鎌倉市腰越図書館 | 図書館利用促進プロジェクト横浜・鎌倉版

図書館利用促進プロジェクト横浜・鎌倉版

永遠に残していかなければならない人類の知的所産「図書」。
さまざまな図書が集積する「図書館」のあり方が
近年、著しく変貌を遂げています。
図書館の魅力を再発見!
それが「図書館利用促進プロジェクト」の狙いです。

鎌倉市には現在5館―中央図書館、腰越図書館、深沢図書館、大船図書館、玉縄図書館―の図書館があります。各館とも偏りなく市民に利用されていることが特徴です。(図書館だより118号最終ページ参照)。

地域の人の利用あっての公共図書館。図書館のあるまちの顔とあわせて鎌倉市の図書館をご紹介していきます。1館目は腰越図書館です。

 

本腰越図書館の成り立ち

 

鎌倉市の図書館は、明治44年(1911年)7月、実業家で篤志家の東郷慎十郎(慶應2年5月12日~昭和5年4月20日)氏らの寄付によって町立図書館として鎌倉小学校(現在の第一小学校)内に設立されたのがはじまりです。その後関東大震災や太平洋戦争を経て、鎌倉市中央図書館が現在の場所に開館したのは昭和49年(1974年)10月。

腰越図書館は市内5館目の図書館として平成11年(1999年)3月、江ノ電(江ノ島電鉄)腰越駅から徒歩12分、湘南モノレール西鎌倉駅から徒歩10分ほどの腰越行政センター3階に開館しました。

              

 

 

 

本「図書館は楽しい」を伝えたい、そんな想いあふれる図書館

 

腰越図書館では、「いつ来てもひとつくらいは楽しいことのある場所」を目指し、この地域だからできること、行政センターとの複合施設だからできることなど、図書館に足を運んでもらうための試みを意欲的に行っています。

 

 

クローバーふらりと立ち寄っても楽しめる場所でありたい

 

●腰越図書館のショーウインドウ「今日は何の日?」

 

まず目につくのは図書館入ってすぐの左側、貸出しカウンターの一角にある「今日は何の日?」コーナー。ここでは、毎日その日にちなんだ本を司書さんたちが選んで展示しています。偉人の誕生日、忌日、記念日・・・などなどテーマは縦横無尽に展開され、POPのひと言とともに関連する本が並びます。始まりは2015年7月19日の「北壁の日」※だとか。

POPには「こちらの本もかりられます」や「あと一冊かりませんか」などの言葉が添えられており、未知の分野の本に出合えたり、ふらりと立ち寄っても何かを見つけられそうな、図書館を楽しむきっかけになりそうなコーナーです。

※1967(昭和42)年7月19日、東京女子医大山岳部の今井通子と若山美子が、マッターホルン北壁から登頂に

  成功。女性だけのパーティーでの世界初北壁登攀(とうはん)した記念日。

 

鎌倉市図書館のツイッター(5館共同利用)では、2015年7月23日から毎日「今日は何の日?」の展示の画像とコメントを更新しているので、腰越図書館へ足を運ぶことができなくてもその日のテーマと選ばれた本を知ることができます。


 

クリップちょっとおまけ  「昨日は何の日?」

当然のことながら、毎日更新されていく「今日は何の日?」。チェックしそびれたり、ツイッターを見て気になった人はこちらのコーナーへ。前日の展示を見ることができ、もちろん借りられます。毎日この作業を続けてくれる司書さんたちに脱帽です。

           

        

 

カウンター前の展示コーナーも必見

 

貸出カウンター前通路はテーマ展示をしています。取材時は鎌倉市川喜多映画記念館と鎌倉市の図書館共催の映画上映とブックトークイベントの告知と、時間をテーマにした特集コーナーが展開されていました。イベントの情報を得たり、思いがけないテーマに関連する本を知ることができるのでぜひチェックしてみましょう。

              

      

       

 

クリップちょっとおまけ

腰越図書館のチラシやPOPなどは、どれもユニークで素敵。

おはなし会のお知らせやイベントのPOPなどもぜひ楽しんでみてくださいね。

         

      左:イベントで配布した漱石を歩くのチラシ センス良くしかも裏には地図もあり秀逸!

      右:子ども向けイベントで好きな本のタイトルを書いてもらったものを洗濯物風にひらりと展示

 

 

クローバー著者やテーマで探しやすい書架 

 

●見出し

 

腰越図書館の書架側面にはイラストや画像の入った大きめのラベルが貼ってあり、棚ごとの分類がわかりやすくなっています。ひととおり見てみるのも楽しそうです。

            

 

 

●チラシを取りやすく、気付きやすく

 

テーマに関連する情報のチラシが手に取りやすいよう、書架横の壁に掛けられているコーナーがあり、ここでは本から得る知識とすぐに活かせる情報に同時に触れることができます。これは図書館の「調べる」機能を発揮したアイディアといえます。

         

         左:書棚に関連する情報チラシ  

          右:そのほか地域でのイベントなどの情報チラシは館内一角の棚にきちんと配架 

 

クリップちょっとおまけ レファレンスの考え

調べもの、探し物をサポートする図書館のレファレンス・サービス。皆さん、利用していますか?司書さんによると、「問い合わせがあれば調べがつくまで頑張ります。草の根わけても探す意気込みでやっています。残念ながら未解決となることもありますが…」とのこと。ぜひ利用してみてくださいね。

 

 

本多彩なイベントは地域発

 

鎌倉市の図書館は中央図書館以外の4館は行政センターとの複合施設です。それは地域の情報・活動拠点の一部である、ともいえます。腰越図書館では、建物ロビーや学習センターを利用し、行政センター利用者も図書館イベントへ誘導するなど、そのメリットを活かしています。より多くの人に楽しんでもらいたい、地域を知るきっかけを作れたらいい、そんな発想のもとに行われた過去のイベントをご紹介します。

 

●地域を知る試み   

   「腰越漁師物語 漁師さんに聞こう!」(平成25年2月3日実施)

 

ライブラリーカフェというマイカップ持参で飲み物を飲みながらの座談会の企画のひとつ。

小学生が漁業について調べ学習に来た時に、地元・腰越漁港について詳しく紹介する本がなく、一般的な漁業の話しかできなかったもどかしさから生まれたのがこのイベント。

腰越漁業組合に突撃依頼したところ、組合長さんとふたりの漁師さんが快諾してお話しに来てくださったそうです。当日は予定していた50人の定員を超え、行政センター1階多目的室に入りきらないほどの人気ぶり。地元の漁業ついて興味がありながら知る機会がなかったという参加者の感想も寄せられたといい、図書館が地域を知るきっかけづくりになった好例です。

                          

       漁師さんならではのことばも交えて語る漁業協同組合代表理事組合長池田利男さん

 

●地域資料・資源を活かす試み  

  16 ミリ映写会&トークの会「江ノ電風土記」(平成28年10月23日実施)

 

鎌倉市の図書館では毎年 10 月 27 日~11 月 9 日の読書週間にあわせて、市民・市民団体と図書館が実行委員会形式でイベントを企画・開催している図書館まつり「ファンタスティック☆ライブラリー」を開催。各館で様々な行事が企画される中、昨年、腰越図書館では、江ノ電の16ミリ映画(鎌倉市中央図書館所蔵)を活かそうと、16 ミリ映写会&トークの会 「江ノ電風土記」を行いました。

映画上映は鎌倉市の図書館と連携をしている関係団体のひとつ<鎌倉視聴覚協会>が担当。江ノ電ファンクラブのメンバー、江ノ電観光企画担当者のトークのほか、近隣で江ノ電のジオラマを作っている方の作品を期間中1階ロビーで展示しました。こうした外部の協力によって充実した内容となり、のべ577人の方がジオラマを鑑賞するなど、大いに盛り上がるイベントになったそうです。

              

              

 

どちらのイベントも図書館を中心としながらも、地域の市民やさまざまな団体が企画内容を豊かに盛り上げています。そして地域の複合施設としての利点―図書館利用者以外の人が参加しやすいこと―を活かす方法は、鎌倉市図書館の特徴ともいえそうです。また、図書館のイベントは5館同時開催のものが多く、しなやかに連携していることもうかがえます。

 

本雑誌保存とその活用

 

鎌倉市図書館の中での腰越図書館の特徴となる役割は雑誌の保存場所となっていることです。書庫には雑誌のバックナンバーがずらり。今では希少な古い雑誌の創刊号なども貸出ラベルが貼ってあることに驚きました。蔵書のすべての雑誌は貸出可能なのです。

資料の収集、保存は図書館の需要な機能ですが、「必要とする市民に貸出すことが大切」と

いう理念が伝わってきます。

 

                
右:リサイクルコーナー  欲しい本があればひとり5冊までもらえます。これも蔵書を活かす工夫

 

 

本寄り道さんぽ 図書館とまち歩き

広町緑地 室ヶ谷入口付近の田んぼ 住宅地のすぐそばに豊かな里山が広がります。

 

相模湾に面し山に囲まれた鎌倉市。かつてはその地形を生かし、鎌倉幕府が置かれ武家政権の中心地となっていました。腰越図書館の周辺は鎌倉時代の鎌倉のそとになりますが、目の前に広がる海と小高い山に抱かれたのどかな地区です。海と山の魅力を探るべく図書館を起点に散策してみました。

 

●腰越漁港

 

最寄りの江ノ電腰越駅から「しらす漁」で有名な腰越漁港はすぐ。駅周辺には相模湾の海の幸を楽しめるお店もたくさんあります。漁港からは江ノ島や富士山が臨め、港町の旅気分を味わえます。

       

 

クリップちょっとおまけ 小動岬と太宰治

多くの文学作品の舞台ともなっている鎌倉。腰越駅からほど近い小動岬は太宰治の『道化の華』の舞台としても知られていますね。

           

           源頼朝に使えた佐々木盛綱が1185年に創建した小動神社

 

●満福寺

(鎌倉市腰越2-4-8)

 

江ノ電腰越駅近くにある龍護山満福寺は行基(668年~749年)の創建と伝えられ、薬師如来像が本尊の真言宗のお寺です。源義経が不和となった兄・頼朝へ宛てて、鎌倉入りを歎願する腰越状を書いた場所と言われています。

      

           左:本堂 右:弁慶の手玉石ほか弁慶ゆかりのものも多数

 

              

     江ノ電沿線らしい味わいただようロケーション。線路わきの階段を上った先に満福寺はあります。

 

●鎌倉広町緑地

 

鎌倉広町緑地は市内西郊、腰越図書館からほど近くに位置する広大な市有地緑地で、そのうちおよそ48ヘクタールが、2015年4月、都市公園として開園しました。敷地内の谷戸と尾根が豊かな景観を作り出し、多様な動植物の生息環境を守っています。

腰越図書館からは室ヶ谷入口が一番近いようです。

 

鎌倉市には広町緑地のほか常盤山緑地、台峯緑地があり、三大緑地といわれています。いずれも開発の波からさまざまな経緯を経て守られてきた場所です。

中でも広町緑地は、およそ40年前、住宅開発に反対した近隣住民が中心となった市民運動が鎌倉市を動かし、国、神奈川県の支援を受けて緑地を買い受け保全することができたというナショナルトラスト運動で大きな成果をあげた好例として知られています。豊かな緑の中、そんな市民の想いに今も支えられている広町緑地をゆっくりと散策するのも感慨深いですね。

 

        

       左:湘南モノレール西鎌倉駅から10分ほどの御所谷入口から入ると木道が近く、

          湿地の植物を間近に観察できます。

       右:富士見坂からの眺望。晴れていれば富士山と海が臨めます。緑地内数か所絶景ポイントあり。

 

 

本腰越図書館からのメッセージ

腰越図書館司書・中野陽子さん(「進化」の文字は中野さん筆)

 

今回取材にご協力くださった司書・中野陽子さんからのメッセージ

 

「おもしろいことあるよ、と誘える図書館に」

腰越図書館では地域の魅力を発掘したり、気になっていた地域のことを知るきっかけ作りなどを心掛けています。身近な地域を知る情報や活動が求められていると感じています。今後も海も山もある地元の魅力発掘・発信をしたいと思います。

図書館の存在を知ってもらうことも私たち司書の仕事。近くに図書館があることを頭の隅に覚えておいて、年に1回でも思い出してもらえたらいいなと思います。いつ来ても一つくらいは楽しい発見がある、そんな図書館でありたいです。

 

 

【イベント情報】

江戸時代中期に衰退してしまった鎌倉の“たたら製鉄”の謎を探るべく研究する鎌倉高校の皆さんのお話を聞くサイエンスカフェin 鎌倉市腰越図書館が3月25日(土)開催されます。イベントの詳細や楽しい情報など、毎日更新されている鎌倉市図書館twitter もぜひ参照してみてくださいね。 このイベントは終了しました。

 

    

 

 

 

 

 

メモEDITORIAL NOTE

鎌倉市立図書館の取材は今回が初めて。古都鎌倉を、図書館を起点に司書さんのお話とともに眺めると、どんな景色が何が見えるのだろう、そんな思いをもっての取材でした。

腰越図書館では「まちの暮らしを知りたい」、「このまちを楽しみたい」という思いとともに、地域の人にも刺激を与えるユニークなイベントの数々が開催されていました。

           

  特に意識して作ったわけではないそうですが、文字がかぶらず見やすい書架の見出し。

 

中野さんが来館者を「お客さん」と説明していたのも、図書館を訪れる人に対するおもてなしの気持ちの表れのように感じられて印象的でした。規模や設備でない、人というソフトの充実が図書館を楽しい場所にする、ということを改めて感じる取材となりました。

 

 

 

【参考文献】

書名をクリックすると鎌倉市立図書館での所蔵が見られます。

『源頼朝と鎌倉幕府』  2003年 上杉和彦

『鎌倉の文学小事典』  2005年   鎌倉春秋社編

『一度は歩きたい鎌倉史跡散歩』  2010年 奥富敬之

『ブラタモリ 1長崎 金沢 鎌倉』  2016年  NHK「ブラタモリ」制作班  

『サライの鎌倉 潮風と名刹の古都散策』 2005年 サライ編集部

『鎌倉広町の森はかくて守られた』  2008年  鎌倉の自然を守る連合会

『鎌倉広町緑地に舞う蝶』  2016年  上村文次

『広町の森ガイドブック』   2012年  鎌倉の自然を守る連合会

『北鎌倉発ナショナル・トラストの風』  2001年  野口稔

『道化の華』 (『日本文学全集70太宰治』に収録) 1972年 集英社

『時の流れ 津村のながれ』       1991年  井上六郎

『中世都市鎌倉の「はずれ」の風景』  1997年 清田義英

『かまくら子ども風土記 第13版』    2009年  鎌倉市教育センター

『としよりのはなし』             1976年  鎌倉市教育委員会   

   

         

   

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鎌倉市腰越図書館

 

利用案内

開館時間

   月・火・水・木・土、祝日:9:00~17:00

   平日の木・金曜日のみ: 9:00~19:00
   
   
休館日
   定期休館日(月1回)
   年末年始(12月29日~1月3日)
   12月28日~1月4日 鎌倉駅の返却ポストは使用不可

アクセス

     住所:〒248-0033倉市腰越864番地 

     電話:0467-33-0711 

鎌倉市図書館HP:https://lib.city.kamakura.kanagawa.jp/

腰越図書館地図:https://lib.city.kamakura.kanagawa.jp/riyo_map02.html

 

 

取材協力/画像・資料提供_鎌倉市腰越図書館

取材_ 安木由美子