いやはや、何とも皮肉っぽいタイトルの「コシ・ファン・トゥッテ」は、モーツァルトのオペラの中の佳品だ。
四大オペラには入るけど、三大オペラ(「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「魔笛」)になると洩れてしまう「コシ」は、ダ・ポンテ三部作の最後を飾る喜劇である。
ストーリーは簡単で、愛の交叉する物語で、まあ「フィガロの結婚」の別バージョン(フィナーレの目出度し目出度し!)のリメイクと考えてもいいかもしれない。しかし、舞台上での変化には乏しい。
序曲の、次々と現れる木管楽器による目まぐるしい上昇音階と下降音階が、このオペラの喜劇性を伝えているようだ。
登場人物は、6名(男女各3名)で、こうやってみたら、もしかして、別の男女のペアが出来るのかも、っていうちょっと皮肉に皮肉を重ねたお遊びバージョンの喜劇仕立てで、現代にも通用する男と女の世界の入り乱れたコラボレーションを楽しむ、また、苦笑をもって迎えるってことになる。
これまでに残された録音の中で、今でも決定盤の誉れ高い、カール・ベームの新旧両盤を聴いてみよう。
ひとつは、フィルハーモニア管を指揮したスタジオ録音(1962年録音)で、もうひとつは、ウィーンフィルとのザルツブルク・ライヴ(1974年録音)である。
二つの録音の配役は次のとおりだ。
フィオルディリージ(S)
・PO盤 エリザベート・シュヴァルツコップ
・VPO盤 グンドゥラ・ヤノヴィッツ
ドラベッラ(Ms)
・PO盤 クリスタ・ルートヴィヒ
・VPO盤 ブリギッテ・ファスベンダー
フェルナンド(T)
・PO盤 アルフレート・クラウス
・VPO盤 ペーター・シュライアー
ググリエルモ(Br)
・PO盤 ジュゼッペ・タッディ
・VPO盤 ヘルマン・プライ
ドン・アルフォンゾ(B)
・PO盤 ワルター・ベリー
・VPO盤 ローランド・パネライ
デスピーナ(S)
・PO盤 ハンニー・シュテフェク
・VPO盤 レリ・グリスト
演奏時間
・PO盤 約165分(スタジオ録音)
・VPO盤 約154分(ライヴ録音)
この配役陣を見ると、旧盤では往年の名歌手たちの円熟期(ベテランとしての時期)の録音で、新盤では、世代交代した新たなメンバーによる当時の新世代の録音ということに思い至るのだ。わずか十数年の間に様変わりしたオペラ歌手世界の推移を見て取ることも可能だ。
フィルハーモニア管とのベーム旧盤では、クラウスにしてもシュヴァルツコップにしても最も輝いていたのは50年代だろうし、円熟した大人の愛の世界が聴ける演奏だ。でも、クラウスとルートヴィヒのカップルは声質的にも、なんだかヘンなコンビ・・・おそらくルートヴィヒの声質や音量が強すぎるのかもしれない。もっとチャーミングでもいいなあと思ってしまう。ベリーの哲学者は適役だろう。シュテフェクのお茶目な女中は、この作品が喜劇であることを思い起こさせてくれる名脇役ぶりを演じていて楽しませてくれる。
EMI 輸入盤のブックレットの写真が、何故かリッカルド・ムーティになっている(こんなミスもあるんだ)???
ザルツブルク祝祭大劇場でのライヴ録音は、まずはライヴの臨場感、そして輝かしいウィーンフィルの響きが楽しめるディスクである。
硬質クリスタルの響きが美しいヤノヴィッツは、カラヤンお気に入りのソプラノでワーグナーやモーツァルトなど幅広いレパートリーで一世を風靡した。
このザルツブルク・ライヴと同じ年の1974年に来日したバイエルン国立歌劇場で、クライバーの指揮でオクタヴィアン(「ばらの騎士」・・・大阪公演を聴いた!)を歌ったファスベンダーがドラベッラ役を務めている。
また、関西二期会プリマとして活躍の日紫喜恵美さんがかつてドイツで師事したことのあるグリストがデスピーナ役で、小柄で可憐なところはそっくりだ(よく似た声音だし)。
なお、パネライは悪役向きで、ちょっと哲学者には似合わない感じだなあ・・・
ベームの引き締まったタクト捌きは、新旧両盤ともに顕著で、この作品の楽しさを控えめながらも充分に伝えている。
アンサンブルが主流のオペラだけに、歌手たちの相性なども大きな要素になるところが、キャスティングの難しいところかもしれない。声の質やキャラなどを考えると、おそらく理想の配役は困難であろう。
旧盤でのルートヴィヒ、新盤でのパネライには、どこか違和感を覚えてしまうのだけど、これだけのキャストを揃えることの方が至難であろうと思えるので、いずれの演奏も聴き応えある名盤として座右に置いておきたい。![]()
<師走のモーツァルト>・・・(6)