はじめに

 みなさんこんにちは、本野鳥子です。早いものでこの読書録も20冊目ですね。今回は、十二国記の再読の第二弾、「月の影 影の海」についてです。十二国記お好きな方は、ぜひ読んでいっていただけると嬉しいです!

 

「月の影 影の海 十二国記1」小野不由美(新潮文庫)

 ごく普通の高校生活を送っていた女子高生、中島陽子は、ある日突然、ケイキという謎の男に連れられ、異界へ行く羽目に。しかしケイキは姿を消し、陽子は知らない異界でたった一人、帰る術を探して旅を始めた……。

 

 といった調子で始まる、十二国記第一巻。襲い来る“妖魔”に、刀を片手にただただ戦い続ける陽子の姿に、胸が痛い。数々の裏切りに遭い、心も体もぼろぼろになった陽子の元に、光は訪れるのか。重苦しく、荒んだ世界は、昨今の世界情勢も思い出す。暗いニュースばかりが耳に飛び込んできて、この状況がいつまで続くのか、先の見えない息苦しさは、わずかながら陽子の心境にも通じるのかもしれない。

 

 人の醜さ、残酷さに触れることが、最近多くなったようにも感じる。先を争ってマスクを買い求め、SNSにはデマが流布する。そんな人間の姿に、望みを託すのは、誰にとっても難しいことだろう。

 

 陽子は、さらに直接的な裏切りにさらされ、世の中の寒風をもろに浴びていた。人間不信に陥るのも、仕方ない。一人見捨てられ、厳しい世界に絶望する彼女を非難することは誰にもできまい。成長ではないが、それも一種の適応だろう。

 

 しかし、そんな中にも、陽子に手を差し伸べた人たちがいた。それは、私たちに、人びとという集団をひとくくりにすることの愚かさも教えてくれるような気がする。あの人が悪い人だから、あの人のいる集団は全員信頼できないんだ、という認識が間違っていることを、身に染みて感じる。

 

(以下多少ネタバレです、ご注意ください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 烏号で、一度は離ればなれになった陽子と再会した楽俊は、こんな言葉を彼女にかける。

「おいらは陽子に信じてもらいたかった。だから信じてもらえりゃ嬉しいし、信じてもらえなかったら寂しい。それはおいらの問題。おいらを信じるのも信じないのも陽子の勝手だ。おいらを信じて陽子は得をするかもしれねえし、損をするのかもしれねえ。けどそれは陽子の問題だな」

 半獣が蔑まれる功国で、働き口もなく、差別を受けながら生きてきた楽俊。そんな彼の経験が、彼にこれを言わせているのだろうか。それにしてもずいぶんと達観している。まっすぐな彼の瞳がまぶたの裏に浮かんでくるような、そんな台詞だ。

 

 ただの少女の冒険物語には終わらない、人の本質を教えられる物語だと、改めて思った。

 

おわりに

 何度読んでも、面白いです。でも、読む度に読む速度が上がって、じっくり味わえている気がしません。前回も書きましたが、記憶を消してまた読みたいという切実な願いが止まりませんね……。さて、次回は「風の海 迷宮の岸」です。どうぞお楽しみに。