マンボウのブログ

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フラヌールの視界から、さまざまな事象に遊ぶ

次は、この部分である。チョキ

 

 

  5 宿屋のおかみのセリフ

 

 

先ずは、定評ある平井呈一訳では、こんなイカした訳だ!びっくり

 

 

 「そなた、とうとう決心がつきやったの。よかったのう。うれしく思いますぞ」

    (中略)

 「どうじゃ、いっしょにすこし歩いてみようかの。今宵はみなが駆けるほどに、そのまえにちと稽古をしておきましょうぞ。---イルゼ、イルゼ、ちゃっと来や。早う!」

                     (平井呈一訳:p.206-7)

 

 

では、他の訳も見てみよう。

 

 

 「そう。とうとう決心がついたのね。よかった。うれしくおもいます」

    (中略)

 「ねぇ、いっしょに歩いて来ましょう。今夜は、みんなでかけるのだから、その前に、すこし練習しておかなければ---イルゼ、イルゼ、おいで。はやく!」

                     (西條八十訳:p.95)

 

 

 

 「とうとう決心がつきましたか。それでよい。私はうれしく思いますぞよ」

    (中略)

 「いっしょに歩いてみようかの? 今宵はみなで駆けるのじゃから、そのまえにちと練習しておかねばならん。---イルゼ、イルゼ、ここへ来や、早う!」

                     (紀田順一郎訳:p.45)

 

 

 

 「やっと心が決まりましたか。結構ですね。嬉しゅうございます」

    (中略)

 「ちょっと散歩でもなさいませんか。今晩はみんなであそこに行くので、その前に足慣らしをしておきませんとね。イルゼ、イルゼ、こちらにいらっしゃい、早く!」

                     (植松靖夫訳:p.141)

 

 

 

 「おお! お客さま、やっとお心を決めてくださいましたのね、うれしいですこと」

    (中略)

 「ご一緒に少し踊りましょうか? 今夜はかの地に赴きますので、その前に足慣らしを。イルゼ、イルゼ、あなたもいらっしゃい。早くよ!」

                     (夏来健次訳:p.63-4)

 

 

 

 

訳語では、「稽古」「練習」「足慣らし」という違いや、「今宵」「今夜」「今晩」というちょっとした違いもあり、それぞれの訳者の工夫も見られるかな。。。

 

 

 

この部分はフランス語で書かれている(喋っているのがフランス人だから)ので、その原文を挙げておこう!

 

 

 「Enfin!  M'sieur s'est donc decide.  C'est bien alors.  J'en suis contente.」

    (中略)

 「On pourrait faire un p'tit tour ensemble, n'est-ce pas?  Nous y allons cette nuit et il faut s'execer un peu d'avance pour cela.  Ilse, Ilse, viens donc ici, Viens vite!」

                     (p.112) 

 

 

 

ブラックウッドの原文はあくまで英文で書かれているので、フランス語の訳は、平井訳のような工夫が秀逸だろうて!

 

 

 

 

 

   <萩原朔太郎「猫町」を巡って!>・・・4

では、この人気作の冒頭部の翻訳比較から始めるとしようか!チョキ

 

 

 

 ① 「古い魔術」

 

   どうも世の中にはこういう人があるらしい。まったく平々凡々な人で、異常な出来事などに会いそうな性質はどこにもない。

                                (西條八十訳:p.41)

 

 

 ② 「猫町」

 

 よく世間には、およど奇事・奇談なんてものには縁の遠そうな、見るからにボソッとした、目に立たない平凡な人間が、その無為磊々たる一生のうちにいちどや二どは、世人があっと息をのむような、柄にもない不思議な体験をして、しかも当人はケロリンカンとしている、というようなことがよくあるものだ。

                                 (平井呈一訳:p.144)

 

 

 ➂ 「いにしえの魔術」

 

 この世の中には、どこから見ても凡庸なタイプの人間が、一見異常な体験などには無縁のようでいながら、じつはその平穏無事な生涯の間に一度か二度は、他人が聞いたらハッと息を呑むような種類の出来事に遭遇しており---しかも当人自身は知らぬ顔の半兵衛をきめこんでいる、という例がある!

                                 (紀田順一郎訳:p.9)

 

 

 ④ 「古えの妖術」

 

 どうやら世の中には波風の種になりそうな個性などいっさいない、まったく面白みのない人物というのもいるらしい。

                                 (植松靖夫訳:p.91)

 

 

 ⑤ 「いにしえの魔術」

 

 冒険に巻きこまれたりすることなどついぞなさそうな、個性的なところのないごくありふれた人物であっても、その平凡な生涯のなかで一度や二度は、世間の人々が聞けば息も止まろうかと思える---それどころか目さえそむけたくなるような---体験をしている場合があるものだ。

                                 (夏来健次訳:p.8)

 

 

 

 

冒頭の部分を並べてみて気づくのは、随分と訳が異なるなあという感慨である!

 

 

 

 

 

   <萩原朔太郎「猫町」を巡って!>・・・3

それでは、日本語訳が十指に余るといわれる人気作であるブラックウッドの日本語訳を並べてみよう!チョキ

 

 

 本「古い魔術」(創元推理文庫 2018)西條八十訳

      (東雅夫編「猫のまぼろし、猫のまどわし」所収 p.39-115)

 

 本「迷いの谷」(創元推理文庫 2023)平井呈一訳

                          所収 p.144-228

   

 本「妖怪博士ジョン・サイレンス」(国書刊行会 1976)紀田順一郎訳

                          所収 p.7-58

 

 本「心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿」(創元推理文庫 2009)植松靖夫訳

                          所収 p.89-159

 

 本「いにしえの魔術」(アトリエサード:書苑新社発売 2018)夏来健次訳

                          所収 p.

 

 

ざっと、手元に集まった本(そのコピー)だけでも、これだけの翻訳が入手できる。口笛

 

 

ちなみに、訳者を生年順に並べてみよう。

 

   デニム西條八十(1892-1970)

   デニム平井呈一(1902-1976)

   デニム紀田順一郎(1935-2025)

   デニム植松靖夫(1953- )

   デニム夏来健次(1954- )

 

 

 

こうして、生年順に並べてみると、明治期生まれから、昭和戦前、戦後生まれと多岐にわたるのが窺えるわ(翻訳タイトルが違うのも興味深い)!グラサン

 

 

 

 

   <萩原朔太郎「猫町」を巡って!>・・・2