横浜市港南図書館の成り立ち
横浜市港南区は中区から南区が分区したのち、さらに南区から分区して昭和44年(1969年)に誕生しました。港南区となってからは主に宅地開発などによって発展してきた印象のまちですが、江戸時代までは、武蔵と相模の国境が南北にとおり、その両側が集落となっていました。
港南図書館は、昭和62年(1987年)に野庭町に単独館として開館。横浜市営地下鉄「上永谷」駅から徒歩4分ほどの住宅地の一角にあります。近くには馬洗川が流れ、のどかで静かな環境にたたずむ図書館です。
ちょっとおまけ 鉄道好き必見―上永谷車両基地
ゆりの木通りから観る上永谷車両基地、ズラリと並ぶ地下鉄車両が見渡せます。
港南図書館からゆりの木通りへ出ると、眼下に上永谷車両基地を眺めることができ、鉄道ファンや子どもに人気です。
横浜市営地下鉄は昭和47年(1972年)、上大岡駅~伊勢佐木町駅が開通しました。次期工事の昭和51年(1976年)に上永谷駅までと横浜駅までの延長工事の第1段階が完工。当時、上永谷駅は沿線唯一の地上駅でした。その後延長工事が続き、現在は営業路線は53.4kmで、2路線40駅となっています。
木のぬくもりとひまわりに彩られた図書館
木のぬくもりと落ち着きのある色調
●子どもの本のコーナー
港南図書館に一歩足を踏み入れると、木のぬくもりに触れることができます。特に1階子どもの本のコーナーでは書架の側面や棚に木材を使った表示の工夫がされており、子どもにも親しみやすいあたたかみのある空間になっています。
●2階展示コーナー
2階へ上がる階段まわりの木を活かした装飾には、どこか和風のテイストが感じられます。また、2階会議室手前のショーケースの中に飾られた古いまちの写真も、全体と調和していて目を引きます。
ひまわりの絵
1階から2階へあがる階段の壁面には陶器を貼り合わせて作られた「ひまわりの絵」があります。港南区の「区の花」でもあるひまわりをモチーフにした絵は落ち着いた色調で美しく空間を飾っています。
ちょっとおまけ 謎の扉を発見!
1階子どもの本のコーナー、紙芝居の棚の上には絵本が面陳されています。よく見るとその棚には取っ手が…。司書さんが開けて見せてくださいましたが、中は空っぽ。紙芝居を入れるには奥行きがなく、絵本を入れるには高さがありすぎ…。いったい何を入れるのでしょうか?「不明です…」。司書さんにも用途がわからない、という謎の扉でした。
祝30周年
2017年1月に開館30周年を迎えた港南図書館。30周年記念事業としてさまざまな事業が行われました。
●お休み処の開放(平成28年5月12日)
中庭を整備してベンチやテーブルと椅子を設置して作られたお休み処は、読書はもちろん飲食も可能なスペースとして開放。利用できる時間は、開館日の9時30分~16時30分です。以前から「飲食できるスペースが欲しい」という来館者の声もあったため、それに応えた取り組みともなっています。おはなし会も行っており、これからもさまざまな活用が期待されます。
●記念おはなし会 おはなしいっぱい(平成28年10月29日)
港南図書館では毎月、4つのボランティアグループがおはなし会を開催しています。通常春に4グループ合同の「おはなしいっぱい」というイベントを行っていますが、30周年の記念事業として、10月にも開催されました。図書館と地域の人との協力関係がうかがえる取り組みです。
●写真パネル展「こうなんいまむかし ~空から見た港南~」
(平成29年1月15日~24日)
図書館が所蔵している開館当時の港南区の航空写真と1980年代当時の図書の展示。地域の人が懐かしんで展示を楽しんでいました。
●港南図書館30周年記念講演会&パネルディスカッション(平成29年2月25日)
年に4回行われている歴史講演会(港南歴史協議会主催)は常に満席という港南図書館。こうした地域の方の歴史への関心の高さに基づいて企画された記念イベント。橘一秀港南図書館長の挨拶に続き、神奈川大学教授田上繁氏による講演会「江戸時代の港南区域の村々を検索する~武蔵・相模国風土記稿と古文書から見える村の姿~」、地元の方から30年前の港南の様子をうかがうパネルディスカッションが行われました。参加者は約50名。熱気いっぱいの一日となりました。
左)神奈川大学教授田上繁氏の講演
右)パネルディスカッションには地域の有識者、馬場久雄氏・亀野哲也氏・北見茂男氏が登壇
まちとの連携

●製作物の展示
地域の学校から依頼を受けて児童・生徒の制作物の展示も行っています。毎年1~2件依頼があり、地域の人に学校での子どもたちの活動の一端を知っていただく機会となっています。
このほか、教職員への貸出や、絵本の読み聞かせ講座・図書修理講座等の出張講座や学校図書館運営相談や小学校2年生~3年生の単元「まちたんけん」での図書館案内、さらに学校司書のサポートも行うなど地域の学校との連携を図っているのです。
地域連携
地域で活動する団体へのグループ貸出(30日間30冊・登録制)や子育て支援拠点からの依頼を受け絵本の読み聞かせの講座を行うなど、読書関連イベントにも司書さんが対応し、読書推進を行っています。
●こどもフェスティバルの参加
港南区保育園や港南区役所子ども家庭支援課などの協力によるイベント「こどもフェスティバル」(季節ごとに公園や港南スポーツセンターで開催)に年3回参加。港南図書館は、出張図書館として絵本と子育て支援に関する本を100冊ほど持参し、読み聞かせや読書や本に関する相談に応じています。
地域の人に支えられ ―充実のおはなし会
港南図書館は、館内おはなし会の年間開催回数が横浜市内でも多い図書館です。司書さんからも港南図書館の特徴として「おはなし会を行ってくださるボランティアグループが「おはなし・にこっと」「おはなしひろばの会」「おはなしくまさん」「金色ポケット」と4つあり、そのおかげで港南図書館はおはなし会の開催が多いのです」と説明がありました。
今回は、それぞれの会のメンバーの方に特徴や想いをうかがいました。
平成28年の「おはなしいっぱい」当日の掲示
●おはなし・にこっと (守田治子さん) メンバー10名
毎月第4日曜日 ①14:30~(3歳くらいから) ②15:00~(5歳くらいから)
平成2年に港南図書館で開催されたストーリーテリングの講習会があり、その受講生で作った「港南おはなしの会」が前身で、平成25年4月に「おはなし・にこっと」に名前を変え活動を続けています。素話(すばなし)を中心に絵本やパネルシアターも織り交ぜて、おはなし会を行っています。
「子どもにこそきちんとしたものを届けたい」「幅広い年齢の子どもが楽しめるように」との想いは活動開始当時から変わらず、①と②では対象年齢に合わせてプログラムも変えるなどの工夫もしています。大人の方の参加も歓迎です。
●おはなしひろばの会 (真野かよさん) メンバー7名
毎月第2土曜日 ①14:30~(3歳から幼児くらい) ②15:00~(小学生向け)
平成2年12月に港南図書館の読み聞かせ講習会受講生で結成し、平成3年から活動を開始しました。子どもたちに本の楽しさを届けることを目的に、絵本の読み聞かせ、紙芝居、パネルシアター、カーテンシアターなどを行っています。
「読むことの楽しさをより多くの親子さんに伝えたい」そんな思いから始まった「おはなしひろば」は、自分の子育て中に、図書館でたくさんの絵本と出会いその面白さに気付いた経験に基づいて活動中です。
●おはなしくまさん (丸山正美さん) メンバー4名
毎月第2・4金曜日 ①10:00~(0歳から) ②10:40~(2歳から)
図書館でおはなし会を始めたのは平成14年。以前から絵本好きの近所のお母さんたちで集まって、自分の子どもたちや近所の子どもたちに絵本の会をやっていたのですが、港南図書館では未就園児親子が参加できるおはなし会がなかったので、図書館に「おはなし会をさせてください」と相談し、その3か月後から図書館でのおはなし会が始まりました。
おもに絵本の読み聞かせ、パネルシアター、手袋人形、わらべうたなどを行っており、おひざの上でのお子さんとのふれあいを楽しんでほしいと思っています。
●金色ポケット (渡部淳子さん) メンバー9名
毎月第1木曜日 ①10:00~ ②10:40~ (①・②ともに未就園児親子)
設立は平成11年1月、磯子区生涯学習講座の「絵本の講座」で集まった有志メンバーで結成しました。立ち上げ当初は公園内の子どもログハウスや地域ケアプラザなどで活動していました。絵本、パネルシアター、巻物絵本、手遊び、人形シアター、紙芝居などを使い、子どもたちが絵本に親しみ、親子で楽しく過ごせるおはなし会を心掛けています。そのためにも毎回、何らかのテーマに基づいてプログラムを決めるなど変化をつけて構成しています。
ご自身のお子さんが小さかった頃の「あったらいいのに」という想いや絵本の楽しさを知った経験を活かして、長く活動を続けてこられている皆さんのお話は印象的でした。
「おはなしくまさん」の月に2回の開催は、「おはなし会に来た日に図書館で貸りた本を返却する期日」を基に設定されていることや、どのおはなし会も申し込み不要・途中出入り自由なのも小さいお子さん連れには嬉しい配慮です。
「おはなし会」で絵本の楽しさ、子どもとの触れあいを楽しむひとときを誰でも体験できます。ぜひ参加してでみてくださいね。
【お知らせ】
「おはなしいっぱい」開催のお知らせ
毎年恒例、4グループ合同のおはなし会です。
日時:2017年5月14日(日) 10:00~12:00
場所:港南図書館2階会議室
このイベントは終了しました。
寄り道さんぽ 図書館とまち歩き
永谷天満宮 御神忌1100年記念で植樹された桜
江戸時代までは武蔵国久良岐郡と相模国鎌倉郡だった現在の港南区。港南図書館のある上永谷駅周辺は野庭より馬洗川が流れています。鎌倉下の道が港南区内を走っており、かつてこの馬洗川で、北条政子が馬を洗ったと伝えられ、ここに架かる橋は「馬洗橋」と呼ばれています。今回のまち歩きは、馬洗川沿いの緑道からスタート。上永谷駅周辺の名所などを訪ねてみました。
●馬洗川せせらぎ緑道
馬洗橋少し上流から野庭高校近くにかけて続く「馬洗川せせらぎ緑道」。北条政子が馬を休ませたと言い伝えられる川沿いの憩いの散歩道です。地下鉄上永谷駅前に広がる住宅街と野庭団地の間をつなぎます。反田橋あたりからは赤レンガ歩道が続き、緑道から水辺に降りることのできる場所もあり、夏には子どもたちの格好の遊び場ともなるようです。
●いちょう坂カフェ
上永谷駅すぐそばの京急シティ永谷Lウィング2階にあるコミュニティカフェ。地域情報発信拠点であり、駅前の丸山台いちょう坂商店街の事務局も務めています。まちのひとやすみスポットとしてコーヒーを飲んだり、地域の情報収集をするにもぴったり。様々なイベントやサークル活動への場所貸しも行っています。
店内書棚には地域情報のチラシのほか、葵俊亮店長おすすめの本も。店内で閲覧可。
港南区丸山台1-2-1 京急シティ上永谷Lウィング 2F
●永谷天満宮(日本三躰永谷天満宮)
「日本三躰永谷天満宮」は、学問の神様菅原道真公自作の御神像を祭った天神様です。
明応2(1493年)、永谷に居城していた領主上杉刑部大輔藤原乗国が霊夢のお告げにより天満宮を造営し、菅原道真公の尊像を安置して創建されました。今も合格祈願などに参拝する方が多く、地元で親しまれています。環状2号線沿いとは思えないほど、階段を上った先の本殿や菅秀塚はしんっと心静まる場所です。
〒233-0012 横浜市港南区上永谷5-1-5
●貞正院
曹洞宗貞昌院の創建は天正10年(1582年)であり、それ以前は、天性院と称した天台宗の宿坊があり、足利時代には一時廃絶されたとか。創建当時、貞昌院と永谷天満宮と天神山を挟んだ位置関係にありましたが、文化14年(1817年)に、永谷天満宮に隣接する場所に移転しました。境内の大銀杏は、横浜市の銘木に指定されています。
●日限地蔵尊
慶応3年(1866年)、在地の飯島勘次郎翁によって開創されました。本尊は「日本三体地蔵」の一つと称される高さ2尺4寸(約80センチ)の石仏。毎月「4」の付く日が命日(縁日)で、この日に祈願すれば必ず成就すると言われています。
〒233-0015 横浜市港南区日限山1丁目67- 30
図書館からのメッセージ
お休み処にて左から石鍋拓也さん、橘 一秀館長、塩川一副館長、泉右子さん
橘 一秀館長からのメッセージ
「開館30周年とこれから」
港南図書館は開館30周年を迎えました。港南区の中心部から離れた場所にあるため来館者があまり多くありませんが、細やかなレファレンス対応やお休み処開放など利用者の声を大事にし、丁寧に取り組んでいます。これからもさらに地域の方々と連携してまちの図書館として充実していきたいと思います。
EDITORIAL NOTE
始めて訪れたときは駅から遠いような気がしましたが、何度かまちを歩くうちに、長閑な街並みに静かにたたずむ図書館がとてもマッチしているように思えました。駅からの点字ブロックが図書館まで続いていることを、おはなし会ボランティアグループの方が教えてくださいました。毎回満席だという人気の歴史講座もそうですが、まちの情報を知っている地元の人たちに支えられている図書館の在り方を感じる取材でした。
【参考文献】
書名をクリックすると横浜市立図書館での所蔵が参照できます。
『港南の歴史 区制10周年記念』 1979年 港南の歴史発刊実行委員会/編
『横浜市営地下鉄各駅散歩 横浜再発見はこの一冊で』 1999年 津田芳夫
『こうなん道ばたの風土記』 1999年 港南の歴史研究会/編
『港南の歴史と文化』 2008年 伊藤武
『ふるさと港南のまち自慢ガイドブック』 2009年 横浜市港南区役所区政推進課/編
『港南の歴史散策 港南歴史散策の会100回の記録』 2010年 馬場久雄
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横浜市港南図書館
利用案内
開館時間
火曜日~金曜日:午前9時30分~午後7時
休館日
アクセス
住所:〒234-0056 港南区野庭町125
電話:045-841-5577 FAX:045-841-5725
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取材協力/画像・資料提供_横浜市港南図書館 /いちょう坂カフェ
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取材_ 安木由美子