手を自分から遠ざけることがたびたび起こるでしょう。やさしくするベルを追い返そうとする最初の野獣の態度がまさにこれにあたります。

 

そして、これは対人関係の中で実に頻繁に見られるものですね。愛を求めて関係を作り出し、相手の小さな拒絶に傷ついて「私を受け入れないなら、こちらも」と、突っぱねる。

 

最初はお互いが愛を求めて、金星で関わっていたはずのものが、いつの間にか「報復には報復を」という火星の闘いとなり、拒絶によってお互いの闇がさらに拡大していくと「これ以上、傷つきたくない」と、相手を切り離したくなるでしょう。

 

 

「闇は危ない。傷つけてくるものだ。だから封印すべきだ」という役割を、劇中ではガストンが担っています。彼は村の人気者であり、乱暴なお調子者。

 

ベルを求める、もうひとりの火星として出現しますが、ガストンはベルに婚約を迫って断られると、嫉妬から野獣を追放しようとします。

 

これは私たちがコンプレックスを刺激されたときに起こる、基本的な態度でもありますね。こちらの弱さや痛みを刺激する人、感情を激しく揺さぶり、惨めな気持ちにさせる人が出現すると、嫉妬から相手を攻撃したり、排除したりすることで、エゴを守ろうとするでしょう。

 

でも、それは偽りの平和です。闇に触れる人物を排除することで、自分の内なる闇に触れずに済みます。しかし、それはずっと暗い森に闇を閉じ込めたままにする行為です。

 

しかし、私たちはまずこのガストン的な態度をとることが通常ですね。自分を不快にする人物が出現すると、大抵の場合は粗探しをして、問題が相手にあることにして、遠ざけ、平穏を守ろうとするでしょう。

 

そうやってガストンは野獣を追い詰めますが、いまやベルの愛を確信した野獣によって反撃されます。野獣はここでこれまでのように力任せでガストンを追いやるのではなく、単に「出ていけ」とだけ言うのでした。

 

もう野獣は恨みと怒りにまかせて行動する冥王星ではなくなっていたということですね。金星の愛を統合した冥王星は、深い洞察の力を持ち、ただ真実を見通すことができるようになります。

 

ガストンは野獣の手にくだされることなく、落下して果てました。それはすなわち、エゴの死ですね。

 

 

冥王星が変容したので、野獣の呪いは解けました。最後のバラの花弁が落ちて、愛と闇はひとつとなります。野獣は王子に戻りますが、それは元の王子ではなく、闇を統合した王子ということですね。

 

これが、どれだけむずかしい変容の物語かということが、よくわかるかと思います。現実では野獣が刺激されると、ほぼ同時に出現するガストンによって、闇が成敗されることが多いと思われます(笑)

 

闇を愛で包むには、お城を取り巻く、暗くて深い恐ろしい森に、何度でも足を踏み入れる必要があります。繊細な愛を攻撃する恐ろしい野獣に襲われて、そのたびに痛みや恐怖やみじめさを何度も味わわなくてはなりません。

 

しかもそれにはタイムリミットがあります。バラの花弁が落ちるまで、というのは、闇が人生から人と深く関わることを遠ざけてしまう前に、ということでもあるでしょう。目の前の人は、いつまでも関わろうと留まってくれないかもしれません。

 

私たちの内なる闇を刺激する人は、常に出現します。イラッとさせられたり、コンプレックスを刺激されたり、粗探しをしたくなったりする相手ですね。

 

そのときに、ただ縁を切ったり、離れたりするのではなく「なぜその人を遠ざけたくなるのだろう?」「どうして、この人といると不快なのか?」と、探求することが、森に踏み入れることにつながるでしょう。

 

その人の存在が、自分のどんなところに触れるのか……引き起こされる痛みや傷やコンプレックスや不安定さや惨めさ、苦しさといったものと向き合うことで、内なる美女と野獣が、恐る恐る出会っていくのだと思うのです。

 

 

美女と野獣の作者はヴィルヌーヴ夫人とされますが、彼女の作品を大幅に短縮して、わかりやすい童話として書き直したのがボーモン夫人。ディズニー版をはじめとする後世の「美女と野獣」は、このボーモン夫人版が土台となっています。

 

ボーモン夫人は太陽・海王星・金星が牡牛座。本物の美しさは何かを探求するサインですね。太陽のそばにある海王星が、愛に思いやりと慈悲、犠牲的な精神とロマンティックさをもたらします。ベルのモデルですね。

 

一方で月・火星・天王星・冥王星は獅子座にあり、これは真実の自分を追求すると同時に、エゴの強さ、尊大さも強調させるでしょう。野獣の王子の人格に相当しそうです。

 

金星と冥王星がスクエアの角度にあり、まさに『Beauty & The Beast』の象徴ですね。金星と冥王星の葛藤。本物の愛と真実の自分が苦しみを超えて出会っていく。

 

蟹座の土星は悲しみに心の門戸を閉ざし、あらゆる闇の痛みを感じることをゆるしたときに、その門戸を再び開かせたのでしょう。