はじめに
みなさんこんにちは、本野鳥子です。今回は、十二国記の再読、魔性の子を含めると、3巻目です。0巻の「魔性の子」はこちら。1巻の「月の影 影の海」はこちら。それでは今回も、十二国記の世界に旅をすることにいたしましょう!
「風の海 迷宮の岸 十二国記 2」小野不由美(新潮文庫)
今回は、十二国の中でも北に位置する、戴極国の麒麟、泰麒の物語。厳格な祖母の元ではあったが、優しい両親に育てられた高里要は、ある日突然、蓬廬宮で暮らすこととなる。麒麟であるにも関わらず、その力が発揮できない彼は、そんな自分に苦悩するが……。
と、どこまでも素直であどけなく、愛らしい泰麒の物語がこの巻では描かれる。蓬廬宮の暮らしは穏やかで、泰麒の守護を担う女怪、白汕子や、蓉可をはじめとした女仙たちに囲まれた泰麒には、女仙でなくともほだされてしまいそうだ。
思い悩む泰麒のためにやって来た景麒に、前作との共通を見いだして笑みがこぼれる。泰麒と会ったあとでさえ、陽子にはあんなに冷淡だったのに、泰麒と会う前の景麒の不器用さには、呆れてしまった。それが彼を彼たらしめている、魅力の一つでもあるのは確かなのだろうが、これでは泰麒も陽子も、困惑するはずだと思う。
以下ネタバレ含みます、ご注意ください。
驍宗を王に選び、自らの罪悪感からも解放された泰麒の晴れやかな表情が、くっきりと浮かぶ。「白銀の墟 玄の月」での、戴国の惨状を目の当たりにしているだけに、この幸せそうな文字列が滲んで見えた。泰麒と驍宗、そして戴国に、李斎たちの歩む道のりが、いかに過酷なものであったかを思い出し、この巻での泰麒の描写には、激しく心を動かされる。
「白銀の墟 玄の月」を読む前は、これほどこの巻で感銘は受けなかったように思う。それは結局のところ、日常の大切さが分かっていないということなのかもしれない。比較対象があるからこそ、「風の海 迷宮の岸」での彼らの笑顔が、日常を満喫している泰麒たちが、愛おしく感じられたのだろう。
日常の温かさ、幸せさが、改めて刺さってくるような気がした。
おわりに
というわけで「風の海 迷宮の岸」についてでした。この頃の泰麒は、めちゃめちゃ可愛いですね。さて、次回は「東の海神 西の滄海」です。お楽しみに!