9時。
スカイさんの言葉で、アルバム制作スタッフの合同会議が始まった。
まず始めに、各部門の担当者が自己紹介を兼ねて、今までの進行状況などを報告が行われた。
今までにメールで打ち合わせをしているから、名前は知っている人がほとんどだ。
しかし、顔を見るとその真剣な姿勢に、改めて私がいるポジションが、どれほど大きくて貴重なものかと実感する。
しかも、どういう訳か、私は全ての部門に関わっている。
楽曲、衣装、デザインetc.
とにかく、アルバムに関わることなら何でもだ。
私のサポートをしてくださっている陽子さんが自己紹介を終え、残るのは私だけになった。
鞄からメモリースティックを取り出して、一番前にある、プロジェクターに繋がれているパソコンにそれを接続した。
パワーポイントを立ち上げて、自己紹介の準備が出来たところで、一端手を止めた。
皆さんの視線が一斉に集まる。
挨拶と名前を手話で言うと、陽子さんが、
「皆さん、おはようございます。森崎裕歌です。改めて、よろしくお願いします。」
と、訳をしてくださった。
パソコンを操作するために椅子に座ろうとした時だった。
「おはようございます! 遅れてすみません!」
かなり大きな声で、ひくっと肩が上がった。
入り口に立っているのは、ジャケットにジーンズ、ギャップをかぶった若い男性のようだった。
全力疾走で来たのだろうか、息を切らしている。
次に顔を上げると、私の方を見た。
「あっ! 今朝のコーヒー少女!?」
これもまた大きな声で言って、今度は私の方へ歩いて来た。
困惑しながら、今朝・コーヒーで何かないか考えてみた。
心当たりがあった!
思わず手話が出てしまった。
陽子さんが、よく分からないような声色と表情で、「あの時の、コーヒー男?」と訳してくれた。
他のスタッフさんも同じような顔をしている。
さらに、コーヒー男が続ける。
「そう! ごめんね。服、大丈夫だった?」
私は微妙な表情で、羽織っているシャツのボタンを外した。
茶色いシミを見て、コーヒー男は、あー、と、ため息をついた。
私はパソコンのキーボードを打った。
全然気にしないでください
画面を彼に向けて、私も見た。
「で、本心は?」
心読まれてる・・・と思いながら苦笑いで、また打った。
一番お気に入りのTシャツでした・・・
それを見た彼はまた一つため息をついた。
でも、ホントに気にしないでください
ここ来てすぐに洗って、マシになったので
家帰ってシミ抜きしたら大丈夫です
「でも、落ちなかったら言ってね。何か考えるから。」
ありがとうございます
「そう言えば、君、誰?」
そう言って彼は、軽く笑った。
私は首から下げているネームカードを見せた。
「君が森崎裕歌ちゃん!?」
そして、その男はかぶっていたキャップを脱いだ。
「初めまして。夢人の浜野結都です。よろしくね。」
この人が浜野結都!?と驚いていると、握手を求められたので右手を差し出した。
「意外なところで会ってたんだな、お前たちは。
そこで何があったか知らないけど、仲良くしてくれ。」
スカイさんの一言で、場は収まって、いよいよ、アルバム制作が始まった。