音と香りにみちびかれて・・・『源氏物語』「後朝の別れ」を読む! | マンボウのブログ

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またまた、こんな本を図書館から借りてきた。チョキ

 

 

   『源氏物語』「後朝の別れ」を読む 画像1

 

本吉海直人「『源氏物語』 「後朝の別れ」を読む」(笠間書院 2016)

 

 

メモ<内容>

共寝した男女が翌日に別れることを意味する、「後朝の別れ」。それは闇の中で行われた。これまで、その時間帯が注目されることはなかったが、それではあまりにももったいないので、これまでの「常識」をあらためて検討し直す。
恋物語において〈別れの時刻〉として機能するその大事な時間帯は、聴覚や嗅覚の描写によって、男女の別れ際の心の機微が表出されている。ここから物語の読みを深めていく。
聴覚や嗅覚の重要性を、前著『「垣間見」る源氏物語』(笠間書院)で指摘したが、それは「後朝の別れ」でも応用可能である。本書では「暁」を告げる時計代わりの「鶏鳴」・「鐘の音」や、嗅覚に訴える「移り香」の重要性を丁寧に検証した。本書は『「垣間見」る源氏物語』の姉妹編ともいうべき書である。

【 「後朝の別れ」とは、共寝した男女が翌日に別れることを意味する。「きぬぎぬ」とは、その際に互いの下着を交換するという古代の習俗に基づく表現である。それに連動して、帰った男から送られる手紙のことを「後朝の文」という。
 平安朝の恋物語において、そういった「後朝の別れ」は枚挙に暇のないほど描かれている。しかしながら、どうしても逢瀬の方ばかりが重視され、別れの場面----特にその時間帯が注目されることはあまりなかったのではないだろうか。それはある意味常識的事項だったので、あらためて検討することを怠っていたからである。(序章より)

 

 

<目次>

序章 後朝の別れ─闇のなかで

Ⅰ 後朝の風景

第一章 後朝の時間帯「夜深し」
 1 問題提起 小松論について
 2 辞書的意味の検討
 3 「夜深し」の広義と狭義
 4 『源氏物語』の「夜深し」
 5 「夜深く出」でる光源氏
 6 「鶏鳴」と「夜深し」
 7 「暁の鐘」と「夜深し」
 結 「夜深し」は暁の始め頃

第二章 女性たちへの別れの挨拶─須磨下向へのカウントダウン
 1 問題提起
 2 『源氏物語』の手法としての時間の枠組み
 3 出発までに何日かかったか
 4 出発前の分析(その1)
 5 出発前の分析(その2)
 結 午前三時前の出発

Ⅱ 音がみちびく別れ─聴覚表現

第三章 人妻と過ごす時─空蝉物語の「暁」
 1 発端
 2 後朝以前
 3 暁の迎え
 4 曙の源氏
 5 三度の紀伊守邸来訪
 結 暁の重要性

第四章 庶民生活の騒音─夕顔巻の「暁」
 1 問題提起
 2 聴覚情報
 3 暁の時間帯
 4 暁の逃避行
 結 暁の聴覚情報

第五章 大君と中の君を垣間見る薫─橋姫巻の「暁」
 1 「垣間見」再考
 2 暁の宇治行
 3 月と霧の「垣間見」
 4 薫の芳香
 5 宿直人は薫の分身
 結 暁の垣間見

第六章 契りなき別れの演出─総角巻の薫と大君
 1 薫と大君の疑似後朝
 2 暁の時間帯
 3 椎本巻の解釈
 4 月の記憶
 5 従者達の苦労
 結 擬似後朝

第七章 牛車のなかですれ違う心─東屋巻の薫と浮舟
 1 「おほどき過ぎ」た浮舟
 2 浮舟を抱く薫
 3 牛車の活用
 4 宇治への道行き
 結 すれ違う心

Ⅲ 香りの物語─嗅覚表現

第八章 「なつかし」と結びつく香り
 1 はじめに
 2 「なつかし」き空蝉の〈人香〉
 3 和歌における「なつかし」
 4 「なつかし」と「移り香」・「かうばし」の結合
 5 橘と「なつかし」
 6 橘以外の「なつかし」
 結 嗅覚の「なつかし」

第九章 男性から女性への「移り香」
 1 問題提起 「移り香」の初出
 2 黒須論の再検討
 3 方法としての嗅覚
 4 「移り香」の用例
 5 『源氏物語』の特徴
 結 私案提起

第十章 漂う香り「追風」─源氏物語の特殊表現
 1 問題提起
 2 「追風」の本義
 3 「追風」の用例(順風の継承)
 4 和歌への転移
 5 若紫巻の「追風」
 6 源氏物語の特殊な「追風」
 7 源氏物語以後の「追風」
 結 嗅覚の「追風」

第十一章 感染する薫の香り
 1 はじめに
 2 誕生時の薫
 3 「かうばし」
 4 芳香は薫の分身
 5 「移り香」
 6 匂宮の「匂い」
 結 薫の芳香

第十二章 すりかえの技法─擬装の恋物語
 1 〈すりかえ〉の論理
 2 〈すりかえ〉によるあやにくな恋物語展開
 3 源氏物語の〈すりかえ〉
 4 夕顔巻の〈すりかえ〉
 5 浮舟物語と〈すりかえ〉
 結 擬装の宇治十帖



初出一覧
あとがき

 

<著者>

ジーンズ吉海 直人(ヨシカイ ナオト)

昭和28年7月、長崎県長崎市生まれ。國學院大學文学部、同大学院博士課程後期修了。博士(文学)。国文学研究資料館文献資料部助手を経て、現在、同志社女子大学表象文化学部日本語日本文学科教授。
主な著書に『源氏物語の新考察』(おうふう)平15、『源氏物語の乳母学』(世界思想社)平20、『「垣間見」る源氏物語』(笠間書院)平20、『源氏物語〈桐壺巻〉を読む』(翰林書房)平21、などがある。

 

 

詳細な目次だけで、紙数も多く費やしてしまったので、本文からの引用は控えて、感想だけを述べることにしたい。

 

「音」と「香り」という視覚以外の視点に新鮮さを感じたけど、煩瑣な本文の叙述には閉口したというのが偽らざる思いである。「鶏鳴」という音で明くる日になり後朝の別れとなる。暁という時間帯は午前三時頃で、どの季節であれ真っ暗な夜中だ。なので、視覚に頼らず聴覚が研ぎ澄まされるのは頷けるけど、音の描写としては貧弱な気もする。香りにしても、例えば料理・食事などの言及もない(メモ『源氏物語』中に食事の記述が少ない事は有名であり、物語の記述から、具体的に食卓を描く事は至難の業となる。)。なので、「音」と「香り」という感覚の視点は予想よりも限られた叙述に終始した感がする。ガーン

 

「源氏物語」に関するさまざまな本を手に取ってみた中で、この本は正直なところ楽しめなかったわ!バイバイ

 

 

まあ、ネット時代となった現代においても、味と香り、肌触りは伝えられないことを思うと、古代の言葉だけで叙述するのにも限界があろうて。ニヤリ

 

 

   メモ・・・「源氏物語」にとって、春は<始まり>と<始まりの終わり>の、夏は<動揺>の、秋は<たゆたい>と<終わり>の、冬は<終結>と<始まりの萌し>の、ときであった。・・・(後藤幸良「伊勢物語と四季」 p.256)

 

 

であった。季節の移り変わりをそこはかとなく描いたのも「源氏物語」だったのだろうか。。。花火

 

 

 

 

   <「源氏物語」を愉しむ!>・・・補遺8