『2年生存率０％を生き抜いて』
28歳で希少がんに罹患。
22年前の発病当時、
一番の希望は生の体験談でした。
発病からの生還記録を綴っています。
少しでも生きる力となりますように。
前回はこちら
当時、写真を撮る心の余裕もなく、
退院後、友人の結婚式でのこの写真が
治療時に一番近いです。
「実は良性だった」
そんな言葉が出ないかと、
検査を受けるたびに期待していました。
しかし、手術前最後の検査（血管造影）の結果、
「ほぼ間違いなく、悪性腫瘍」
もう覚悟するしかありませんでした。
入院して数日後のある日、
看護学生（女性）が病室に入ってきました。
（えっ？何？）
「初めまして、実習生の〇〇です。
杉浦さんの担当になりました」
（聞いてないよー）
誰もが通る道なのはわかります。
経験を積んでほしい…
という想いもありました。
でも、
人と話す気力はありませんでした。
とにかく一人にしておいてほしかった･･･。
彼女はベッドサイドに立ちつくしています。
ぼくは背を向けたまま。。
沈黙のまま時間だけが過ぎ、
しばらくして彼女は病室を出ていきました。
申し訳ないと思いながらも、
自分のことで精一杯で、
他人に心を開く余裕は全くありませんでした。
彼女に対して怒りの感情はなく、
がん告知を受けた傷心の患者に対し、
了解も得ずに実習生をよこした病院を憎みました。
ナースステーションでは
何もできずに戻ってきた実習生を叱る、
看護婦長の声が響き渡っていました。
「何で戻ってきたの？
そんなことじゃだめでしょ？
早く患者さんのところに行きなさい！」
ごめんね･･･
そして、
看護実習生が部屋に
来るようになってから数日後のこと。
彼女が部屋に入ってくると、
いつものようにぼくは、
視線を窓の外に向けました。
しかしその日はいつもと違いました。
「杉浦さん、
これを見てください！」
彼女は意を決したように、
一冊のノートを見せました。
ぼくは言葉を失いました。
そのノートは何ページにも渡り、
びっしりと彼女自身の字で埋めつくされていたのです。
緊張からなのか、
震える声で説明を始めます。
「注射の瞬間、
フッと息を吸い込むと、
痛みが和らぎますよ」
「手術後はとにかく
歩いてくださいね。
腸の癒着を防ぐ目的です」
これだけのことを調べるのに、
どれくらいの時間を費やしたのでしょう…
彼女の目は充血しています。
ぼくは彼女の一生懸命な姿勢に心を打たれ、
これまでのつれない態度を反省しました。
この子は本気でぼくの回復を願ってくれている。
仕事としてではなく、
一人の人間としいて接してくれている。
嬉しかった･･･。
彼女の本気の思いが伝わってきました。
次第にこの実習生に心を開いていきます。
それからというもの、
看護実習生との午後の散歩が
楽しみになっていきました。
病院内のマックでハンバーガーとコーラを買い、
公園のベンチでいろんな話をしました。
ときには、
がん患者であるぼくが人生相談に乗ったり、
将来への悩みを聞いたり…。
「人生楽しもう！」
「前向きに生きよう！」
おいおい、どの口が言う！？
自分の言葉に自分が励まされるとは！
後ろを向いていても
明日はやってくる。
前を向こう。
手術当日、
母が願いを込めた鬼子母神のお守りを
手術に立ち会う看護実習生に渡しました。
「これ、握っておいて」
「わかりました！」
※ちなみに今でも注射の瞬間、フッと息を吸い込みます。その度に彼女を思い出します。
つづく。
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