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「でも、その前にこの床いっぱいに広げた本を片付けなきゃね・・」

そう敬子が言うと片付けが苦手そうなクーモは面倒くさげに足元の本を一冊取っては階段を登り本を棚に戻し始めた。

床に広がっていた本の多くも二人で片付けを行えばそんなに時間がかかる物ではなかった。敬子が下になり本を投げクーモが階段上で受け取る。まるで遊びを行っているかのようにリズムよくあっという間に本は片付いていった。クーモも今まで一人で本を読むだけの生活を退屈に思っていたのだろうこの、二人で行う作業が妙に気に入った様で楽しんでいた。

片付けも終わりに近づき床に散らかっている本の数も後、数冊と言った所でクーモがはしごの上で何かブツブツと何かを呟いている様であった。敬子は耳を澄ましクーモの言っている言葉を聴き取ろうと注意して聞き耳を立ててみた。


model

「スーパーモデル?モデム?女優?女流?」

「女優・・女優?」

何やらクーモは自分たちが探している本の中に出てくるキーワードとなる言葉を何度も繰り返しいるようだった。

敬子が最後の一冊をクーモに投げてそれを棚に入れるとクーモは何かに気が付いたかのような大きなジェスチャーをして階段から転げ落ちてきた。

「大丈夫?クーモ!」

「痛てて・・」

痛みで顔は歪んでいるもののその顔には笑顔があった。

「ケイコ、ケイコ!今思い出したのだけどリリィがなりたい人生って言うのはモデルだけではなく女優と言った物でも良いのかい?」

「そ、そうよ」

階段から落ちてきた驚きと突然の質問とで敬子には驚きが先行していてクーモが言っている意味がすぐには把握できなかった。

「どうかしたの?」

そう敬子がクーモに言うと、クーモは嬉しそうに敬子に話し始めた。

「俺が敬子と出会うほんの少し前に読んでいた本に女優とかいった仕事をしている人がいて多くの人の前で何か演技をしている女の本があったんだ、だけど俺は女の人生には興味がないから数ページだけを読んで止めちゃったんだよ!さっきからモデル、モデルとモデルの言葉が出て来る本ばかり探していたんだけど女優とかいった言葉を妙に最近聞いたと言うか読んだ覚えがあった事を思い出したんだ。」

そうクーモが言うと敬子は驚きと嬉しさが込上げて来て思わずクーモの肩を掴み抱きしめた。

「そうよ、その人前で演技をする女性が女優よ、その本は私と出会った場所の近くにあるなら今からそこに戻りましょう」

そう言って敬子はクーモの腕を取りもと来た場所へ歩き出した。

先程の落胆とはうって変わり二人の足取りは軽かった。

「ねえ、クーモ」言葉をかけたのは敬子のほうだった。

「クーモは次の世界でお金持ちになったらいったいどうしたいの?」

「んん?そうだな・・お腹いっぱい美味しい物を食べて大きな家で家族と一緒に暮らすんだ」

「そうなんだ・・」

「俺には敬子がいた時代がよく解らない。だから敬子に何も知らない俺でもなれるお金持ちの人生を選んで貰いたいんだ。」

「大丈夫よ、私がきっとクーモに一番遭う人生を選んであげるから」

そう言うとクーモは嬉しそうに敬子を見つめその目的の本がある棚に向かって足早に歩いた。


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「あった!」

声をあげたのはクーモだった。

「ねえ、ケイコ、この言葉だろ」

そう言ってクーモが指差した本の文字には確かにモデルと言った言葉が書かれていた。

その本を敬子に手渡しクーモは心配そうに敬子の顔を見つめた。

敬子はクーモから受け取ったその本を数ページ前から読み直した。

しかし読み始めてから数ページを読んだだけでその表情は曇り始めた。

「違う」

「えっ!」

予想さえしなかった敬子の返事にクーモが敬子に聞きなおした。

「だって、そこに書かれているモデルって言葉がそうなんだろう?」そうクーモが言うと

「確かにここに書かれているモデルって言葉自体の意味はそうなのだけど、この本の主人公はモデルではなくてスタイリストって言う仕事なのよ」

「スタイリスト?」


スタイリスト


初めて聞くこの言葉にクーモは困惑した。

「そう、スタイリストと言って、この本の主人公はモデルに会う洋服や靴などを手配していた女性らしいの、だから雑誌の仕事でモデルと頻繁に接した事でこの本の中ではモデルと言う言葉が多く使われているの」

「雑誌?」

またもクーモには聞きなれない言葉が出てきてその意味不明な意味に苛立ちを覚えたが、この本の主人公の人生がモデルでない事だけは理解できた。」

敬子は自分とクーモの周りを見渡し雑然と置かれている無数の本を見回した。

今までの費やした時間を考えると気持ちが萎えていくような感覚さえ覚えた。でも、ここでそんな様子をクーモに見せては私だけではなくクーモも気落ちしてしまう。ほんの少しだけ残っている気力を絞り出して敬子はクーモに激を飛ばした。

「ようーし、また一から探すか!」

「これだけ読んでやっと見つかったのにこの後どうやってさがすんだよ!」

期待が一気に挫折へと変わりクーモには今この後どうして良いか頭の中がまったく整理がつかないようであった。

「良いじゃない」

「良い?」

少し捻くれた様な口調でクーモが敬子にいった。

「だって私たちには幾らでも時間があるのだから、そうでしょ」

その言葉を聞きクーモは口をつぐんだ。

「別に本がすぐに見つからなくたってリリィは本を燃やしたり破いたりしてしまう事なんてしないし、私たちは時間をかけてでもリリィの希望通りの人生の一冊を探せばいいんだから!元気出せクーモ。」

その言葉にクーモも少しだけ元気を貰い顔に力が蘇ってきた様だった。

「そうだね、それじゃあまた一から探そうか」

二人はお互いに気持ちを支え合い、また大きなこの図書館を見渡した。


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どのくらい時間が経過したのだろうか、二人は必死になって何冊も何冊も入れ替わり立ち代り階段に登り棚の本を読んだ。何冊目を読んでいたのだろうか棚の下には読み終えた本が無雑作に置いて散らかっていた。

「クーモあった?」

当然見当たらないのを承知で敬子はクーモに話しかけた。

「まだ・・」

「ねえ、本当にこの棚のここら辺なの?」

クーモも最初から自信がないので敬子の言葉に対して苛立ちを覚えた。

「俺だってこれだけの本を読んで一つの単語をハイ、ここの棚のこの本ですよ、何て言えないよ。それにケイコが言っているモデルや女優って言う職業は女なんだろう、俺は次の世界では男と決めているから女の人生らしき本はパラパラと読んで止めてしまうんだ、だからはっきりとした記憶なんてないよ」

そう言うとクーモは読みかけの本を床に置きその場でゴロンと仰向けになって天井を見つめてだまってしまった。

さすがに敬子もこれはクーモに悪かったなと思った。

「ごめん」

「良いよ、ケイコが別に謝ることなんてないよ!だって全て俺の為にやってくれているのだから」

二人とも無言のまま少しだけ時が止まった。

仰向けになり上を見つめていたクーモが敬子に話しかけてきた。

「ねえ、ケイコ。君の家族ってどんな人たちだったの?」

そのクーモの問いかけに敬子は目を閉じ、家族一人一人の顔を思い出すかのようにゆっくりと話し始めた。


babytwins
「私にはね、夫の隆史と二人の子供の優貴と沙紀と言う三歳になる双子の女の子がいたのよ、別にありきたりの普通の家族だったわ。隆史は会社の先輩で私が入社三年目の人事異動で付いたセクションの先輩だったの、最初はただの先輩と後輩だったんだけど突然、彼のほうから猛烈にアタックをかけて来て気が付いたら私には優貴と沙紀という双子の子供が出来ていたの、本当に幸せだった。」

「そうか、良い家族だったんだ」 

「そうね、だけど家族だなんて言える程、長い時間は私達にはなかったの」

「どうして?」

今まで仰向けになっていたクーモが起き上がりケイコに向かって顔をむけた。

「それはね、私が病気になってしまったからよ・・」

「病気?」

「そう、血液の病気。白血病って言うのよ」

「白血病?」

不思議そうにクーモがケイコの顔を見つめているとケイコが話を続けた。

「白血病と診断されてから入院まではアッという間だったわ、入院前にどうしても子供達の七五三だけは終わらせたかったんだけど、それも叶わなかった。病院のベッドの横で私の顔を覗き込んでいる辛そうな夫の顔と二人の子供達の顔が私の最後の記憶になってしまったの」

そう言うと敬子は話を止め大きなため息を一つだけ付きクーモの方に顔を向けた。そのクーモの瞳からは涙が溢れていた。

「クーモ・・」

その顔を見たら敬子の押さえ込んでいた感情が一気に噴き出してしまった。二人は大きな声でそれは図書館中に響き渡るくらい大きな声で泣き始めた。

どれくらい泣いたのだろう、それはまるで子供の頃のように悲しい感情は涙し、うれしい感情は喜びとして表していたあの頃の様に・・

「ありがとう、クーモ」

涙の後、敬子の表情にはクーモに対する感謝と安堵の気持ちでいっぱいだった。

「さあ、始めますか」

笑顔でクーモが敬子に言うと敬子はさっき手にしていた本を開きクーモにむかって笑いかけた。二人はその後何時間も無言で本を読み漁った。