次に、ポーによる原文と、昭和初期生まれの二人の訳をみよう。![]()
"Why----it did not seem altogether right to leave the interior blank----that would have been insulting. D------, at Vienna once, did me an evil turn, which I told him, quite good-humoredly, that I should remember. So, as I knew he would feel some curiosity in regard to the identity of the person who had outwitted him, I thought it a pity not to give him a clew. He is well acquainted with my MS., and I just copied into the middle of the blank sheetthe wordes----
" ' ----- -----Un dessein si funeste,
S'il n'est digne d'Atree, est digne de Thyeste.'
They are to be found in Crebillon's 'Atree.' "
(p.222)
では、丸谷才一訳を見てみよう。![]()
「うん・・・・白紙のままにして置くのも気がひけたから・・・・やはり失礼だろうよ、それは。D**は昔ウィーンで、ぼくをひどい目にあわせたことがある。そのときぼくは上機嫌で、このことは忘れませんよ、と言ってやった。だから、いったい誰に出し抜かれたかを知りたいだろうと思ってね。せめて手がかりぐらいは与えてやらなくちゃ、かわいそうだもの。あの男は、ぼくの筆蹟はよく知っているんだ。ぼくは真白な紙の真中にこう書いて置いた。
こういう恐ろしい企みは
ティエストにはふさわしい。アトレにふさわしくないとしても。
クレビヨンの『アトレ』のなかの句だよ」
(p.263-4)
次は、冨士川義之訳だ。![]()
「うん-----中身を白紙のままにしておくのも礼儀にかなっていないような気がしたものだからね-----それではかえって無礼というものだよ。D----は昔ウィーンで、ぼくを厭な目にあわせたことがあるんだ。そのときぼくは、ひどく気さくに、このことはいつまでも忘れませんよ、と言ってやったんだ。それで、彼を出し抜いた人物の正体を何とか知りたいだろうと思って、せめて手がかりくらいは与えてやらなくちゃ可哀そうだと思ったのさ。彼はぼくの筆蹟をよく知っているから、白紙の真ん中にこんな言葉を書きつけておいたのだよ-----
これほどひどいはかりごとは
アトレにはふさわしくないとしても、ティエストにはふさわしい。
クレビヨン(十七世紀から十八世紀にかけてのフランスの劇作家『アトレ』は復讐悲劇)の『アトレ』のなかにある文句だよ」
(p.662)
御大二人の訳はいずれも見事かな。![]()
<エドガー・アラン・ポーを読む・・・!>・・・59