さてさて、「ヘンリー六世」三部作の結末は、如何に・・・
イングランド歴史上、稀なる<ばら戦争>は、こういう風に推移したのだった!
<赤ばらランカスター家>と<白ばらヨーク家>との因縁の対立抗争が、目まぐるしく攻守入れ替わる。
「ヘンリー六世」(第三部)
(白水Uブックス)
ここでは、温和なヘンリー六世(その寛容さは、クリフォードによって揶揄される・・・第二幕第二場)に代わって、アマゾネス風に闊歩するマーガレット王妃が主役っぽい活躍で、惹きつけるなあ・・・
ヨーク公によって、喝破される王妃の描写を引用してみよう(第一幕第四場)。
ヨーク: フランスの雌狼め、いや、フランスの狼もおよばぬ、
マムシの牙以上の毒を舌にふくんだ人でなしめ!
それでもおまえは女か! 武運つたなくして
捕らわれの身となったものの不幸を見くだし、
アマゾンの売女のように勝ち誇っておるとは!
おまえの面の皮が悪事に慣れてぶ厚くなっており、
仮面のように顔色一つ変えなくなっているのでなければ、
傲慢な妃め、その面を真赤にさせているところだぞ、
おまえの生まれ、血筋を言うだけでも、恥を知るなら
恥じ入って顔を赤らめるにたるほどの恥となるはずだ。
・・・(中略)・・・
美貌はとかく女を傲慢にする、ところが
おまえにはだれが見たって美貌のかけらさえない。
貞節はつねに女を賞賛の的にする、ところが
おまえはその逆であるがゆえに驚嘆の的なのだ。
・・・(後略)・・・ (p.42-4)
さらに、エドワード(後のエドワード四世)によっても、罵倒される・・・
エドワード: この恥知らずな女におのれを知らしめるものは、
額にのせる冠ではなく、額に押しつける淫売婦の焼き印だ。
かりにおまえの夫をメネレーアスに譬えるとしても、
その妻ギリシアのヘレンはおまえよりはるかに美しかった、
・・・(中略)・・・
ところがそいつは乞食女をベッドに引きずりこみ、
おまえの貧乏おやじをただで王の舅にしてしまった、
・・・(後略)・・・ (p.69-70)
見事な罵倒ぶりで王妃マーガレットが敵視されている。
それに比して、ヘンリー六世は、ひとりで貧しい羊飼いの身を羨むのだ(第二幕第五場)。
この対比は、第三部を通じて、通奏低音のように響いている。
だが、この終末をも予告できない作品での、真の悪役は、リチャード(のちのリチャード三世)であったのだ!
第三幕第三場での台詞は、読み応えあるなあ・・・
リチャード: ああ、エドワードはどんな女でも丁重にあつかうだろう。
そして骨の髄まで悪い病気で朽ちはてるがいいんだ、
その腰から天まで伸びそうな枝を生い茂らせて、
おれの目指す黄金時代への道をじゃまされてはかなわん!
・・・(中略)・・・
残忍さにかけてはマキャベリさえおれの弟子だ。
そのようなおれが、王冠一つとれんというのか?
ばかな! 引きはがしてでもこの手にせずにおくものか。
(p.107-11)
この不気味とも思える長い独白で、王冠を秘かに狙う「リチャード三世」が描写されている。
しかも、彼は、容姿などさまざまなコンプレックスに苛まれた男であったのだから、この決意には思わず背筋がゾッとするなあ・・・!
フィナーレ迫る第五幕第六場で、王ヘンリーがリチャードに向けた台詞に耳を傾けてみよう!
王: ・・・(前略)・・・
おまえが生まれたときフクロウが鳴いた、不吉な前兆だ、
夜鳴き鳥が騒いだ、不幸な時節到来の予告だ、
犬が吠えた、恐ろしい嵐が樹々を揺さぶり倒した、
・・・(後略)・・・ (p.193-4)
やはり、この続きは、是非とも「リチャード三世」を読まずばなるまい・・・
<シェイクスピア生誕450周年に寄せて!> ・・・ 46 (13)