東京45年【96-3】根津
1986年3月 25才
『ねえ、司。私が至らなくても、何でも言ってね』と玲が言った。
『ああ、そのつもりだし、何でも言っているよ』と俺。
『だけど、インドの話はしてくれなかったわ』。
『ああ、ごめん。家計に影響が無いと思って、言い忘れていたんだ。ごめんな』と俺が言った。
『そうだ。思い出した。古田が、思いもよらない拾い物があったと喜んでいたぞ。あと、インドの件で連絡をくれる様にとの伝言だ』と副会長。
『分かりました。ありがとうございます』と俺。
『でも、司。あんな事をいつの間にやっていたの???』と玲。
『それは。。。。研究室で、最近、教授からの無茶振り課題が無くなって、
本ばかり読まされていて。。。。それで図書館でビジネス書とかを借りて
読んでいて、それに田中と電話したり、分からない事を手紙で書いたりしてて。。。
まあ、そんな感じだったな』と俺。
『で、進めたのは、あなた達二人だけでやったの?』と玲。
『まあ、そうだな。。。こっちからタタ財閥に提案して、
まあ、それは田中がプランを練ったから。。。。俺は意見を言っただけだよ。
あとは、タタ財閥と田中が話し合って、それで。。。。
ああ、それと、俺がヨーロッパの知り合いを通じて、株主と仕事は集めたって
感じかな。。。で、田中がそっちと具体的に話を詰めてGOって事だ』
『本当に年間40億ルピーになるの?』と玲。
『ああ、そうだよ。ソフトウェアー開発が月で300人月で、
一人150万円の請負だから、月4.5億だからな。
それにハードウェアー設計もやっるからそのくらいに
なるだろうな?なんせ6社とやるからな』と俺。
『そんなビジネスを立ち上げるのに、サラリーマンもやるの?』
『だって、そうしないと、その道のプロと知り合う機会が無いだろう?』
『三菱電機は知り合いを増やす為なの???』
『いやあ、それだけじゃないけど、友達は多い方が良いだろう?』
『ねえ、あなたのやってる事ってサラリーマンじゃないわよ。分かってるの?』
『だから、言っただろう?俺は、みんなが言う普通のサラリーマンにはならないって。。。それに仕事だろう?仕事は金を稼ぐ事だろう?だから、基本は一緒だ』
『一緒じゃないわよ。ソニーでそれをやろうとしたら、100人体制で、2年掛かりで構築するのよ』と玲。
『それを、たった二人で、しかも、半年くらいで契約して、もう開発を始めたって考えられないわ』と続けた。
『それは、上手く行ったからだよ。でもさ、ビジネスって物語を作るのと一緒だよな。。。山登りもそうだしさ』
『ああ、あなたの山を理解しようとしてきて、それでも分からずに、最近、朧げに分かってきて。。。。で、今度はサラリーマンだから分かり易いと思っていたのに、いきなり、そんな事をするなんて。。。。。ああ、副会長。何か言って下さい。私は言葉にならないです。助けて下さい』と玲。
『いやあ、私もこいつの思考回路が分からないな。だけど、玲子さん。頼もしいじゃないか。あははは』と副会長。
『奥様、彼は浮気はしないですけど、こういう所が理解不能なんです。助けて下さい』
『でも、明らかに玲子さんは楽しんでいるでしょう?それで良いんじゃないかしら。だって、女は男の謎を解くのが好きな生き物でしょう?あははは。。。私は仕事は良く分からないけど、ホントに楽しいですよ』と奥さん。