最後に、昭和戦後生まれの三人の訳を並べてみよう!![]()
先ずは、巽孝之訳から。![]()
「ふふふ-----手紙の中身をからっぽにしておくには忍びなかったんだよ-----あいつを侮辱することになるじゃないか。D----という男はね、いちどウィーンでぼくにひどい仕打ちをしたことがあるんだ。もちろんこのことをぶくは奴にあっけらかんと話したよ、絶対忘れやしないってね。だから、あいつが自分を出し抜く人物がいたらそいつがいったい誰なのか、知りたくなるのがわかっているだけに、手がかりひとつさえ与えないのは哀れだと思った。奴はぼくの筆跡をよく知っているから、真っ白な便箋の真ん中に、こんな言葉を書き写しておいたんだ。
『かくも恐るべき陰謀は、アトレウスにはあてはまらずとも、テュエステにはふさわしい』
フランスの詩人クレビヨンの悲劇『アトレウスとテュエステス』(1707年)からの引用だよ」
(p.115)
次に、小川高義訳。![]()
「いや、まあ----広げたら白紙だったというのもどうかと思ってね。そんなことをしたら失礼ではないかと-----。Dという男には、いつぞやウィーンで、手ひどい目に遭わされたことがある。まだ忘れたわけじゃありませんよと冗談めかして言っておいた。まんまと一杯食わされた大臣が、その敵は誰なのかと知りたくもなろうから、まったく手がかりを残さないのは気の毒だ。あいつなら僕の筆跡はわかるはずだと思って、紙の真ん中に、ある引用を書きつけておいた。
-----かくも凶悪なる謀(はかりごと)
アトレにはともかく、ティエストには似つかわしい
クレビヨンが書いた復讐譚に出てくる文句だよ」
(p.196-7)
最後に、河合祥一郎訳を。![]()
「なに----中身を白紙にしておくわけにはいかないと思ったんだ----失礼じゃないか。D大臣は、あるときウィーンで、僕にひどいことをしてね。そのとき、まったく気さくに、このことは忘れませんよと言ってやった。というわけで、自分を出し抜いた相手は誰なのだろうと大臣はきっと知りたいと思うだろうから、手がかりくらい与えなきゃ可哀想じゃないか。大臣は僕の筆跡はよく知っているので、白紙の真ん中にこう記しておいたのさ----
----Un dessein si funeste,
S'il n'est digne d'Atree, est digne de Thyeste.
[ かくも禍々しきたくらみ、
アトレウスにふさわしからずとも、テュエステースには相応の恨み ]
クレビヨンの悲劇『アトレ』の文句だよ」
(p.244)
はてさて、三者三様の訳を好みでどれか選ぶとすれば、どうなるだろうか。。。![]()
<エドガー・アラン・ポーを読む・・・!>・・・60