先日友達と「紙の月」を観てきました。
宮沢りえちゃんが主演の映画です。
原作者の角田光代さんは好きな作家さんなので、もちろん原作も読んでいます。
NHKでドラマもあったようですが、それは見ていません。
原作と映画はかなり主人公の性格が違っている印象でした。
原作の梨花には同情やら共感もできたけど、映画の梨花には感情移入できませんでした。
以下、ネタバレあります
御存知ない方のために、ざっくりとあらすじを書きますと。
なんとなく夫としっくりいっていない主婦が大学生の男の子にハマり、貢ぐために勤め先の銀行で横領を重ねる。
ざっくりすぎ
銀行で、隅という先輩は生真面目で職務に熱心、相川という同僚は上司と不倫している現代っ子。
原作にないこの二人の存在が、妙にユングっぽくて面白かったです。
隅と梨花は陰陽の関係。
犯行発覚後の二人の会話が素晴らしかったです。
梨花を暴き追いつめた隅が実は梨花を羨んでいたくだりですね。
社会で生きるための縛りやしがらみ、自己抑制。
平凡に生きている私たちは、実に多くのもので自分の欲望を抑えています。
それをすべてかなぐり捨てて、自分の欲望に忠実な人間がいたら?
批判しますよね?軽蔑しますよね?社会的制裁を加えようとしますよね?
でも本音を言ったら、羨む部分も無きにしも非ずなのではないかしら。
年下の恋人とホテルのスィートルームで贅沢三昧の数日を過ごしてみたい。
そんな本音を見越して「あなたもそうでしょう?」と突きつけてくるような迫力ある場面でした。
相川はトリックスター、梨花の秩序を壊そうとする。
梨花に罪悪感があるようには見えなかったけれど、日常を維持する秩序はあったので。
劇中で流れる音楽もとてもよかったです。
しっとりと明るいようで悲しみを感じさせる旋律。
こんな生活がいつまでも続くはずはない。
それは大学生の男の子や主人公だけでなく、観客である私たちも知っていること。
だからこそ、悲しい終わりしか待っていない刹那の幸せをイメージさせる音楽がピッタリでした。
梨花と大学生の場面はセックス描写が多用されていました。
濃厚でPG12がうなづける描写。
りえちゃんのスタイルの良さと美しさはため息ものでした。
が、それはそれ。
二人を結ぶものはセックスであって、会話や心ではなかったように感じました。
梨花は彼に愛されたがっていたのだろうか?
それ以前に、梨花は彼を愛していたのだろうか?
答えはNo!
梨花は彼を使って、自分の欲望を満たそうとした。
それは、性欲かもしれないし、女としての承認欲求かもしれない。
病的な「与えたい」欲求かもしれないし、少女時代に成就し損ねた「施し」の代償かもしれない。
いずれにしろ、満たしたいものは彼女サイドの何かであって、彼の成長を願っての行動ではない。
梨花の「与えたい」「施したい」願望の強さは理解不能。
そのためには、父親のお財布から一万円札を数枚抜き取ることに罪悪感のなかった少女だったし、顧客を騙して数千万の横領も重ねる。
強い動機があれば、手段を択ばないのだろうか?
与えられてばかりの人生だったから、与えたがりの子供になっていたのだろうか?
その罪悪感のなさが同情・共感できない部分なんだと思う。
申し訳ないと思いつつ「ごめんね、ごめんね」と心で思いながらの犯行と、どういう理屈が働くのか人の気持ちに無頓着な犯行。
理解しがたいのであります。
逃走する梨花とオーバーラップするように大学生が映る。
年相応の恋人と年相応のデートを楽しそうにしている。
笑顔が自然で、恋人といるのが本当に幸せそうだ。
お金はなくても、愛があれば幸せなんだぜ
とでも言いたげなシーンです。
ラストシーン。
梨花が死んだと思っていた「施し相手」の少年に出会う。
少年はもう少年ではなく、強くたくましく優しいお父さんになっていた。
貧しいながらも幸せそうである。
その時の梨香の表情が印象的でした。
「生きていたの!?」
自分が幸せにしてあげたかったのに、大きな力にさえぎられて断念した行為。
死んでしまったのだと自分にずっと言い続けていた少年。
その少年が大人となり幸せに生きている。
「あなたの施しがなくとも幸せになれる」
彼女の芯になっている部分を一気に崩すような場面をりえちゃんが実に上手に演じていました。
そして、少年だった男の幼い娘は彼女からリンゴを受け取ることを拒みました。
これも実に象徴的でした。
男の娘は彼女からの「善意のようなもの」を拒絶したのです。
それにしても気の毒なのは梨花の夫です
多少、自己中心的で思いやりの足りないところはあるかもしれない。
でも自己中心的な考えが全くない思いやりが完璧な人間はあまりいないでしょ?
梨花の夫だって、十分普通の人の範疇だし、見方によっては結構いい人です。
仕事熱心で海外に単身赴任して出世できそうなその時に、妻が横領して行方をくらますなんて。
それを演じているのが田辺誠一さんというところが何とも
かっこいい犬スタンプを買いたくなってしまいます